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13章
盛り上がる男
「これ、田吾作と会ってくれたらプレゼントしようと思ってたんだけど」
井村がDVDを渡してきた。
「?? これなんですか?」
「見てみて」
リビングでそれを再生して見ることにした。随分古い映像のようで画質が荒い。
「これ……うち?」
見覚えのある部屋は、自宅だ。一体どういうことだろう。画面を食い入るように見つめていると、これまた見覚えのある人が出てきた。
「お父さん……?」
若い。横にはベビーベッドがある。
父は赤ん坊──つまり千紗をしばらくいとおしそうに抱っこしてあやしたあと、ベッドに戻して、ギターを手に取った。
「これね、この娘のために作曲したんですよ。すごくいい出来だから残したくてね。この子の幸せを願って作りました」
照れくさそうに笑うと、ギターを弾きだす。
ゆったりとしたテンポの、優しい調べ。聞いている人の心に寄り添うような温かくて切なく哀愁の漂うイントロ。
中盤から転調し、力強く感情を一気に放出させるかのようなメロディ。
一音一音がきらめき、意思をもっているようだった。
赤ん坊の寝かしつけに聞かせるには、あまりにドラマチックな曲だ。
「これ、知ってる」
聞いたことがある。幼い頃の記憶が蘇る。
きっと昔父が千紗に聞かせたことがあるのだろう。
曲が終わると、赤ん坊がちょうど泣きだして、父はギターを置いて抱っこした。
「おーよしよし。お前にはまだこの曲の良さはわからんかな?」
娘を見る優しい目。柔らかな声が千紗の心に沁みる。
画面越しに父親の目がこちらを向く。まるで今でも自分を守ってくれているような気がした。感情が堰を越えたように、抑えきれなくなる。
親子の失われた時間を閉じ込めた短い映像を見て、千紗は泣いていた。
「どうしてこの動画を?」
「これね、今みたいに動画サイトとかがない時代にお父さんが自分の個人サイトに上げてたみたいなんだ。もうすっかり埋もれてたんだけど、無駄に培ったネットストーカー技術で発掘してしまったんだ。ごめん。余計なことして泣かせちゃったね」
井村が千紗の頬を流れる涙を拭った。
「うっ、うわぁああ」
「ごめん……」
「ち、ちが。嬉しくて」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を井村の胸に押し付けて、千紗はむせび泣いた。
千紗の幸せを願って作ったという曲が頭から離れない。
「ありがとう……お父さんの曲、見つけてくれて」
「いい曲だったから、どうしても見せたかった」
「はい」
ソファに座ったまま、抱き合い、キスをした。
「今、井村さんと田吾作さんが繋がった……」
「よかった」
甘く優しい声が今は心地よい。
答える代わりに、井村の背にぎゅっとしがみついた。
「今までよく一人で頑張ったね」
「うっ」
「もうこれからは一人じゃないから。無理しないで泣きたい時は泣いていいよ」
涙でぐちゃぐちゃになった千紗を抱きしめて、井村はそう言った。
「もっと早く渡せたらよかったんだけど、遅くなってごめん。いきなり俺が渡しても説明しきれないと思った。まぁ正直ちょっと気持ち悪いことしてる自覚はあったから」
ぐちゃぐちゃになった心を慰めるように、井村はずっと抱きしめてくれた。
自然と唇が合わさる。
何度も何度も。背中に手を回し、しがみつく。
今はこの温もりに甘えてしまってもいいような気がした。
「千紗ちゃん……」
「井村さん……」
見つめ合い、心の隙間を埋めるように強く抱き合う。
「寝室連れて行ってもいい?」
いくらモテないとはいえ、その意味するところがわからぬほど千紗も幼くはない。
答える前に、井村は千紗を抱き上げ、寝室のベッドへと運んだ。
「ひぁっ」
ベッドに下され、そのまま覆いかぶされる。これからなにをするのか、理解し、身をすくめた。
嫌というわけではない。井村が好きだと思う気持ちはもう自分でも認めるしかなかった。
だが、こういう場合どうしたらいいのか、全く分からない。
そもそも急展開すぎる。
「大丈夫だよ。多分……優しくする。一生大事にするから」
そんな簡単に一生を誓っていいのだろうか。首筋に熱い唇が当たり、肌を吸う。
