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1章:失踪の川
8日目.霧①
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本文には、こう書かれていた。
『町を横断する川での失踪事件が多発。事故なのか事件なのかは定かでない。地方の警察で捜索をしたものの、何一つ手掛かりが掴めなかった。発生時間は午後六時から午後九時の間と予想。
捜索班より。』
「……全く…どんな神経してるんだ。」
怪事件……といったところだろうか。これを解決するためにどれだけ犠牲が払われるかなんて分からない。
別に俺の命を軽く見ているのではなく、彼は半ば信じているのだろう。俺なら真相を突き止めて帰ってこられるって。
「…そういえば、今朝の夢の光景って………」
すると、頭にある光景が浮かんだ。何の前触れもなく霧が現れ、子供を攫って晴れていった。
「正夢……なのか…いや、そんなはずがないか……。」
考えても仕方がないため、俺は眠りについた。
川の流れる音、水が波紋を打つ音。真っ暗闇で静かな空間にそんな幻聴が聴こえてくる。
意識があるのにも関わらず、それらは悪夢のように襲い掛かってきた。
ガシャン!
「……はっ!」
突如、何かが割れるような音がして俺の目は完全に覚めた。電気をつけると、花瓶が割れていた。
「あれ?おかしいな。花瓶なんて元々無かったはず………。」
花瓶の破片を片付けるためにそれを見ると、そこにはシロバナタンポポが置かれていた。
「……何何何!本当に怖いんだけど!だってこの花は……!」
__________________
そもそも、このシロバナタンポポは本来この地域には自生していないはずのもの。これを最初に見つけた時、俺は不思議な気持ちになった。
「何だ……あれは…。」
小学三年の時、下校中にそれを見つけた。川端の雑草に紛れてたった一輪で佇んでいる姿は、実に奇妙だが何処か神秘的だった。
しかし、恐怖が勝った俺はそれを摘み取る事は無かった。自然が生んだ光景に手を加えたくもなかったから。
それから、その場所はお気に入りスポットの一つになっていた。橋の真下に位置していたため、その花は風雨によって形を崩さずに保っていた。
何か嫌な事があった時、そこによく訪れては、花の様子を観察していた。誰にも気付かれないあの場所は、一人で落ち着くには最適だった。
ある日、台風が来た。それは元の風雨に上乗せされる形となり、天候は酷く荒れた。
台風が明けた次の日の早朝、俺はすぐに橋下に走った。しかし、シロバナタンポポは見るも無惨な姿へとなってしまっていた。
「そんな………」
土壌が歪み、花も周囲の草も萎れていた。追い打ちをかけるように川から水が漏れ、花弁は流され散っていく。だけど、俺にはどうすることも出来ず、ただ見ていることしか出来なかった。
__________________
俺が初めて見たシロバナタンポポは、今存在しないだろう。あれ以来、俺は河川の近くは避けていた。また、あの景色を見たくなってしまうかもしれないから。
このことは誰にも伝えてない。故に悪意を持って彼がこの話を持ち掛けた訳ではない事が分かる。不幸体質は、どんな時でも遺憾無く発揮されるのだ。
「ほんと、最悪の偶然だ………まるで俺の目を逸らしたい記憶を追体験しているみたいだ………。……?」
すると、ここに来る前のバーでの事を思い出した。
『謎を全部解明してみせたい。これは学者としての俺の意思じゃなくて、俺自身の意思として。』俺は咲淋に対してそう言った。これまで、後悔の連続だった。それを受け入れたくなくて、逃げてしまいたくて、俺は何もかも忘れようとした。だけど、心から“疑問”という霧が晴れることは無かった。
あの頃とは違う。知識も、経験も、そして言葉の重みも理解した今だからこそ、もう一度振り返らないといけない。
咲淋にも言われてしまった。『自分の行いを悔やめるなら、決意は固まっている』と。
何もせずにいたら、一生那緒を襲った崩落事故について、答えに辿り着けなくなってしまう。
「違う……俺は立ち止まるために帰ってきたんじゃない。進むために帰って来んだ。生半可な覚悟じゃないと、証明しなければいけない。夕焚に失望されてるようでは話にならない!……上等。彼からの挑戦状……受け取るよ。」
想いが爆発し、気付けばそれを言葉として漏らしていた。もう逃げない。失踪の川も、夢も、何か繋がりがあるのかもしれない。
俺は明日、早速動き始めるために、明日の仕事に取り組み始めた。
夜が明ける頃、本当なら今日やるはずだった仕事が無事に終わり、俺は情報収集を開始した。
夢なんて非現実的。信用材料になんて到底ならないが、急に現れた花瓶といい奇妙な事の連続。そもそも考えてみれば偶然で済ませるには不自然な程、俺は災難に遭っている。
そのため、信用してみる価値はあるし、他のことの手掛かりにも繋がるかもしれない。
昼頃には、河川の周りの環境調査を改めて行い、ついでに近隣住民に話を伺っていた。
「特におかしなところはない……。やはり人を介する事件なのか?」
色々調べたものの、断定材料となり得るものはなかった。近くのコンビニで買ったパンを頬張り、俺は直に来るピークの時間を待った。
午後六時丁度、本当にそれはやってきた。
「な……霧?」
突如、辺りが霧に包まれたのだ。勿論、霧が現れる条件を満たしていなければ、予兆のようなものも無かった。
不自然に、定時刻にそれは出現したのだ。それと同時に、夢の内容がしっかりと正夢だったことが明らかになった。
「……外部からじゃ何も分からなかったけど、身を持って体験すれば必ず突き止められるはず。……どのみち視界不良で引き返せないし、歩くしかない!」
そうして、「失踪の川」解明のために、左右も分からなくなりそうな霧の中を歩き始めた。
『町を横断する川での失踪事件が多発。事故なのか事件なのかは定かでない。地方の警察で捜索をしたものの、何一つ手掛かりが掴めなかった。発生時間は午後六時から午後九時の間と予想。
捜索班より。』
「……全く…どんな神経してるんだ。」
怪事件……といったところだろうか。これを解決するためにどれだけ犠牲が払われるかなんて分からない。
別に俺の命を軽く見ているのではなく、彼は半ば信じているのだろう。俺なら真相を突き止めて帰ってこられるって。
「…そういえば、今朝の夢の光景って………」
すると、頭にある光景が浮かんだ。何の前触れもなく霧が現れ、子供を攫って晴れていった。
「正夢……なのか…いや、そんなはずがないか……。」
考えても仕方がないため、俺は眠りについた。
川の流れる音、水が波紋を打つ音。真っ暗闇で静かな空間にそんな幻聴が聴こえてくる。
意識があるのにも関わらず、それらは悪夢のように襲い掛かってきた。
ガシャン!
