多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

文字の大きさ
2 / 150
Prologue

No2.Encounter

しおりを挟む
 放課後、俺はよく入り浸っている楽器店に向かった。周末で任務が無い日は、大規模テロでも起こらない限りはほとんどそこで一日を過ごしているが、平日に行くのは稀だ。

 「おっ歪君。こんな日に珍しいな。」

 「はい。旋梨の奴が勝手に待ち合わせして、本人は不在が決まっているらしいので。」

 「それは災難だったな。あいつ昔からそういうとこあるからね。」

 彼はこの店を経営している「羽崎 浩一」さんだ。サイレンスと繋がりのある元構成員だったが、もう四十代過ぎて戦線離脱した。実は、俺達に稽古を着けていた人物でもある。

 「そう言えば四人分で予約して三人で来てる嬢ちゃんが居るんだけど、その人達か?」

 「は?あいつマジで鬼畜すぎだろ。」

 誰と待ち合わせるかは聞かされていなかったが、まさか女子三とは思うはずがない。
 別にコミュ障で話せない訳では無いが、俺の指導は理解に苦しむとよく言われる。そんな俺を一人で行かせるとは俺はあいつに嫌われているのだろうか。

 「はぁ……仕方が無いか。引き受けたのも俺だしな、いや…強引だったか。」

 思考を東京湾に沈め、俺は練習部屋の扉を開いた。









 「二十三秒遅刻ですよ。……てか紫藤さんは?」

 「……不在。」

 そう答えると、ベースを持った女は、溜め息をついた。

 「まさか、引き受けた張本人が来ないとはね……。」

 「まぁいいじゃん。私達は良い指導者が見つかれば、それでいいんだし、聖薇さんも紫藤さんと肩を並べるギタリストでしょ?」

 「凛ちゃんに同感…です。」

 その後も、彼女達は俺を完全に忘れているかのように会話を続けていた。埒が明かないので、申し訳ないが割り込んだ。

 「あ、あの。俺は君達を知らないから、自己紹介をお願い出来ます?」

 そう声を掛けると、彼女達は今思い出したかのような反応をした。後、これまで自覚は無かったが、俺はコミュ障だったようだ。カタコト過ぎて思い出したくない。

 「ごめんね。呼んどいて勝手に盛り上がっちゃって。私は「夏咲 凛」。ドラム担当だよ。って言っても始めて数ヶ月の初心者だけど。」

 「私は「朝乃 真依」。ベース担当。しょ、初心者…。」

 「「佐久間 波瑠」です…。ギターを担当してます…。始めて間もない初心者です…。」

 まさかの全員初心者だった。俺は暗殺者としての才能だけでなく、色々な分野で恵まれていて、約四年間任務の片手間で活動し、評価されるギタリストになった。
 しかし、感覚派で説明力が欠落している為、指導して欲しいなら他を当たった方が良いと言われる始末だった。……羽崎さんに。

 「俺は聖薇 歪。旋梨と同じバンドでやらせてもらっている。旋梨は不在で代わりに説明力欠落者だが、今日の所はそれで許してくれ。」

 「はい!よろしくお願いします。」

 凛はなんか妙に食いつきが良いが、二人は反応が少し悪い。やっぱり俺だからだろうか。
 というか、知識はあるにしろ、ギタリストがドラマー志望に教える程、腕は無い。凛の食いつきが良くても困る。
 そんな事を思いつつも、大体3時間位は指導した。







 指導していて分かったが、呑み込みが相当速い。より良い講師が着けば、プロ入りもそう遠くは無さそうだった。

 「思ったよりいけるな。指導者によっては化けるかもな。」

 「はい!ありがとうございます!」

 褒めると凛は元気にそう言った。二人は変わらず無口だが、態度は非常に真剣であり、彼女達の本気が伺えた。

 「では、俺はこの辺で失礼します。」

 そう言い残して俺はドアノブに手を掛けようとすると、凛が俺の腕を掴んだ。

 「………どうした?」 

 「あの、連絡先…交換しませんか?」

 急展開すぎて何が起こっているか理解が追いつかない。…というよりは理解を諦めている。
 果たしてサイレンス最強暗殺者がこんな思考回路で良いのだろうか。

 「…別に構わないけど。」

 俺はそう口に零し、スマホを見せた。

 「ありがとうございます!」

 交換を終えると、彼女はとても喜んでいた。

 「ほら凛。早く帰るよ。」

 凛は真依に引っ張られるままに、楽器店を後にした。

 「あ、ありがとうございました。」

 そう言って、波瑠も彼女達についていった。
 俺は羽崎さんのパシリで軽く清掃をしてから、自宅にへと帰った。
 
 今日はやけに疲れた。しばらくは寝ていたい気分だ。なので帰ってきて俺は、すぐに寝た。







 翌日、目覚めてからスマホに通知が何件か入っている事を確認し、内容を見た。

 「……マジか。」

 旋梨から送られてきたものであり、内容は「不発弾は無かったが、時限爆弾が複数確認された。根元に六個と展望デッキに二十個だ。
倒壊したらただじゃすまないだろうな。任務に出向くかは分からないが、一応把握しといてくれ。」というものだった。
 我々が暮らすこの居住地区は、関東地方の一部が政府による厳重な警備体制で、治安と安全が確立された場所だ。この外部の地域は、テロ集団による暴行が多発する地獄と化している。
 東京タワーも地区圏内であり、安全が保障されているエリアだったが、先日、渋谷駅前でもテロがあったように、徐々に壁が突破されつつある。

 「はぁ……これは大変な事になりそうだ。タワー爆破されようものなら、被害も出るし、この地区でも政府の反逆者に寝返る連中が現れるかもな。」

 この状況が、どうこれからに影響するのかを理解した俺は、柊司令に通話で爆弾処理作戦への参入を許可してもらった。
 対人戦でない為、やはり外されていたようだ。

 「……次は犠牲者を出させない。」

 俺はそう決意して、本部行きへの政府陣の車の到着を待った。






      to be the continue

For    Chapter Ⅰ : Time limit
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...