49 / 49
エピローグ
未来へ
「ちょっと今日の演奏、力みすぎちゃったかな……」
配信後、千紗がつぶやくと即座にコメントが並ぶ。
"Hello, I'm living in Singapore. I saw your street performance the other day and subscribed to your channel. Keep up the great work! I'm rooting for you."
「え、こっちの人も見てくれてるんだ。最近外国語の書き込み増えたなぁ」
『よかったよー。癒された』
『清楚な着物もよし。以前の過激なやつもたまに見たくなるけど』
『路線変えてもついてくよ』
『タマさんの演奏見て、私も楽器習い始めました』
『日本に戻ってきたらコンサートしてほしいなぁ』
こちらに来て数か月。最近になり、動画配信業を再開した千紗だった。以前のような露出したコスプレはやめて、着物を着てやるようになった。
海外の日本オタクのファンも増えて、地道に活動を続けていた。
そして──一度はやめた動画配信を最近また始めたのだ。
引退詐欺と言われないかびくびくしていたが、大半は歓迎するコメントで溢れた。露出はもうしない代わりに、着物を着たり、露出控え目のコスプレに路線を変更した。
衣装がおとなしくなった分、技術は磨いているつもりだ。
爆発的に伸びることもないが、安定してファンは増えている。
「お疲れ様。明日休みだし、バルコニーで一緒に飲もう」
夫となった井村が、ワインとおつまみをもってやってきた。
今はシンガポールのコンドミニアムに二人で住んでいる。夜景を見ながら風を感じて食べる夜食は最高だった。
「カプレーゼサラダと、野菜スティックにアボガドのディップ」
「相変わらずハイセンスですね。聞きなれないカタカナばかり」
「千紗ちゃんの好きなたこわさもあるよ。あともつ煮」
「なんか浮いてるけど和が恋しいから嬉しい」
「もう半年かぁ」
「まだ半年って感じだな。結婚式のあと、叔父さんの下ネタを酔った千紗ちゃんが止めてカオスだったのが懐かしい」
「お義母さんとお義父さん呆れてませんでしたか?」
「うちの親お笑い好きだから大丈夫」
「いやあれウケを狙ったわけでは……」
「ところで、例のプロジェクト、千紗ちゃんのおかげで順調だよ。苦手なのに人前出る仕事やってくれてありがとう」
井村のプロジェクトに関係して、こちらのTV番組に出演したりもした。表に立つことはまだ苦手だが、今まで自分が世の役に立つようなことをしたことがなかったから、たまたま回ってきた使命だと思い、精一杯頑張ることにした。
千紗が出演した動画の広告収益の一部が奨学金に充てられ、話題になり、取材も多数受けることになった。支援の輪は広がり、海外協賛企業も徐々に増えて国際的な取り組みになりつつある。
基金は順調に増えて、来年からそのお金で学校へ通う子が出てくるという。
「いえ……私みたいな日陰者でも世の役に立てるなら、一肌でも二肌でも脱ぎますよ」
「いや、もう脱がないでね。ちゃんと着てても人気あるんだし」
「そういう意味では……。田吾作さん時代から、お世話になりっぱなしで、少しでも恩返しができれば、嬉しいです。私を選んでくれて、ありがとうございます」
「どうしたの? 突然」
「なんかやっぱり、出会えてよかったなって。最初はなんか意識高い系の苦手なタイプだと思ったんだけど、全然違いました」
「はは。千紗ちゃんどっか抜けてるから、ほっとけないなとは最初に会った時思ったよ」
夫婦仲ももちろん良好で、要するに、順風満帆で幸せな日々を送っている。借金やらいじめやら、炎上やらでどん底だった日々も今となれば懐かしい。
それに自分の力で逆風を乗り切った経験は千紗の自信になった。
「やっぱり井村さんは運がいいんですよね。いい風を呼び寄せるというか。不運続きの私も付き合ってから運気UPしてるし」
「そうかな。そうだといいけど」
「あと……今日通知が来て、試験受かりました」
