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7章―B ー消墨編ー
177.休みと用意
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喰墨の襲来から一週間程度経ち、このアスト大陸も落ち着きを取り戻しつつあった。
エサラ「失礼します。」
椅子に座って少し休んでいると、エサラが扉をノックして部屋に入ってきた。
エサラ「具合はどうですか?」
サニイ「いつでも復帰できる。俺よりも心配するべき人達が居るだろ?」
エサラ「嘶と抗ですか?彼らなら…もう大丈夫でしょう。目立った外傷も無いですし、精神的にも成長されました。」
サニイ「そうか。それなら無理をした甲斐があったというものだ。」
エサラ「……もうやめてくださいよ…?またコードさんに呼ばれますよ?」
サニイ「確かに、今回に至っては反省すべき点もある。……喰墨を逃がす羽目になったから。だが、それ以上に得たものは大きいから良し。」
エサラ「不幸中の幸いですね。また手を交えることになりそうですね……。」
サニイ「その時は必ずトドメを刺す。あれを野放しにするのはやや危険だ。奴がマインダーを裏切ろうが、敵対することにはなるだろう。」
エサラ「警戒は必須ですね。…私ももっとお役に立てるように精進します。」
サニイ「ああ、励め。」
手に持っていた資料を机の上に置いて、彼女は部屋を後にした。
サニイ「伝言忘れてるじゃん……やっぱ色々あって皆疲れてるんだな……。」
そう呟きつつ、俺は机の上の資料を手に取った。そこには邪力に関する情報がまとめられていた。それは見覚えのないテイアウトだった。
サニイ「ありがとう……嘶、抗。」
それは彼らが作ってくれたものだということは、すぐに分かった。エネルギーの性質を理解することは新たな技術の習得に繋がるため、本当にありがたい。
嘶「……。」
抗「……。」
エサラ「どうしたんですか?今朝からずっと無言で虚空を見つめて……」
基地の外にある岩に座って空を見つめる二人にエサラは声を掛けた。すると抗は意識を向けて口を開いた。
抗「エサラか。……溜まった疲れを取っている嘶に付き添いをしている…といったところだ。」
エサラ「そうですか。ゆっくり休んでくださいね。」
抗「ああ。……そういえば、邪力の資料は渡したか?」
エサラ「はい。さり気なく置いておきました。これでいいんでしたよね?」
抗「ああ。俺も……置いていかれないように技術の向上に努めないとな……」
彼がそう言うと嘶の集中力も戻り、ナイフを取り出した。
嘶「お供しよう。」
抗「ああ、頼む。」
そう応えながら抗も斧を取り出して、二人は開けた場所へと飛んでいった。
エサラ「二人とも、もう心配いりませんね。」
ラビリンスの大木の幹にて、コードとレイズが会話をしていた。
コード「ウォーム・クラスと暴食が対面したようだ。残念ながら、ヴェレラインと同様に回収されてしまったみたいだが……」
するとレイズが首を横に振った。
レイズ「それ以上に、得られたものは大きそうだよ。落ち着いたら顔を出すってサニイが言っていた。」
コード「報連相ありがとな。」
レイズ「……ゼノンの方はどうなったの?」
コード「ああ。……宣戦布告のテレパシーがゼノンを通じて流された。」
レイズ「……持つの?」
コード「…分からない。ただ、早めに手は打つべきだろう。ひとまずは、英雄の帰還を待つ。それまでに情報を掻き集める。これが最善だろ?」
レイズ「そうだね。彼らが旅先で七代思想宗派を撃退していることも充分に考えられるし、わざわざ回収したんだから戦力を温存したいように思える。僕達にとっても調整期間として都合が良い。」
コード「ああ。……しばらくの間、状況管理を任せてもいいか?こっちも回収しなければならない。あのテレパシーがあるということは、当然ゼノンはバレている。」
レイズ「任せて。組織のことは気にせず、君は仲間を取り返すことに集中して。」
コード「感謝する。」
そう言って、コードはゲートを通じて何処へと消えた。
コードが何処かへと向かった次の日、レイズはウォーム・クラス本部へと訪れた。
レイズ「やぁ、サニイ。」
サニイ「マーリンから聞いたぞ。コードは遠征に行ったらしいな。」
