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4章:想疎隔エレベーター

38日目.理解

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 聖穂を見送って家に到着した。

 「おかえりなさい。」

 すると、咲淋が玄関前で待っていた。

 「ただいま。……昨日のことについてだよね?」

 「ええ。君が知らないエレベーターの外のことも含めて、話したいことが沢山あるの。」

 「分かった。ついて来て。」







 俺の部屋でノートパソコンを広げて、話し合う準備が整った。
 すると、咲淋は単刀直入に訊ねてきた。

 「大規模停電の最中、何か不可解な出来事はあったの?」

 「…どうしてあったと思える?」

 「その時刻、恒夢前線に動きがあったの。蓮斗の疲れ具合的にもただ停止しただけには思えない。」

 「察しがいいな。…呪花に誘われた。進捗も多い。」

 昨日の出来事について、朝より細かいところまで話した。



 「……そういう訳で、苦労したんだ。心のすれ違いは表面上では気付けない。永眠することにならなくて良かったよ…。」

 あの空間の性質について確証が得られた情報を元にして経験した事を話すと、咲淋は何か引っかかったように考え込んだ。

 「…咲淋?」

 「あ、ごめん。……実は停電している間、強い風雨が吹き付けていたの。各所の電線がやられたみたい。今でも臨時で復旧しただけで、不安定な状態らしいよ。」

 「観測結果は?」

 「距離があり過ぎて上手く記録できなかったけど、予兆は絶対無かったよ。……だけど不思議なことに、観測できたのはほんの一瞬。均等ではなく、ピンポイントだったよ。」

 「ピンポイントだと?……地点はマーク出来てる?」

 「おおよそは……」

 そう言って咲淋は赤いマーカーが引かれている地図紙を広げて、マークされている地点を指差した。

 「地形条件もバラッバラだ……。強いていうなら、鉄塔の周囲を狙い撃ちされている………単なる情報不足かもしれないけど、これまでのことも合わせて考えてみると…不自然な事態が起こっているとしか…。」

 恒夢前線が摩訶不思議なものであることは最初から分かっていたけど、調べれば調べるほどよりそう思えてくる。
 謎が謎を呼んでいるとでも言うべきか。一向に進まないのだ。

 「ただ……一つ、まだ仮説過ぎないけど、怪しんでいることがあるんだ。」

 「……?」

 「恒夢前線は呪われいる。前に咲淋言ってたよね?“幻聴・幻覚を見せる作用があるように思う”って。」

 「…ええ。」

 「それが俺が毎回のように遭っている……“夢堕ち”と命名しようか。夢堕ちした際に意識を失って見せられている空間こそが幻聴・幻覚の正体で、それに呪いが携わっていることは分かっている。…少し強引かな?」

 これは以前夕焚に言われた“事故を誘発”する効果に通ずるところもある。恒夢前線の存在自体がそれらを引き起こしている訳じゃないとしても、やっぱり因果関係は疑える。
 
 「…実際、恒夢前線が何らかのアクションを起こしている時、知らぬ間に夢堕ちしている。意識中の感覚と現実の感覚はリンクしているみたいだし、呪いの方で生じた災いを恒夢前線という気妙な自然現象が肩代わりしているとしたら……。」

 「なるほど……辻褄を合わせられるって訳ね……。」

 こんな滅茶苦茶な考察に、咲淋は賛同してくれた。

 「賛同してくれるんだね……君の調査してきたものが、全部否定されてしまうかもしれないのに……」

 「前も言ったでしょ。“天気は不思議”って。私的には、恒夢前線の謎に科学的な答えは求めていないの。真相さえ知れればそれでいいかなー?……それに、蓮斗の仮説は信憑性が充分にあると私は思うよ。君の体質も含めて、そう言える経験はしてきてる訳だし…。」

 「流石咲淋だ……理解が凄い。」

 俺の理解者のうちの一人である彼女は、真剣にそう口にしている。まだ五年程度の付き合いだが、親友は時間の差を感じさせない。
 故郷こっちでの友人と遜色ないほどにはエピソードが濃い。

 「…最高だよ。咲淋。」

 「えへへ……」

 そう呟くと、彼女は嬉しそうに口元が緩んだ。

 「まぁ、呪いの正体すらまだあやふやなんだけどね……」

 話が一旦着いたところで、俺はある事が気になった。
 以前、彼女は意味ありげな雰囲気で彼女なりの天気への価値観を教えてくれた。過去に何かあったことは想像に難くないけど、それ以上は訊かなかった。
 
 「………今だからこそ、訊いてもいい?」

 まだそう言っただけだが、彼女は俺の意図を汲み取ったらしく、表情が一変した。

 「必死に自分の掲げた“何故”を追求する蓮斗を見て、私の心の準備もようやく整ったよ…。……私もそろそろ過去から自立したい。だから…聞いてくれる?私の経験してきたことを……!」

 「…勿論。君がそうしたように、俺が背中を押してあげるよ。」

 すると、室内は閑静な空気に包まれて、彼女は過去を話し始めた。

 
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