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「...王太子殿下、どうしてお姉様と婚約を?」

4人乗りの馬車に乗ったのですけれど、私はお姉様と共に並んで座りましたわ。
本来ならばパートナーと隣に座るのですけれど、突然の王太子殿下との婚約に動揺しているお姉様が、今日は王太子殿下のお隣ではなく私のお隣が良いと仰いましたのよ。
いきなり王太子殿下のお隣では、緊張してしまうのですって。
やはり、お姉様は可愛らしいわ。

さて、今しか出来ないだろう質問をしておきましょう。
ウフフ、王太子殿下の返答次第ですけれど...王太子殿下と言えども許しませんわよ?
私の大切なお姉様なのですから。

「ん?マーガレット嬢を、初めてお会いしたときに見初めていたからですよ?

あれは、ミルフィーユ嬢が初めて参加した王妃主催の子供だけのお茶会での出会いでした。
実際は、私の婚約者探しの為のお茶会だったのですけれどね?
マーガレット嬢はミルフィーユ嬢と手を繋いで、髪は白いレースのリボンを用いて耳の上で2つに結い、柔らかい黄色のふんわりとしたドレスというお揃いの格好をしておりましたね...それが、とても可愛らしかったのですよ。
いつも2人で一緒に動いていて、とても愛らしい双子だなと...微笑ましくも感じました。
双子ではなく姉妹だと聞いたときには、本当に驚きました。
お2人はとてもそっくりでしたから。

そして、2人でご挨拶に来てくださったとき、伴侶はこの方しかいないと確信しました。
ですので、王妃様に頼んだ筈でした...
『私の婚約者には、マーガレット・シフォン伯爵令嬢を据えてください。
それ以外の方は候補にすらなりません。』
と。
それなのに、グリスフィルドの子息が...あいつもあのときのお茶会でマーガレット嬢に目を付けたようでしてね?
強引に、そして堂々と伯爵家へと脅しまでして、マーガレット嬢を手に入れてしまったのです。
まぁ...私に意見を聞いてからの王妃の動きが、殊の他遅かったのも原因です。
ですから、これまで沢山暴れ抵抗させていただきました。
王家の子供は私だけですので、廃嫡されるギリギリの所まで...ですけどね?」

「まぁ!そうでしたの??
グリスフィルド侯爵家に関しては、王家ならば如何様にも出来そうですけれど...王妃様は何もなさいませんでしたのね?
我が家が、取るに足らない程度の伯爵家だからかしら?
ウフフ、今頃、王妃様は慌てておられるかもしれませんわね。」

王太子殿下の語られることに、お姉様が驚いておられますわ。
ウフフ、王太子殿下の熱い目線から離れようとなさっておいでなのですけれど、お姉様?馬車は狭いのですから、無理なさらないでくださいませね?
とは言え、私ももう少し距離を欲しておりますわ。
だって、王太子殿下は私の目の前なのですもの...焦げてしまいそうですわね。

にこやかに...けれど目だけは剣呑に、あいつ・・・だなんて聞こえて参りましたけれど、そうね、私の心の安寧のためにも聞かなかったことにいたしましょう。
王太子殿下のご返答に、私はとても安心いたしましたわ。

「いえ?王妃様には、将来王妃としたいご令嬢がいたらしいのです。
是非に私に、その方を見初めさせようとあのときのお茶会は開かれたのだと......先週、王妃様を問い詰めたときに話してくださいました。
今は、大人しく謹慎なさっておられますよ。」

王妃様を問い詰めるだなんて、何がありましたの?
いいえ、やっぱり怖くて聞けないわ。
それに、王族のことに巻き込まれるのは面倒でしかありませんものね。

「フフフ、大丈夫ですよ?
私は、貴女達のお父上と共に動いておりましたから。

グリスフィルドの子息は、お茶会の際にマーガレット嬢を見初めた筈でしたが...婚約者の妹として接したミルフィーユ嬢に、突然懸想し始めました。
ミルフィーユ嬢には、仲睦まじい婚約者がいる身でしたのに...馬鹿ですよね。」

さらっと毒づかれる王太子殿下は、お姉様を見つめて幸せそうに微笑んでおられますのよ。
王太子殿下に微笑まれて、戸惑いつつも頬を染めて恥じらうお姉様が可愛らしいわ。

ハァ...それにしても、あのグリスフィルドのご子息様は相も変わらず気持ち悪いわね。
けれど、父様が今日決着を着けると仰いましたもの...もう少し我慢いたしますわ。





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