レイズ「派遣したスパイが捕まったから救出に行くそうだよ。……今日僕が訪れたのには理由がある。」
サニイ「……喰墨の件だろ…?」
レイズ「そうだよ。……気が付けば、英雄の帰還まで近くなっている。実感は全くないけどね。」
サニイ「ここら一帯の時間の流れと結界外の時間の流れはかなりの差があるからな。外基準だともう三年経つのか。」
バブルの管理下にある地域には“時軸隔離”という時空操作結界が貼られていて、外界より時間の流れを遅くしているのだ。
結界内に居る間、動植物の寿命にも影響を与えるため、延命や治療において役立っている。
レイズ「時の流れは早いものだね。僕達にはその感覚もよく分からないけど……」
サニイ「人間にとって三年は一つのカウントになるには充分過ぎる。俺達がゆっくりし過ぎていた節はあるが、かなり手間を掛けさせられた。」
そんな世間話が済み、レイズは本題に話を戻した。
レイズ「それで喰墨のことだけど、邪種の起源を辿ってみると、やっぱり嘶や抗より以前から人々を脅かす存在であったよう。宗派分散の際に彼らは作られた。…つまり“あの時代”を生き延びる実力を持ち合わせていたって事だ。」
サニイ「……身を潜めていた連中が続々と動き出してきたな。」
レイズ「それも見越してこの数年、戦力の拡大を急いでいたんだけどね。一旦は英雄待ちになるかな。」
サニイ「まぁ何も進んでいない訳じゃないしな。合流までは今後の戦いのために休息を取るのが一番だろ。」
レイズ「そうだね。…では、僕はこの辺りで。天都の友人に会いに行かないと。」
そう言い残してレイズは飛び立った。
サニイ「そうか……もう三年なのか。世の中、悍ましい能力者だらけだな……そんな人々がぶつかる戦い………俺の願いは…何処まで届くだろうか。」
そう口に零して、サニイは建物の中に戻っていった。
窓もない古びた遺跡の中、一人の男が訪れて大量に並ぶ棺桶の一つを開いた。
喰墨「……。」
Cos/35「おはようございます。…その姿の方がお似合いですよ喰墨。……と、聴こえていませんね。貴方の自我は……“消炭”にされたのですから。」
一切の反応も示さない喰墨は立ち上がり、Cos/35の後ろをついて遺跡を後にした。
7章ーB 消墨編 完
次回 8章 静夜の駆け引き編 開幕
エサラ「失礼します。」
椅子に座って少し休んでいると、エサラが扉をノックして部屋に入ってきた。
エサラ「具合はどうですか?」
サニイ「いつでも復帰できる。俺よりも心配するべき人達が居るだろ?」
エサラ「嘶と抗ですか?彼らなら…もう大丈夫でしょう。目立った外傷も無いですし、精神的にも成長されました。」
サニイ「そうか。それなら無理をした甲斐があったというものだ。」
エサラ「……もうやめてくださいよ…?またコードさんに呼ばれますよ?」
サニイ「確かに、今回に至っては反省すべき点もある。……喰墨を逃がす羽目になったから。だが、それ以上に得たものは大きいから良し。」
エサラ「不幸中の幸いですね。また手を交えることになりそうですね……。」
サニイ「その時は必ずトドメを刺す。あれを野放しにするのはやや危険だ。奴がマインダーを裏切ろうが、敵対することにはなるだろう。」
エサラ「警戒は必須ですね。…私ももっとお役に立てるように精進します。」
サニイ「ああ、励め。」
手に持っていた資料を机の上に置いて、彼女は部屋を後にした。
サニイ「伝言忘れてるじゃん……やっぱ色々あって皆疲れてるんだな……。」
そう呟きつつ、俺は机の上の資料を手に取った。そこには邪力に関する情報がまとめられていた。それは見覚えのないテイアウトだった。
サニイ「ありがとう……嘶、抗。」
それは彼らが作ってくれたものだということは、すぐに分かった。エネルギーの性質を理解することは新たな技術の習得に繋がるため、本当にありがたい。
嘶「……。」
抗「……。」
エサラ「どうしたんですか?今朝からずっと無言で虚空を見つめて……」
基地の外にある岩に座って空を見つめる二人にエサラは声を掛けた。すると抗は意識を向けて口を開いた。
抗「エサラか。……溜まった疲れを取っている嘶に付き添いをしている…といったところだ。」
エサラ「そうですか。ゆっくり休んでくださいね。」
抗「ああ。……そういえば、邪力の資料は渡したか?」
