思い付き短編集

神谷 絵馬

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竜の愛し子の番。1

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「いいかい?マリシア?
ここで一度礼をしたら、左を向いて真っ直ぐ歩くんだよ?
それから、あちらの端っこで、振り返って一度礼をしてから外に出ること。」

「はい!ととしゃま!」

さっきから、ずーっと同じこと言ってるよ?
中に入ったら一度礼をしてから歩き出して、端っこに来たらまた礼をしてから外に出るんでしょ?
ちゃんと分かってるよ?
とと様過保護過ぎ。

「あそこには綺麗な竜が沢山いるけど、勝手に触っては駄目だからね?」

「はい...。」

それも、まぁ...分かってる。
竜は、とても気高い生き物だもんね。
勝手に触ったりして、竜に怒られるのも嫌だけど、もしもとと様が罰を受けたりしたらそれが一番嫌!

だって、双子が産まれて、可愛くないし要らない方として捨てられた私を引き取って愛してくれたのはとと様だけだもの。

「後で、ユージーンに、ハルベストに触らせてもらえるか聞きに行こうね。」

「はい!
ユーおじしゃまもハルくんも、げんきかなぁ?」

「うん、元気にしてるみたいだよ?」

「よかったー。」

とと様のお友達だと紹介されたユーおじ様は、ここ王宮で近衛騎士をしているらしくって、とっても逞しくって優しい人。
会う度にいつもニコニコしていて、走って飛び込む私を抱っこすると掲げ持つようにしてからクルクルと回るの。
赤茶のツンツンとした短髪に、うっすらと青い灰色の瞳でくしゃっと笑うユーおじ様が大好きなの!

ハルベストというのはユーおじ様の愛馬というか相棒のペガサスで、体毛が雪のように白くって瞳は深い青なの。
首のつけ根の辺りにはうっすらと青い翼があって、空を飛べるらしいのだけど...何故か翼を使って私の頭を撫でるのよね。
稀に、ハルくんを撫でるために抱き上げてくれるユーおじ様から、翼を器用に使って私を抱き止めて引き離されることもあるの。
そういうときはね?
ハルくんのお友達のペガサス達とも遊んだり出来る日らしくって、私、5頭と仲良くなれたのよ?

「マリシア?そろそろ順番だよ?」

「はい!ととしゃま!」

「マリシア・レ・ボルシレア男爵令嬢ですね?」

「はい!」

「では、中にどうぞ。」

「はい!はいります。」

係員の方に名前を確認されて、肯定しながら先生に習ったカーテシーをする。
すると、疲れた様子だった係員の方が少しだけ微笑んでから、中に入るようにと促されたの。
フゥー、緊張してきたかも?しれないけど、大丈夫。
きっと、無事に終わるわ。

4歳になったばかりの私の背丈よりも高い生垣の切れ目から中に入ると、まずは一礼。
うわぁ、竜が沢山いるなぁ......さて、歩こう。
皆、尻尾でベタンッベタンッと地面を軽く叩いてるみたいだけど、どうしたのかな?
なんとなく気になってチラッと右を見てみたら、あれ?なんか近くない?かな?
やっぱり、大抵の竜は人間が嫌いらしいから結構遠くにいるなぁ?って思ってたんだけど?あれ?なんで?

「......?」

[愛し子ー!いい子見っけたよー!]

青いシャラシャラとした鱗の、がっしりとした大きめな体格の竜さんは、声も大きめでした。
比喩でなく地面が揺れている、轟くような声の持ち主です。

[この子が良いよ!この子にしよう!]

テカテカと光る緑の鱗の、全体的にほっそりとした骨張った竜さん。
私の頬にヒヤリと冷たい鼻先を擦り付けてきて、なんだかくすぐったい。

[やだ!可愛いじゃない!]

発光しているみたいに鮮やかなオレンジの鱗の筋骨粒々な竜さんは、自分の頬に手を当ててクネクネしてるの。
声も女の人のだし、とっても鍛えられた身体だけど雌だったの?

[ほら、愛し子?]

光沢のない黄緑の鱗の、比較的小さめな竜さんに抱っこされてます。
私を横抱きにして誰かに見せるように動いたんだけど、そこには誰もいないよ?
誰に見せようとしたの?

[あれ?愛し子?]

黄緑の鱗の竜さんの隣では、なんだかプルプルした感じの桃色の鱗の、こちらも比較的小さめなどちらかというと小太りな印象の竜さんが、右頬に手を当ててキョロキョロと周囲を見回してるの。
桃色の竜さんもオレンジの竜さんと同じで、雌みたいだね。
それにしても、誰を探してるんだろ?
竜さん達、さっきから愛し子って言ってるよね?





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