多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅤ:Crazy

No70.Confession and restlessness

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 常備している睡眠薬を投げつけ、男を眠らせる事に成功した。しかし、業務用でない少量の物だ。すぐに目が覚めるだろう。
 噂をすれば…だ。

 「貴様ァ!」

 男は起き上がり、飾られていた刃物を手に取り、殺意に満ちた視線を向けた。
 室内のため、路地裏より戦いにくい。それに、凛を守りながらとなると尚更だ。

 「……椅子などを盾に隠れてろ。」

 「う……うん。」

 すると、凛は指示通りに動いた。多少気に掛ける必要はあるが、潜伏者や他者の気配は感じ取れない。こいつに集中しても危険は少ないはずだ。
 銃は使えないため、俺は棒を取り出し、交戦体制に入った。

 「お前、奴隷商人だったんだな。」

 そう言うと、男は笑いを溢した。

 「そうさ!今じゃ関東に社会の忠誠者が集まる。一步外に出れば広大なスラム街。だからこそ、人々はこの理想郷を目指し、この理想郷に永住する。誰もが政府が管理するここを安全だと錯覚するからな!」

 「でも実際は違う。外から流れた反政府や元々関東に巣食うお前達のようなのもいる。……と言いたいんだろ?」

 「ッ……わかってるじゃないか。察してはいたが単刀直入に聞く。貴様……裏社会の人間だろ?」

 正直バレているとは思っていた。こいつにバレる分には構わない。ただし、凛を含む表社会にバレるのは避けたかった。こいつはわかってて言ったのだろう。

 「……ノーコメントで。」

 「それは答え合わせだろ?あの強さ、頭の回転率、暴力団なんかじゃない。それを売りにした事業に手を染めている。そうだな……暗殺者或いは殺し屋の類か?」

 今、俺は腹が立っている。何でも見透かしたかのように話すこいつに対して。
 実際言っている事を正しい。だが、こんなのは単なるプロフィールや結果論に過ぎない。その中に隠された核的な心情、経路を一切捉えられていない。
 
 「はぁ………好き勝手暴露しやがってさ……俺の葛藤も知らずして、俺を語るな。」

 地面を蹴って助力を付け、俺は奴の背後を取り、棒で突こうとしたが、奴はすぐに反応して蹴り防いだ。
 ただの奴隷商人だと思っていたが、想像以上に動ける奴だ。俺の行動に制約が掛かっているのもあるが、それを加味してもだ。
 俺は後退して壁に追い込まれた。奴は俺の腹部を目掛けて刃物を突き出して迫ってくるが、所詮一奴隷商人じゃサイレンス最強暗殺者には勝てない。

 「消えろガキィ!」

 壁を蹴って勢いに身を委ね、そのポジションを切り抜けた。空中で体制を整えて、着地と同時に刃物が壁に突き刺さって身動きが取れない男の心臓より少し下辺りを突いた。

 「グハァッ!」

 案の定、男は気絶した。生存確認をしたが、息の根は止まっていないし、何事もなければ悪化することも無い。
 確かにこいつは未遂だし、今までに罪を犯しているかもしれない。だが、俺にこいつを裁く権利は無い。
 暗殺者は、感情に委ねて単なる私怨で殺す真似だけは絶対にしてはならないから。これはサイレンスの掟であり、俺のスタンスであり、Mythologyの設立者による教えでもあるから。







 一難去ったが、また一難。奴が色々と害悪な置き土産をしたせいで、最悪俺の人間関係に亀裂が入るかもしれない。

 「……怪我は無いか?……凛。」

 誤解というのは解くのが大変なものだ。俺は偶然にもその家系に生まれ、そうならずおえなかった。しかし、そんなのは結果論。彼女がどう思うかは別問題だ。

 「平気だよ……。本当なの?」

 「……………ああ。」

 予想が出来ない。これまで自身に危険が生じた時は何とかして切り抜けてきていた。しかし、今回はイレギュラーだ。
 そして、なんで俺がこんなにも亀裂が入る事を恐れているのか初めて自覚した。ずっと他人行儀だった。それなのに、気づけばそうなっていた。
 いつかは分からないが、魅了されきっていたのだ。
 
 「え?どうして……?」

 無意識とは怖いものだ。気付けば、俺は彼女に対して“壁ドン”していた。
 
 「俺の事をどう思うかは分からないし、どう思ってくれても構わない。幻滅したっていいし、絶縁したいと言われても止めない。ただ一つ伝えたい………好きだ。」







 今日、私は歪君に告白された。ずっと好きだった人に。でも、状況が整理できずに、私は困惑するばかりだった。
 嬉しいはずなのに、何故か考え込んでしまう。混乱しているんだ。

 「……少し…時間をください……。」

 いつものように話せない。多分、恥ずかしがっているんだ。気まずい……。

 「…分かった。いつまででも待つよ。」







 あの一件の後、空気に耐えきれずそのまま解散した。予約料金が無駄になるので楽器店で弾いてきたが、全く指が動かない。
 俺の実力を認知している客に、面白がられた。だが、そんな声も一切届かない。周りが自分の居る空間とは別の空間に感じられた。
 何を恐れているのだろう。初めてのはずなのに、何故だか既視感を感じられる。
 そんな感情を抱きつつ、俺は帰宅した。







 「ただいま。」

 要と月歌が帰って来た。しかし、俺は出迎えられるほどの余裕が無い。

 「どうした薔羨?そんなに焦った様子で……。」

 「………関東で何かが起きている。一切触れられていない。」

 「それって……。」

 「……そうだ。政府が何かを隠そうとしている。お前なら分かるだろ?この意味が。」

 「………。」

 Leviathanという障壁が消えた影響か、奴らはこそこそするのをやめた。我々も牽制しなければ……また“あの時と同じ結末”になってしまうだろう。
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