37 / 60
4章:想疎隔エレベーター
37日目.縁
しおりを挟む「よく寝たなぁ……。」
気持ちのいい朝を迎えて、俺は着替えた。朝食を取りながら、俺は母と咲淋と話をしていた。
「それは、災難だったわね……」
「本当にね。エレベーターが下から上にいくほんの数秒の間で停電が起きるって…運がいいのか悪いのか……」
「何事も無くて良かったじゃない。こうして帰ってこられてるんだから。」
「母さん……まぁ…そうだね…。」
こちらの事情を把握していないため、母は意外にも楽観視している様子だった。だとしても、もう少し心配してもらいたいところだ。
俺が咲淋に目線で“後で詳しく話す”と訴えかけると、彼女は軽く頷いた。
「……そろそろ時間だ。聖穂の見送りに行かないと。」
「「行ってらっしゃい。」」
靴を履き、俺は車を走らせて待ち合わせ場所まで向かった。
駅の近くにある駐車場に到着すると、聖穂の姿が視界に入った。停車して降りると、彼女と小笠さんがこっちへ来た。
「昨日ぶりだね~。」
「ああ。……それにしても、もう帰ってしまうのか…。」
「うん…急用が入っちゃってね……。」
「私からも夢野プロデューサーに交渉してはみましたが、無理そうでした……。」
「私的にもやり残したことはないし、また機会はあるだろうしね~!」
彼女は今でも凄く忙しい。仕方がないことではあるが、互いの予定を合わせることも難しいため、名残惜しさはある。
__________________
電気復旧後、待ち望んでいた門司港レトロ展望室へと無事に到着することが出来た。
復旧したばかりのその美しい夜景に、俺達の心は釘付けになっていた。
「色々トラブルに見舞われはしたけど、無事にこの夜景を見れて本当に良かったよ……。」
そう口に零した。その後、夜景と共に空気が静寂に包まれていた。
そんな中、彼女は何処か躊躇った様子で口にした。
「蓮君は……どうして私のためにここまでやってくれたの…?確かに私が連れて行って欲しいとは言ったよ。だけど、こんなにも真摯に向き合ってくれるとは正直思っていなかったの。」
「……誰に対してもやるよ。俺の中での礼儀として……」
「本当にそれだけなの?」
どうやら、適当な誤魔化しは通用しないようだ。少しの沈黙の中彼女の目を確認すると、その本気具合がよく伝わる。
軽くため息をつき、俺は話し始めた。
「……これ以上、何も失いたくないし、後悔したくないから。日常はふとした瞬間、簡単に壊されてしまう。勿論、そこに予兆なんてない。……那緒が亡くなった時からずっと考えていたんだ。もっと“同じ時間を共有したかった”、まだ“一緒に成長したかった”と……。後悔したってやり直せないのに…それが余計に自分を追い込んでしまう。……だから、その先では二度と後悔しないように最善を尽くすと誓った。君に対してもそれは同じことだよ。」
「やっぱり蓮君はすごいよ……自分の信念をしっかりと持っていて。私ね……自分の人生に自信を持てなかったの。夢野プロデューサーや行く先々で出会った人達、そして蓮君達“大切な仲間”に私は色んなことを褒めてもらって、自信がついた、見つけられた。だけど、それはあくまでも表面上のものであって、心の底から自信を持てなかった。……気付いたらね、本音で友情を育める仲間ができなくなっちゃったの。君達と共にする時間も途絶えちゃったし……」
「そっか…それで互いに手が届かない、“隔てられた関係”と感じてしまい、心が満たされなかったと……。…その心境が顕著に現れたのがあの空間……」
彼女の想いを聞くうちに、その切実な悩みや心境に、自分を照らし合わせて感じ取っていた。それと同時に、ずっと謎だった“呪花の性質”についてもヒントを得られた気がする。
「でもね…蓮君のお陰で見失ってたことに改めて気づけたよ。本当にありがとう!」
夜景に負けず劣らずの最高の笑顔を見せて、彼女はそう感謝の言葉を口にした。
「別に感謝されるようなことはしてないよ。見えない壁に隔てられるなんて、俺も寂しいからね。」
__________________
昨日の会話を思い返して、様々な感情が込み上げてきた。
再会したあの日、表面的には昔のままだった。しかし、いざ心の内が明かされると、あの頃から変わってしまった部分も多々ある。
俺だって、自覚がないだけで客観的に見れば変わっているのだろう。良い意味でも悪い意味でも…。
「…ねぇ聖穂。」
「どうしたの?」
「俺は変わってるか……?あの時から……」
無意識に、そう口にしていた。すると聖穂は考える素振りも見せず、ありのままに言った。
「……なーちゃんが亡くなった日以来、君は人間関係に無気力で、四六時中机に向かっていたってみのりんから聞いたよ。でも、中身はやっぱりいつもの蓮君だったね。人の心を動かせる、芯の強い人。…それだけは、ずっと変わってない。私が好きだったところ……」
「そう……。」
予想外の返事に、俺の反応は塩らしくなる。自分から聞いたのに、免疫なんて無かった。
「私からも聞いていい?君から見て私は変わってるのか……」
すると、彼女はそう訊ね返してきたため、俺も率直な想いで返す。
「君が夢野さんに出会った辺りかな?少し明るくなった気がする。いつも何か怯えた様子だったのに、急にふわふわぁとした口調に変わって、マイペースになった。心に余裕が生まれたっていうのかな?実際の心境は置いておいてね……。」
「……確かに。…私が夢野プロデューサーから言われた“取り繕わなくてもいい。ありのままの君を受け入れてくれる人こそが、心友というものよ”って言葉がすごく印象に残ってて……私が彼女を追っかけようと思えたきっかけもそれだったの。」
彼女のその言葉に小笠さんは 「夢野プロデューサーは超が付くほどマイペースな人でした。歳は離れていますが、二人とも雰囲気が姉妹のようにそっくりですよ。」 と補足した。
聞いた感じだと、彼女はアイドルになって楽しそうにしているように見える。彼女の心の不安要素は、“見えない壁”だけだった。
「聖穂は今幸せ?」
そう訊くと、彼女は一切の迷いがない笑顔でこう言った。
「うん!私はもう大丈夫だよ~!壁なんてない、私も同じ人間だから!」
「その言葉が聞けて安心したよ。」
一安心したところで時計を確認すると、けっこう時間が経っていた。
「聖穂さん、そろそろ……」
「あ、そうだね。蓮君!……また会おうね、約束だよ~!」
「ああ。約束だ。」
そう言葉を交わし、聖穂は小笠さんの運転する車に乗り込んだ。
するとドライバー席の窓が開いて、小笠さんが顔を見せた。
「改めて、貴方は凄い人だと感じました。本当に大成することを祈っていますよ。」
「ありがとうございます。…聖穂達のことをよろしくお願いします。」
「はい。」
やがて車は走り出し、長く続く道路の先へと遠ざかって行った。
「応援してるよ……。」
そう小声を零し、俺も車に乗って帰路を走行していった。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる