亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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4章:想疎隔エレベーター

35日目.偶像

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__________________

 まだ私が地元を離れる前、中学生だった頃。夢野プロデューサーに出会ったことをきっかけに、私の人生は大きく動いた。







 「君はきっと光るよ。私の先見の目がそう言ってるんだ~!」

 「そう…なんですか……」

 カメラマンとして全国を歩き回っていたお父さんは、ある日夢野さんを連れて帰ってきた。
 当時、夢野さんはアイドルを引退し、プロデューサーとして芸能界に残り続けることを決意したらしい。
 お母さんが引っ越す前、夢野さんと知り合いだったというひょんな事から、彼女はしばらく私の家に滞在することになった。

 「でも、なんで私なんかを……」

 「椎名先輩の娘さんだからかな?知ってる?君のお母さん、若い頃はモデルやってたんだよ。」

 「それは知らなかったです……。それでも、私以外に他にもっといい子は……!」

 「私はね、君がいいんだよ。こんな素敵な二人の間の子だから、可能性を感じているの。それに……恋する乙女の成長速度は、計り知れないものよ。」

 「……!何処でそれを…!」

 「勘ってやつ?三十過ぎたけど、まだまだセンサーは衰えないね~。……私は君のように、頑張れる人を応援したいの。両親からの強い推薦もある事だし、どう使うかは君次第だけど、私は歓迎するよ。……ふわぁ…眠くなってきたから、また明日ね。おやすみ~。」

 そして、夢野さんは床で寝落ちした。
 引っ込み思案な私からして見ると、彼女はとても不思議な人だった。いつも酔っ払ったようにふわふわとした口調で、誰とでも仲が良い。
 尊敬できる大人かと聞かれたら素直に“はい”とは言えないけど、いい人だとは思う。



 苦悩を抱える日々に、私はいつもパンクしちゃいそうだった。ある日の下校中、友達にその様子を気づかれてしまった。

 「聖穂ちゃん最近どう?あんまり元気がないような……」

 「なーちゃん……相談聞いてくれる……?」

 「勿論!」

 「ありがとう……」

 私は那緒に悩みを明かした。アイドルにならないかとスカウトされている事や、ずっと彼のことが頭から離れないこと。今の想いを……。



 「そっか……聖穂ちゃん、可愛いから大変だよね……。」

 「か、可愛いなんて…!……私なんかよりなーちゃんの方が何倍も……」

 「そうかな?私は魅力的だと思ってるよ?貴方のこと。」

 「……でも、私はなーちゃんには勝てないよ。蓮君にとって特別な人は、ずっと君だった。私の初恋は呆気なく終わっちゃった……。……ごめん、不快に感じたよね……」

 思わず本音を口にしてしまい、私は慌てて謝罪した。
 けど、那緒は一瞬たりとも表情を変えずに、裏のない笑顔を見せていた。

 「……謝る必要ないよ。私だって、蓮斗が他の子とばかり関わって私の方を見てくれなかった時は、嫉妬してた……。“何で私じゃないんだろう”、“いつまでも幼馴染のままなのかな”って不意に思った。人間関係って難しいよね……誰かが何かを得た時、何かは誰かから失われる。皆が理想通りのハッピーエンドを迎えることは出来ないんだから。」

 「………。」

 「だけどね、それだけが幸せの形じゃないと思うんだ。また、違う形でハッピーエンドを迎えることができる。」

 「……やっぱり、なーちゃんの事を嫌いにはなれないね。ありがと、励ましてくれて…!」

 「友達ってこういうものでしょ!……全部蓮斗が悪いんだから。かっこ良すぎる蓮斗が!」

 「そうだね……蓮君は罪深いよ…!」

 私達は笑い合っていた。彼女はライバルでもあったけど、とても信頼している友達だから。相談にも乗ってくれて、雰囲気も良くしてくれる太陽のような女の子。

 「スカウトの事も迷ってるんだよね?挑戦してみるのもアリだと私は思うよ。現に貴方はいっぱい告白されてるから、可愛いさに自身を持ってもいいと思う。どう思ってるかは別としてね……」

 ほぼナンパに近い告白は正直あんまり嬉しくない。でも、好きって思われていること自体は多少嬉しいと感じている。
 夢野さんは実績もある。そんな彼女に期待の目を向けられてるなら、悪くないとも思ってしまう。

 「…アドバイスありがとう。私一人でもじっくり考えてみるね……」

 「悔いの残らないようにね!…挑戦しなかった事を後悔するのではなく、挑戦した事を後悔するパターンもきっとあると思うから。慎重にね。」

 「分かってる…。」

 「じゃあまた明日ね!」

 帰路が分かれて、私達はそれぞれ帰宅した。

__________________

 あれからアイドルになって、沢山好かれて、沢山の人を笑顔にしてきた。私は私のした選択に悔いはないと思ってる。
 だけど人気になるにつれて、次第に他の業界との隔たりを強く感じるようになっていた。
 
 『お前は永遠に一人だ。誰も本当のお前を知らない。誰も本当のお前を求めていない。』

 悪魔の囁きに、気付けば自然と耳を傾けてしまっていた。

 「……そうだよ。私は一人。誰の手も届かない。」

 『お前は人々にとって笑顔の偶像に過ぎない。疎隔された愛の偶像。』

 「言えてる……。私は所詮造り物。本当の私に需要なんてないの。」

 『お前は憎いか。あの罪深き男が。』

 「………。」

 『無言は否定できないのと同じ事。……気に入った。』

 「ッ!」

 すると突然、私の乗るエレベーターの中が黒いツタで覆われて、苔生した鎖で手足を拘束されてしまった。

 『お前は一生一人だ。その代わり、私がお前の理解者となってみせよう。……お前という偶像に人間が必要か?』

 「……要らないよ。誰もね…。」







 下降中、エレベーターが激しく揺れた。そして、突如として植物が生い茂り始めた。

 「どうなっている……黒いスノードロップ?」

 まず目についたのは床一面に広がる黒いスノードロップだ。
 その花に不思議と美しさなどは一切感じられない。悪意と心の弱さを顕著に感じてしまう。

 「これが呪花なのか……にしては量が……」

 俺がそう困惑していると、人影の声が脳に入ってきた。

 『呪いが聖穂ちゃんを拘束したみたい。その時に暗示をかけて意識空間を暴走化させた。……呪花は聖穂ちゃんの乗るエレベーターの中にある。頑張って、生きて辿り着いて…!』

 彼女から聞く限り、呪いには明確に意思があるように思える。ならば、これは悪意だ。奴は心の弱みに漬け込んだ。
 その事実に、腸が煮えくり返った。

 「あぁ……そうか。それがお前の答えか……。分かったよ、聖穂を連れて生きて帰り、いつかその正体…暴いてやるから…」

 存在か概念かも分からない元凶に対してそう怒りを口にし、俺はエレベーターを乗り換えた。
 ここまで派手に暴れられたら、もう気配で分かる。悪意を逆探知して彼女らのエレベーターを特定するのみだ。
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