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Prologue
No2.Encounter
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放課後、俺はよく入り浸っている楽器店に向かった。周末で任務が無い日は、大規模テロでも起こらない限りはほとんどそこで一日を過ごしているが、平日に行くのは稀だ。
「おっ歪君。こんな日に珍しいな。」
「はい。旋梨の奴が勝手に待ち合わせして、本人は不在が決まっているらしいので。」
「それは災難だったな。あいつ昔からそういうとこあるからね。」
彼はこの店を経営している「羽崎 浩一」さんだ。サイレンスと繋がりのある元構成員だったが、もう四十代過ぎて戦線離脱した。実は、俺達に稽古を着けていた人物でもある。
「そう言えば四人分で予約して三人で来てる嬢ちゃんが居るんだけど、その人達か?」
「は?あいつマジで鬼畜すぎだろ。」
誰と待ち合わせるかは聞かされていなかったが、まさか女子三とは思うはずがない。
別にコミュ障で話せない訳では無いが、俺の指導は理解に苦しむとよく言われる。そんな俺を一人で行かせるとは俺はあいつに嫌われているのだろうか。
「はぁ……仕方が無いか。引き受けたのも俺だしな、いや…強引だったか。」
思考を東京湾に沈め、俺は練習部屋の扉を開いた。
「二十三秒遅刻ですよ。……てか紫藤さんは?」
「……不在。」
そう答えると、ベースを持った女は、溜め息をついた。
「まさか、引き受けた張本人が来ないとはね……。」
「まぁいいじゃん。私達は良い指導者が見つかれば、それでいいんだし、聖薇さんも紫藤さんと肩を並べるギタリストでしょ?」
「凛ちゃんに同感…です。」
その後も、彼女達は俺を完全に忘れているかのように会話を続けていた。埒が明かないので、申し訳ないが割り込んだ。
「あ、あの。俺は君達を知らないから、自己紹介をお願い出来ます?」
そう声を掛けると、彼女達は今思い出したかのような反応をした。後、これまで自覚は無かったが、俺はコミュ障だったようだ。カタコト過ぎて思い出したくない。
「ごめんね。呼んどいて勝手に盛り上がっちゃって。私は「夏咲 凛」。ドラム担当だよ。って言っても始めて数ヶ月の初心者だけど。」
「私は「朝乃 真依」。ベース担当。しょ、初心者…。」
「「佐久間 波瑠」です…。ギターを担当してます…。始めて間もない初心者です…。」
まさかの全員初心者だった。俺は暗殺者としての才能だけでなく、色々な分野で恵まれていて、約四年間任務の片手間で活動し、評価されるギタリストになった。
しかし、感覚派で説明力が欠落している為、指導して欲しいなら他を当たった方が良いと言われる始末だった。……羽崎さんに。
「俺は聖薇 歪。旋梨と同じバンドでやらせてもらっている。旋梨は不在で代わりに説明力欠落者だが、今日の所はそれで許してくれ。」
「はい!よろしくお願いします。」
凛はなんか妙に食いつきが良いが、二人は反応が少し悪い。やっぱり俺だからだろうか。
というか、知識はあるにしろ、ギタリストがドラマー志望に教える程、腕は無い。凛の食いつきが良くても困る。
そんな事を思いつつも、大体3時間位は指導した。
指導していて分かったが、呑み込みが相当速い。より良い講師が着けば、プロ入りもそう遠くは無さそうだった。
「思ったよりいけるな。指導者によっては化けるかもな。」
「はい!ありがとうございます!」
褒めると凛は元気にそう言った。二人は変わらず無口だが、態度は非常に真剣であり、彼女達の本気が伺えた。
「では、俺はこの辺で失礼します。」
そう言い残して俺はドアノブに手を掛けようとすると、凛が俺の腕を掴んだ。
「………どうした?」
「あの、連絡先…交換しませんか?」
急展開すぎて何が起こっているか理解が追いつかない。…というよりは理解を諦めている。
果たしてサイレンス最強暗殺者がこんな思考回路で良いのだろうか。
「…別に構わないけど。」
俺はそう口に零し、スマホを見せた。
「ありがとうございます!」
交換を終えると、彼女はとても喜んでいた。
「ほら凛。早く帰るよ。」
凛は真依に引っ張られるままに、楽器店を後にした。
「あ、ありがとうございました。」
そう言って、波瑠も彼女達についていった。
俺は羽崎さんのパシリで軽く清掃をしてから、自宅にへと帰った。
今日はやけに疲れた。しばらくは寝ていたい気分だ。なので帰ってきて俺は、すぐに寝た。
翌日、目覚めてからスマホに通知が何件か入っている事を確認し、内容を見た。
「……マジか。」
旋梨から送られてきたものであり、内容は「不発弾は無かったが、時限爆弾が複数確認された。根元に六個と展望デッキに二十個だ。
倒壊したらただじゃすまないだろうな。任務に出向くかは分からないが、一応把握しといてくれ。」というものだった。
我々が暮らすこの居住地区は、関東地方の一部が政府による厳重な警備体制で、治安と安全が確立された場所だ。この外部の地域は、テロ集団による暴行が多発する地獄と化している。
東京タワーも地区圏内であり、安全が保障されているエリアだったが、先日、渋谷駅前でもテロがあったように、徐々に壁が突破されつつある。
「はぁ……これは大変な事になりそうだ。タワー爆破されようものなら、被害も出るし、この地区でも政府の反逆者に寝返る連中が現れるかもな。」
この状況が、どうこれからに影響するのかを理解した俺は、柊司令に通話で爆弾処理作戦への参入を許可してもらった。
対人戦でない為、やはり外されていたようだ。
