多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Chapter Ⅲ:Friendship

No38.Senri Scramble Start of war!

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 「宜しく。」

 「は、はい。」

 そうして俺と波瑠は歩き出した。







 現在、昼前で飲食店にいる。今の所は順調のようだ。凛は目に二人の姿を捉えながら食事をしていた。

 「なぁ…俺もう帰っても……」

 「駄目です。」

 最早何の付き添いか分からない。他人のデートを見守る人を見守る人?謎の連鎖が起こっている。
 というか、俺を連れてくるくらいなら真依を連れてきた方が盛り上がったと思うのだが。

 「もう行くみたいだぞ?」

 「え?早いって!まだ食事終わってな…」

 「見失うぞ?」

 「……意地悪。」

 ここで凛に離脱されてはいよいよ何をしているか分からなくなる。
 会計は俺が払い、凛を連れて店を出た。

 「もしかして奢り?」

 「七千か……許容範囲かな。」

 任務で資金は潤っているので、たまには良いだろう。ただ、彼女の注文はラウンド制だ。一ラウンドを完食させてこの値段なら、ファイナルまでいくと流石に無理。
 ほんと見かけによらずかなりの量平らげる。







 時間の流れはとても早く、もう夕方になってしまった。今日一日、私はとても楽しかった。でも、今からが本番。最悪のシナリオを想定したくはないけど、ちゃんと言わないと。
 私はこれまで学校で何度も目撃してきた。玉砕して培ってきた努力が崩されるさまを。勿論、努力や準備をせずに自滅した人もいると思うけど、やっぱり頑張った分だけ跳ね返ってくるダメージは大きい。
 凛ちゃんほど積極的にはなれないけど、ずっと気になってはいた。あの日の出来事、それが私を爆発させた。
 迫りくる手。怖かったよ。でも、彼が助けてくれた。その日から、私は彼に対する意識がより強まった。
 
 「あ……あの!」

 「きゃー!助けてー!」

 ベンチに二人で座っている最中、口を開いたその時、遮るように悲鳴が聞こえた。

 「………行かないとな。ごめん、危ないかもしれないからここで待ってて。」

 そう言い残して、彼は悲鳴のした方向に走って行ってしまった。







 あの馬鹿は何をやってるんだ。……これも正義感故か。とは言え、流石に波瑠一人を残しておくのは判断ミスだろう。

 「俺も様子を見に行く。凛は波瑠と一緒に居てあげて。」

 「分かった。気を付けてね。」

 そして俺は悲鳴のした方向に向かい、凛はベンチに向かった。







 海が見える公園。その道路側。距離は少しあるが、壁際に人集りができているのはすぐに分かる。
 





 「なんで来ないん?俺らに付いてきた方が絶対楽しいって。」

 「や、やめてください!」

 近づくと、内容が聞こえ始めた。集団ナンパといった所か。六人位の少女が十二人位の男から迫られている。二倍は流石に気持ち悪さがある。
 それより、凄く見覚えのある人物が居る。

 「……?真依?」

 なんとその中には真依も居た。そう言えば、今日は予定があるとか言っていたな。それ以外も割と既視感がある。
 
 「何の騒ぎだ?」

 見てるだけでは始まらないため、とりあえず集団に声を掛けた。

 「あ?テメェには関係ね……!」

 喧嘩腰で振り返ったので、胸ぐらを掴んだ。ロクな奴じゃない事はすぐに分かる。

 「おいオメェら!やれ!」

 すると仲間と思われる奴らが一斉に仕掛けてきたため、俺は掴んでいる男を蹴り飛ばし、応戦した。

 「隙やり!」

 しかし、一対十一は流石に部が悪かったか、背後を取られてしまった。
 だが、その拳がこちらに届く事は無かった。

 「お前と遭遇すると大抵喧嘩してんな。旋梨。」

 男の拳を止めていた歪はその男を投げた。

 「全滅か?営業部に手を出すのは流石にやばいと自覚しな。警察には黙っといてやるから。」

 歪が鋭くそう言うと、男達は怯えながら帰って行った。

 「サンキュ。ナイスタイミングだったぞ。」

 「そんな事より波瑠の元に戻れ。お前は誰よりもわかってるはずだろ?関東圏内も完璧に安全では無い事くらい。」

 「あ、ああ。すぐに戻る。」

 視線の正体はやはり歪だったか。彼に釘を刺され、俺はベンチの方へ走って行った。
 






 「大丈夫でしたか?」

 「は、はい。ありがとうございました。」

 「いいえ。………マネージャーにお会いできないでしょうか?」

 「え?あ、分かりました。相談しときます。」

 そして、その女性はテントの方へ行ってしまった。




 「旋梨かっこいいだろ?あいつ、強引なナンパ野郎から目を付けられてるんだ。悪い意味で。」

 メンタルケアも兼ねて、近くにいた真依に声を掛けた。

 「デートはどうなっているの?」 

 「まだチャンスはあるんじゃないか?俺は特定の人を応援する気は無いが、仕掛けないと取られるかもな。じゃあ凛の元に戻る。」

 俺はそれだけ言い残して、その場を去って行った。自分自身でも何がしたいのか分からない発言だったが、何も出来なかった事を後悔してほしくないので、不安を煽ったのだろう。
 ただ今思えば、修羅場にするための火種を撒いただけだ。
 時々、何かに焦りを感じ、自分の味わった後悔と同じ道に進ませないように促す事を無意識に行なってしまう。知らない記憶が頭にねじ込まれる。
 撫戯と再会してからずっとあの言葉が引っ掛かっている。テロの加速化、撫戯のLeviathan堕ち、旋梨モテ期、そして自身の記憶。
 ただ日常を送りたいだけなのに、どうしてこんなに頭を抱えなければならないのだろうか。

 「俺は命を奪いすぎてしまったのか?神様……。」

 そう思わず口に零し歩いていた。







 「ごめん。また怖い思いするかもしれないのに…。」

 そう言いながら俺は波瑠の隣に座った。
 視線は二つあって歪が合流してくれたため、もう一人である凛が付き添ってくれたとは思うが、それは結果論に過ぎない。
 彼らが常に居るとは限らないし、俺が行かなくても同胞が駆けつけただろう。
 それでも、彼女は笑ってみせた。

 「平気だよ。私の時もそうやって救ってくれたよね?………好きです。そういう所……。」

 最後の方少し声が小さくなっていたが、しっかり俺の耳は捉えていた。

 「……ありがとう。」

 そう言って俺は波瑠の手を握った。でも、今はまだ応えられない。これが本当の告白で無い事は気づいている。
 これは褒めの“好き”であると……。







 す、好きって言っちゃった!で、でも、今の私には覚悟が足りなかった。まだ恋愛対象としては見られていない顔をしている。
 凛ちゃんを見習って、もっと積極的にアプローチしてまた改めて、ちゃんと告白しないとね……。







 こうして、長い一日が終わった。旋梨争奪戦はこれからも続いていくだろう。
 しかし、幸せな日常がいつまでも続くとは限らない。テロリストなんかでは括れない。悪魔が目覚めたからだ。

 『……分かった。そっちは任せたもんな。』

 「ありがとう黒薔薇。」

 Enterの了承を得た甘採は通話を切り、珍しく集合している三人に目を向けた。

 「Leviathan。本格的に目覚めるぞ。」


    to be the continue


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