多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅧ:FinalZone

No124.The beginning of a myth

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 『皆聞こえる?』

 「はい。」

 絆がそう答えると、画面が切り替わり、兄上と黄牙さんの姿が映し出された。

 『奴らは万全な状態のようだ。最終目標は生命再起会の破壊だが、幾つか段階を踏まなければならない。俺と歪と撫戯で本部を直接叩きに行く。求めているものがそこにあるはずだ。だが、奴らも黙ってはいないだろう。他のメンバーで行く手を阻む主戦力と対決してもらう。結果的に時間さえ稼げればそれでいい。クローンの事はサイレンスの下級生に任せた。では、歪、撫戯。東京駅で待ってるぞ。』

 するとまた画面が葉桜さんの方に切り替わった。

 『ご存知の通り、私がこの作戦の指揮監督を務めますが、私はあくまでサポート。現地の状況を見て私の指示に囚われ過ぎず動いてください。……健闘を祈ります。』

 そしてスクリーンが暗くなった。遂にこの時が来てしまった。ただ、微塵も緊張感などは無かった。それ以上に早く潰したくて仕方が無い。
 無力、一切歯が立たなかったあの日とは、訳が違うという事を証明する事に、気分が高揚する。

 「は……やっと分かった。撫戯、お前の感覚が。」

 「だろ?………奪った奴をズタボロに轢き壊す、この瞬間が楽しみで血走った努力が出来るんだよぉ!」

 彼の感覚はやはり壊れている。むしろ、壊れていなければ、恋音さんに一生近づけなかったのかもしれない。
 思えばここに居るメンバー、ほとんどが異色の人生を送ってきた。いや、この作戦に参加している事自体が異色とも言える。
 
 「……それじゃあ歪、行ってくる。」

 メンバーが次々に基地から出て、迎えに来た約三十台程の車に乗り込んで行く中、旋梨はそう声を掛けてきた。

 「舗道は任せたぞ。」

 「そっちもな。凛を救ってこい。例えどんな結末になろうが、やった事自体に意味がある。……違うか?」

 「何も違わない。ありがとな。」

 「互いに健闘を祈る。」

 そう言い残して、旋梨も自動車に乗り込み、目的地へと向かって行った。







 「さてと、俺達もさっさと黒薔薇さんとこに合流しに行くか?」

 「そうだな。」

 俺と撫戯も自動車に乗り込み、昔馴染みの運転手の手で東京駅へと向かった。







 「撫戯、作戦内容とは全く関係の無い質問をしても良いか?」 

 「いいぜ。」

 「お前は何故そんなに上手くワイヤーを扱えるんだ?ワイヤーを扱う技術力だけは、右に出るものがいないと俺は思っている。」

 彼が俺に表社会を見せてくれた。けど、恋音さん関連以外の彼の過去を俺はあまり知らない。
 この戦いが終わったら、生きる死ぬ関係なしに聞けなくなりそうだから、今のうちに聞いておきたかった。

 「……壊滅した讐鈴一族は、先祖代々受け継がれるトラップ編成の名門だ。人の心理や物理学に基づき、それらをシビアに設置するスキルが飛び抜けている。」

 「……撫戯が実戦に投入される前に一族は壊滅して自由に動き回ってたはずじゃ……。いくら訓練をしていたとはいえ、実戦の中で一番育まれる技術だろ?」

 そう言うと、彼はしばらく考えて、口を開いた。

 「まぁ……血族の才能ってやつ?」

 「そうか……。」

 でも、これが一番納得出来る返答であった。彼の出自である讐鈴は未解明なところが多い極めて異色な一族だ。
 聖薇や他の一族にも言えた事だが、暗殺者自体が衰退しつつあるのだ。元々暗殺組織及び暗殺機構は、一時期世界規模で問題となった手のつけられない凶悪犯罪の数々を裁くために作られた合法的な組織。
 だが、それを装った犯罪者も現れ始めたため、暗殺組織は表向きでは規制された。ただ、結局警察が手に負えてないのは確かなので、裏としては規模のでかい組織は国家と繋がっていたりもした。国家のさじ加減のため裏切られた組織もあったそうだが。
 しかし、近年になるにつれそもそも凶悪犯罪の低下と、警察側の技術力も向上したため、暗殺者は用済みになりつつある。ただ、生命再起会は事実を揉み消せるため、こちらで対処するしかない。
 多分、この騒動が終わったら日本の暗殺機構は終わりを迎えるだろう。

 そんな事を考えていると、東京駅へと到着し、兄上が助手席に乗り込んだ。

 「兄上。」

 「黒薔薇さん。」

 「愛沙から情報を共有されている。そろそろ向こうは潮境のようだ。着く頃にはこちらに構えないだろう。……一部を除いてな。」

 兄上の言いたい事はすぐに分かった。俺達は明らかに奴らにとってもイレギュラーだ。俺達を阻むカードは温存しているはずだ。
 
 「兄上はどう考えている?この騒動が終わった後……。」

 そう尋ねると、兄上は少し考え込み答えを出した。

 「考えてないな。先の事は。……果たして、大犯罪者を許す社会はあるのか。」

 まぁそうだろう。両陣営公にはなっていない。一部には目撃されているが、どうせ上手いこと報道で誤魔化したに違いない。
 
 「ただ、一つ。これだけは譲らない。」

 「……?」

 「葵を幸せにする……。色褪せた青春の分まで、必ず……。」

 「兄上……。」

 そうこうしていると、自動車が止まり運転手は言った。

 「ここからは暗黒政府の占拠域。作戦地番号01.Final Zoneです。聖薇様、讐鈴様、お気をつけて。」

 「運転ご苦労さまです。」

 俺はそうお礼を言って降車し、奥を見つめた。





 「プレデスタンス・サイレンス陣営とクローンが既に交戦しているみたいだな!」

 撫戯がそう言ってワイヤー装置を起動し、後ろから降車してきた。それに続けて兄上もリボルバーを構え、助手席側からこちらに回り込んで来た。

 「歪、撫戯。俺達は恐らく日本最後の暗殺者となる。……伝説を残すぞ。そして、取り返すぞ。」

 「あぁ。」

 兄上の言葉にそう反応し、俺は二丁拳銃を手に取った。

 「……任務遂行開始!」

 今宵、愛と名誉と命を懸けた“日本最初で最後”になるであろう暗殺機構対生命再起会の神話決戦が幕を開けた。
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