「……次は犠牲者を出させない。」
俺はそう決意して、本部行きへの政府陣の車の到着を待った。
to be the continue
For Chapter Ⅰ : Time limit
「おっ歪君。こんな日に珍しいな。」
「はい。旋梨の奴が勝手に待ち合わせして、本人は不在が決まっているらしいので。」
「それは災難だったな。あいつ昔からそういうとこあるからね。」
彼はこの店を経営している「羽崎 浩一」さんだ。サイレンスと繋がりのある元構成員だったが、もう四十代過ぎて戦線離脱した。実は、俺達に稽古を着けていた人物でもある。
「そう言えば四人分で予約して三人で来てる嬢ちゃんが居るんだけど、その人達か?」
「は?あいつマジで鬼畜すぎだろ。」
誰と待ち合わせるかは聞かされていなかったが、まさか女子三とは思うはずがない。
別にコミュ障で話せない訳では無いが、俺の指導は理解に苦しむとよく言われる。そんな俺を一人で行かせるとは俺はあいつに嫌われているのだろうか。
「はぁ……仕方が無いか。引き受けたのも俺だしな、いや…強引だったか。」
思考を東京湾に沈め、俺は練習部屋の扉を開いた。
「二十三秒遅刻ですよ。……てか紫藤さんは?」
「……不在。」
そう答えると、ベースを持った女は、溜め息をついた。
「まさか、引き受けた張本人が来ないとはね……。」
「まぁいいじゃん。私達は良い指導者が見つかれば、それでいいんだし、聖薇さんも紫藤さんと肩を並べるギタリストでしょ?」
「凛ちゃんに同感…です。」
その後も、彼女達は俺を完全に忘れているかのように会話を続けていた。埒が明かないので、申し訳ないが割り込んだ。
「あ、あの。俺は君達を知らないから、自己紹介をお願い出来ます?」
そう声を掛けると、彼女達は今思い出したかのような反応をした。後、これまで自覚は無かったが、俺はコミュ障だったようだ。カタコト過ぎて思い出したくない。
「ごめんね。呼んどいて勝手に盛り上がっちゃって。私は「夏咲 凛」。ドラム担当だよ。って言っても始めて数ヶ月の初心者だけど。」
「私は「朝乃 真依」。ベース担当。しょ、初心者…。」
「「佐久間 波瑠」です…。ギターを担当してます…。始めて間もない初心者です…。」
まさかの全員初心者だった。俺は暗殺者としての才能だけでなく、色々な分野で恵まれていて、約四年間任務の片手間で活動し、評価されるギタリストになった。
しかし、感覚派で説明力が欠落している為、指導して欲しいなら他を当たった方が良いと言われる始末だった。……羽崎さんに。
「俺は聖薇 歪。旋梨と同じバンドでやらせてもらっている。旋梨は不在で代わりに説明力欠落者だが、今日の所はそれで許してくれ。」
「はい!よろしくお願いします。」
凛はなんか妙に食いつきが良いが、二人は反応が少し悪い。やっぱり俺だからだろうか。
というか、知識はあるにしろ、ギタリストがドラマー志望に教える程、腕は無い。凛の食いつきが良くても困る。
そんな事を思いつつも、大体3時間位は指導した。
指導していて分かったが、呑み込みが相当速い。より良い講師が着けば、プロ入りもそう遠くは無さそうだった。
「思ったよりいけるな。指導者によっては化けるかもな。」
「はい!ありがとうございます!」
褒めると凛は元気にそう言った。二人は変わらず無口だが、態度は非常に真剣であり、彼女達の本気が伺えた。
「では、俺はこの辺で失礼します。」
そう言い残して俺はドアノブに手を掛けようとすると、凛が俺の腕を掴んだ。
「………どうした?」
「あの、連絡先…交換しませんか?」
急展開すぎて何が起こっているか理解が追いつかない。…というよりは理解を諦めている。
果たしてサイレンス最強暗殺者がこんな思考回路で良いのだろうか。
「…別に構わないけど。」
俺はそう口に零し、スマホを見せた。
「ありがとうございます!」
交換を終えると、彼女はとても喜んでいた。
「ほら凛。早く帰るよ。」
凛は真依に引っ張られるままに、楽器店を後にした。
「あ、ありがとうございました。」
そう言って、波瑠も彼女達についていった。
俺は羽崎さんのパシリで軽く清掃をしてから、自宅にへと帰った。
今日はやけに疲れた。しばらくは寝ていたい気分だ。なので帰ってきて俺は、すぐに寝た。
翌日、目覚めてからスマホに通知が何件か入っている事を確認し、内容を見た。
「……マジか。」
旋梨から送られてきたものであり、内容は「不発弾は無かったが、時限爆弾が複数確認された。根元に六個と展望デッキに二十個だ。
倒壊したらただじゃすまないだろうな。任務に出向くかは分からないが、一応把握しといてくれ。」というものだった。
我々が暮らすこの居住地区は、関東地方の一部が政府による厳重な警備体制で、治安と安全が確立された場所だ。この外部の地域は、テロ集団による暴行が多発する地獄と化している。
東京タワーも地区圏内であり、安全が保障されているエリアだったが、先日、渋谷駅前でもテロがあったように、徐々に壁が突破されつつある。
「はぁ……これは大変な事になりそうだ。タワー爆破されようものなら、被害も出るし、この地区でも政府の反逆者に寝返る連中が現れるかもな。」
この状況が、どうこれからに影響するのかを理解した俺は、柊司令に通話で爆弾処理作戦への参入を許可してもらった。
対人戦でない為、やはり外されていたようだ。
「……次は犠牲者を出させない。」
俺はそう決意して、本部行きへの政府陣の車の到着を待った。
to be the continue
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