「おめでとう。受かるとおもったよ」
高校を途中でやめた千紗だったが、こちらの音楽専門学校に通えることになった。語学がかなりネックだったが、井村に毎晩教わりなんとか合格できた。
「あと、お正月に帰国したらまたアイさんとコラボすることになって。キュービッド役したんだからそれくらいしてよねって言われました」
「お世話になったからなぁ。アイさんと千紗ちゃんなら、タイプ違うから引き立て合えるしいいんじゃないかな」
「楽しみなことが増えちゃってなんだか忙しい……。前は貧乏暇なしって感じの忙しさだったけど今は充実してます。この世に希望なんてありはしないって気分の時もあったのに、なんでか今は世界は光に満ちているような気がします」
「そうか。よかった」
「あっ、見て花火」
と
千紗は立ち上がり、バルコニーに手をかけて夜空を見上げた。轟音とともに夜空に色とりどりの大輪の花が咲く。
遠くから歓声が湧きおこるのが聞こえた。普段の夜景とはまた一味違う楽しさがあった。
「なにかイベントなのかな」
身を乗り出して花火を見る千紗の肩を井村が抱いた。
「きれい。私の人生にこんなに素敵な夜が来るとは思わなかったな」
「これからも続くよ。続けよう」
美しい夜景の上で花火が散る。涼やかな夜風が二人を心地よく包んだ。
美しい光が咲いては、また散っていく中。穏やかな時間を過ごす。夜景を眺めながら、千紗は幸せそうな表情で夫となった人の肩にもたれた。彼は彼女を優しく抱きしめ、互いの温もりを感じながら、幸せを噛みしめていた。
配信後、千紗がつぶやくと即座にコメントが並ぶ。
"Hello, I'm living in Singapore. I saw your street performance the other day and subscribed to your channel. Keep up the great work! I'm rooting for you."
「え、こっちの人も見てくれてるんだ。最近外国語の書き込み増えたなぁ」
『よかったよー。癒された』
『清楚な着物もよし。以前の過激なやつもたまに見たくなるけど』
『路線変えてもついてくよ』
『タマさんの演奏見て、私も楽器習い始めました』
『日本に戻ってきたらコンサートしてほしいなぁ』
こちらに来て数か月。最近になり、動画配信業を再開した千紗だった。以前のような露出したコスプレはやめて、着物を着てやるようになった。
海外の日本オタクのファンも増えて、地道に活動を続けていた。
そして──一度はやめた動画配信を最近また始めたのだ。
引退詐欺と言われないかびくびくしていたが、大半は歓迎するコメントで溢れた。露出はもうしない代わりに、着物を着たり、露出控え目のコスプレに路線を変更した。
衣装がおとなしくなった分、技術は磨いているつもりだ。
爆発的に伸びることもないが、安定してファンは増えている。
「お疲れ様。明日休みだし、バルコニーで一緒に飲もう」
夫となった井村が、ワインとおつまみをもってやってきた。
今はシンガポールのコンドミニアムに二人で住んでいる。夜景を見ながら風を感じて食べる夜食は最高だった。
「カプレーゼサラダと、野菜スティックにアボガドのディップ」
「相変わらずハイセンスですね。聞きなれないカタカナばかり」
「千紗ちゃんの好きなたこわさもあるよ。あともつ煮」
「なんか浮いてるけど和が恋しいから嬉しい」
「もう半年かぁ」
「まだ半年って感じだな。結婚式のあと、叔父さんの下ネタを酔った千紗ちゃんが止めてカオスだったのが懐かしい」
「お義母さんとお義父さん呆れてませんでしたか?」
「うちの親お笑い好きだから大丈夫」
「いやあれウケを狙ったわけでは……」
「ところで、例のプロジェクト、千紗ちゃんのおかげで順調だよ。苦手なのに人前出る仕事やってくれてありがとう」
井村のプロジェクトに関係して、こちらのTV番組に出演したりもした。表に立つことはまだ苦手だが、今まで自分が世の役に立つようなことをしたことがなかったから、たまたま回ってきた使命だと思い、精一杯頑張ることにした。