「……はっ!」
突如、何かが割れるような音がして俺の目は完全に覚めた。電気をつけると、花瓶が割れていた。
「あれ?おかしいな。花瓶なんて元々無かったはず………。」
花瓶の破片を片付けるためにそれを見ると、そこにはシロバナタンポポが置かれていた。
「……何何何!本当に怖いんだけど!だってこの花は……!」
__________________
そもそも、このシロバナタンポポは本来この地域には自生していないはずのもの。これを最初に見つけた時、俺は不思議な気持ちになった。
「何だ……あれは…。」
小学三年の時、下校中にそれを見つけた。川端の雑草に紛れてたった一輪で佇んでいる姿は、実に奇妙だが何処か神秘的だった。
しかし、恐怖が勝った俺はそれを摘み取る事は無かった。自然が生んだ光景に手を加えたくもなかったから。
それから、その場所はお気に入りスポットの一つになっていた。橋の真下に位置していたため、その花は風雨によって形を崩さずに保っていた。
何か嫌な事があった時、そこによく訪れては、花の様子を観察していた。誰にも気付かれないあの場所は、一人で落ち着くには最適だった。
ある日、台風が来た。それは元の風雨に上乗せされる形となり、天候は酷く荒れた。
台風が明けた次の日の早朝、俺はすぐに橋下に走った。しかし、シロバナタンポポは見るも無惨な姿へとなってしまっていた。
「そんな………」
土壌が歪み、花も周囲の草も萎れていた。追い打ちをかけるように川から水が漏れ、花弁は流され散っていく。だけど、俺にはどうすることも出来ず、ただ見ていることしか出来なかった。
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俺が初めて見たシロバナタンポポは、今存在しないだろう。あれ以来、俺は河川の近くは避けていた。また、あの景色を見たくなってしまうかもしれないから。
このことは誰にも伝えてない。故に悪意を持って彼がこの話を持ち掛けた訳ではない事が分かる。不幸体質は、どんな時でも遺憾無く発揮されるのだ。
「ほんと、最悪の偶然だ………まるで俺の目を逸らしたい記憶を追体験しているみたいだ………。……?」
すると、ここに来る前のバーでの事を思い出した。
『謎を全部解明してみせたい。これは学者としての俺の意思じゃなくて、俺自身の意思として。』俺は咲淋に対してそう言った。これまで、後悔の連続だった。それを受け入れたくなくて、逃げてしまいたくて、俺は何もかも忘れようとした。だけど、心から“疑問”という霧が晴れることは無かった。
あの頃とは違う。知識も、経験も、そして言葉の重みも理解した今だからこそ、もう一度振り返らないといけない。
咲淋にも言われてしまった。『自分の行いを悔やめるなら、決意は固まっている』と。
何もせずにいたら、一生那緒を襲った崩落事故について、答えに辿り着けなくなってしまう。
「違う……俺は立ち止まるために帰ってきたんじゃない。進むために帰って来んだ。生半可な覚悟じゃないと、証明しなければいけない。夕焚に失望されてるようでは話にならない!……上等。彼からの挑戦状……受け取るよ。」
想いが爆発し、気付けばそれを言葉として漏らしていた。もう逃げない。失踪の川も、夢も、何か繋がりがあるのかもしれない。
俺は明日、早速動き始めるために、明日の仕事に取り組み始めた。
夜が明ける頃、本当なら今日やるはずだった仕事が無事に終わり、俺は情報収集を開始した。
夢なんて非現実的。信用材料になんて到底ならないが、急に現れた花瓶といい奇妙な事の連続。そもそも考えてみれば偶然で済ませるには不自然な程、俺は災難に遭っている。
そのため、信用してみる価値はあるし、他のことの手掛かりにも繋がるかもしれない。
昼頃には、河川の周りの環境調査を改めて行い、ついでに近隣住民に話を伺っていた。
「特におかしなところはない……。やはり人を介する事件なのか?」
色々調べたものの、断定材料となり得るものはなかった。近くのコンビニで買ったパンを頬張り、俺は直に来るピークの時間を待った。
午後六時丁度、本当にそれはやってきた。
「な……霧?」
突如、辺りが霧に包まれたのだ。勿論、霧が現れる条件を満たしていなければ、予兆のようなものも無かった。
不自然に、定時刻にそれは出現したのだ。それと同時に、夢の内容がしっかりと正夢だったことが明らかになった。
「……外部からじゃ何も分からなかったけど、身を持って体験すれば必ず突き止められるはず。……どのみち視界不良で引き返せないし、歩くしかない!」
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