エサラ「はい。さり気なく置いておきました。これでいいんでしたよね?」
抗「ああ。俺も……置いていかれないように技術の向上に努めないとな……」
彼がそう言うと嘶の集中力も戻り、ナイフを取り出した。
嘶「お供しよう。」
抗「ああ、頼む。」
そう応えながら抗も斧を取り出して、二人は開けた場所へと飛んでいった。
エサラ「二人とも、もう心配いりませんね。」
ラビリンスの大木の幹にて、コードとレイズが会話をしていた。
コード「ウォーム・クラスと暴食が対面したようだ。残念ながら、ヴェレラインと同様に回収されてしまったみたいだが……」
するとレイズが首を横に振った。
レイズ「それ以上に、得られたものは大きそうだよ。落ち着いたら顔を出すってサニイが言っていた。」
コード「報連相ありがとな。」
レイズ「……ゼノンの方はどうなったの?」
コード「ああ。……宣戦布告のテレパシーがゼノンを通じて流された。」
レイズ「……持つの?」
コード「…分からない。ただ、早めに手は打つべきだろう。ひとまずは、英雄の帰還を待つ。それまでに情報を掻き集める。これが最善だろ?」
レイズ「そうだね。彼らが旅先で七代思想宗派を撃退していることも充分に考えられるし、わざわざ回収したんだから戦力を温存したいように思える。僕達にとっても調整期間として都合が良い。」
コード「ああ。……しばらくの間、状況管理を任せてもいいか?こっちも回収しなければならない。あのテレパシーがあるということは、当然ゼノンはバレている。」
レイズ「任せて。組織のことは気にせず、君は仲間を取り返すことに集中して。」
コード「感謝する。」
そう言って、コードはゲートを通じて何処へと消えた。
コードが何処かへと向かった次の日、レイズはウォーム・クラス本部へと訪れた。
レイズ「やぁ、サニイ。」
サニイ「マーリンから聞いたぞ。コードは遠征に行ったらしいな。」
レイズ「派遣したスパイが捕まったから救出に行くそうだよ。……今日僕が訪れたのには理由がある。」
サニイ「……喰墨の件だろ…?」
レイズ「そうだよ。……気が付けば、英雄の帰還まで近くなっている。実感は全くないけどね。」
サニイ「ここら一帯の時間の流れと結界外の時間の流れはかなりの差があるからな。外基準だともう三年経つのか。」
バブルの管理下にある地域には“時軸隔離”という時空操作結界が貼られていて、外界より時間の流れを遅くしているのだ。
結界内に居る間、動植物の寿命にも影響を与えるため、延命や治療において役立っている。
レイズ「時の流れは早いものだね。僕達にはその感覚もよく分からないけど……」
サニイ「人間にとって三年は一つのカウントになるには充分過ぎる。俺達がゆっくりし過ぎていた節はあるが、かなり手間を掛けさせられた。」
そんな世間話が済み、レイズは本題に話を戻した。
レイズ「それで喰墨のことだけど、邪種の起源を辿ってみると、やっぱり嘶や抗より以前から人々を脅かす存在であったよう。宗派分散の際に彼らは作られた。…つまり“あの時代”を生き延びる実力を持ち合わせていたって事だ。」
サニイ「……身を潜めていた連中が続々と動き出してきたな。」
レイズ「それも見越してこの数年、戦力の拡大を急いでいたんだけどね。一旦は英雄待ちになるかな。」
サニイ「まぁ何も進んでいない訳じゃないしな。合流までは今後の戦いのために休息を取るのが一番だろ。」
レイズ「そうだね。…では、僕はこの辺りで。天都の友人に会いに行かないと。」
そう言い残してレイズは飛び立った。
サニイ「そうか……もう三年なのか。世の中、悍ましい能力者だらけだな……そんな人々がぶつかる戦い………俺の願いは…何処まで届くだろうか。」
そう口に零して、サニイは建物の中に戻っていった。
窓もない古びた遺跡の中、一人の男が訪れて大量に並ぶ棺桶の一つを開いた。
喰墨「……。」
Cos/35「おはようございます。…その姿の方がお似合いですよ喰墨。……と、聴こえていませんね。貴方の自我は……“消炭”にされたのですから。」
一切の反応も示さない喰墨は立ち上がり、Cos/35の後ろをついて遺跡を後にした。
7章ーB 消墨編 完
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