井村がDVDを渡してきた。
「?? これなんですか?」
「見てみて」
リビングでそれを再生して見ることにした。随分古い映像のようで画質が荒い。
「これ……うち?」
見覚えのある部屋は、自宅だ。一体どういうことだろう。画面を食い入るように見つめていると、これまた見覚えのある人が出てきた。
「お父さん……?」
若い。横にはベビーベッドがある。
父は赤ん坊──つまり千紗をしばらくいとおしそうに抱っこしてあやしたあと、ベッドに戻して、ギターを手に取った。
「これね、この娘のために作曲したんですよ。すごくいい出来だから残したくてね。この子の幸せを願って作りました」
照れくさそうに笑うと、ギターを弾きだす。
ゆったりとしたテンポの、優しい調べ。聞いている人の心に寄り添うような温かくて切なく哀愁の漂うイントロ。
中盤から転調し、力強く感情を一気に放出させるかのようなメロディ。
一音一音がきらめき、意思をもっているようだった。
赤ん坊の寝かしつけに聞かせるには、あまりにドラマチックな曲だ。
「これ、知ってる」
聞いたことがある。幼い頃の記憶が蘇る。
きっと昔父が千紗に聞かせたことがあるのだろう。
曲が終わると、赤ん坊がちょうど泣きだして、父はギターを置いて抱っこした。
「おーよしよし。お前にはまだこの曲の良さはわからんかな?」
娘を見る優しい目。柔らかな声が千紗の心に沁みる。
画面越しに父親の目がこちらを向く。まるで今でも自分を守ってくれているような気がした。感情が堰を越えたように、抑えきれなくなる。
親子の失われた時間を閉じ込めた短い映像を見て、千紗は泣いていた。
「どうしてこの動画を?」
「これね、今みたいに動画サイトとかがない時代にお父さんが自分の個人サイトに上げてたみたいなんだ。もうすっかり埋もれてたんだけど、無駄に培ったネットストーカー技術で発掘してしまったんだ。ごめん。余計なことして泣かせちゃったね」
井村が千紗の頬を流れる涙を拭った。
「うっ、うわぁああ」
「ごめん……」
「ち、ちが。嬉しくて」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を井村の胸に押し付けて、千紗はむせび泣いた。
千紗の幸せを願って作ったという曲が頭から離れない。
「ありがとう……お父さんの曲、見つけてくれて」
「いい曲だったから、どうしても見せたかった」
「はい」
ソファに座ったまま、抱き合い、キスをした。
「今、井村さんと田吾作さんが繋がった……」
「よかった」
甘く優しい声が今は心地よい。
答える代わりに、井村の背にぎゅっとしがみついた。
「今までよく一人で頑張ったね」
「うっ」
「もうこれからは一人じゃないから。無理しないで泣きたい時は泣いていいよ」
涙でぐちゃぐちゃになった千紗を抱きしめて、井村はそう言った。
「もっと早く渡せたらよかったんだけど、遅くなってごめん。いきなり俺が渡しても説明しきれないと思った。まぁ正直ちょっと気持ち悪いことしてる自覚はあったから」
ぐちゃぐちゃになった心を慰めるように、井村はずっと抱きしめてくれた。
自然と唇が合わさる。
何度も何度も。背中に手を回し、しがみつく。
今はこの温もりに甘えてしまってもいいような気がした。
「千紗ちゃん……」
「井村さん……」
見つめ合い、心の隙間を埋めるように強く抱き合う。
「寝室連れて行ってもいい?」
いくらモテないとはいえ、その意味するところがわからぬほど千紗も幼くはない。
答える前に、井村は千紗を抱き上げ、寝室のベッドへと運んだ。
「ひぁっ」
ベッドに下され、そのまま覆いかぶされる。これからなにをするのか、理解し、身をすくめた。
嫌というわけではない。井村が好きだと思う気持ちはもう自分でも認めるしかなかった。
だが、こういう場合どうしたらいいのか、全く分からない。
そもそも急展開すぎる。
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そんな簡単に一生を誓っていいのだろうか。首筋に熱い唇が当たり、肌を吸う。
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