千紗が出演した動画の広告収益の一部が奨学金に充てられ、話題になり、取材も多数受けることになった。支援の輪は広がり、海外協賛企業も徐々に増えて国際的な取り組みになりつつある。
基金は順調に増えて、来年からそのお金で学校へ通う子が出てくるという。
「いえ……私みたいな日陰者でも世の役に立てるなら、一肌でも二肌でも脱ぎますよ」
「いや、もう脱がないでね。ちゃんと着てても人気あるんだし」
「そういう意味では……。田吾作さん時代から、お世話になりっぱなしで、少しでも恩返しができれば、嬉しいです。私を選んでくれて、ありがとうございます」
「どうしたの? 突然」
「なんかやっぱり、出会えてよかったなって。最初はなんか意識高い系の苦手なタイプだと思ったんだけど、全然違いました」
「はは。千紗ちゃんどっか抜けてるから、ほっとけないなとは最初に会った時思ったよ」
夫婦仲ももちろん良好で、要するに、順風満帆で幸せな日々を送っている。借金やらいじめやら、炎上やらでどん底だった日々も今となれば懐かしい。
それに自分の力で逆風を乗り切った経験は千紗の自信になった。
「やっぱり井村さんは運がいいんですよね。いい風を呼び寄せるというか。不運続きの私も付き合ってから運気UPしてるし」
「そうかな。そうだといいけど」
「あと……今日通知が来て、試験受かりました」
「おめでとう。受かるとおもったよ」
高校を途中でやめた千紗だったが、こちらの音楽専門学校に通えることになった。語学がかなりネックだったが、井村に毎晩教わりなんとか合格できた。
「あと、お正月に帰国したらまたアイさんとコラボすることになって。キュービッド役したんだからそれくらいしてよねって言われました」
「お世話になったからなぁ。アイさんと千紗ちゃんなら、タイプ違うから引き立て合えるしいいんじゃないかな」
「楽しみなことが増えちゃってなんだか忙しい……。前は貧乏暇なしって感じの忙しさだったけど今は充実してます。この世に希望なんてありはしないって気分の時もあったのに、なんでか今は世界は光に満ちているような気がします」
「そうか。よかった」
「あっ、見て花火」
と
千紗は立ち上がり、バルコニーに手をかけて夜空を見上げた。轟音とともに夜空に色とりどりの大輪の花が咲く。
遠くから歓声が湧きおこるのが聞こえた。普段の夜景とはまた一味違う楽しさがあった。
「なにかイベントなのかな」
身を乗り出して花火を見る千紗の肩を井村が抱いた。
「きれい。私の人生にこんなに素敵な夜が来るとは思わなかったな」
「これからも続くよ。続けよう」
美しい夜景の上で花火が散る。涼やかな夜風が二人を心地よく包んだ。
美しい光が咲いては、また散っていく中。穏やかな時間を過ごす。夜景を眺めながら、千紗は幸せそうな表情で夫となった人の肩にもたれた。彼は彼女を優しく抱きしめ、互いの温もりを感じながら、幸せを噛みしめていた。
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。
紫月あみり
恋愛
※完結! 焚き火の向かい側に座っているのは、メディアでも話題になったイケメン会社経営者、藤原晃成。山奥の冷えた外気に、彼が言い放った。「抱き合って寝るしかない」そんなの無理。七時間前にお見合いしたばかりの相手なのに!? 応じない私を、彼が羽交い締めにして膝の上に乗せる。向き合うと、ぶつかり合う私と彼の視線。運が悪かっただけだった。こうなったのは――結婚相談所で彼が私にお見合いを申し込まなければ、妹から直筆の手紙を受け取らなければ、そもそも一ヶ月前に私がクマのマスコットを失くさなければ――こんなことにならなかった。彼の腕が、私を引き寄せる。私は彼の胸に顔を埋めた……
丁寧なご感想ありがとうございました!
参考になります。
ヒロインのキャラが濃くなりすぎて
しまいましたが楽しんでもらえたら
幸いです!