多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅧ:FinalZone

No127.Opportunity that just comes

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 立ちはだかる敵を排除し押しのけながら、進んでいった。すると、エレベーターを発見した。

 「位置的にここしかないだろうなぁ……目的地への入口は。」

 と、撫戯は言った。現在地は生命再起会本部の地下一階。この建物の広さ的に、地下二階以上は必要ないはず。間違いなく例の研究所に繋がっているだろう。
 しかし、懸念点が一つだけある。

 「これさ、待ち伏せされるだろ。応戦するにしても、爆弾とか狙撃だったらどうするんだ。」

 こんな餌のような入口、使いたくはない。だが、恐らく唯一の入口でもある。
 ……いや、悩んでいる時間はない。

 「……撫戯。」

 「最初からそのつもりだ。どうせ死ぬ時は死ぬ。砕けるのは当たってからや。」

 俺達は意を結して、エレベーターに乗り込んだ。







 飛行機が墜落し、辺り一面が一瞬で火の海と化した。周囲の建物も倒壊しており、まさに崩壊した都市状態になっていた。
 俺達はその残骸に身を潜め、蝶帝の出方を伺っていた。

 「クッ!輸送機だったか!」

 幸いと言うべきか、割と小型の輸送機だったため、墜落現場の範囲もそれほど広くなく、犠牲者も推定よりは遥かに少なく済んだ。
 とはいえ、ビルの密集する一角を吹き飛ばすには、十分過ぎるものだった。

 「……奴はどこに…。」

 「旋梨真上!」

 「ッ!」 
  
 愁のその咄嗟の言葉を聞き、身を横方向に投げると、元いた場所の地面が抉れた。
 彼の方を確認すると、むこうも無事に回避できていた様子だ。
 空中から落下する奴に対し、不協和音ボムを投げつけ、身体麻痺を起こさせようと試みた。
 しかし、奴は看板を倒し、音が直接入ってこないように壁を作ってきた。

 「その程度?ざっこ♪」

 「クッ……!」

 「じゃあ、次こそね。」

 そう言って、まだ体勢が立て直せていない俺達に対し、蝶帝は銃口を突き付けてきた。
 ほぼゼロ距離だ。割と上空に飛んでいた飛行機でさえも墜落させる威力。人間が耐えられるはずもない。
 “ここまでか。”そう思った次の瞬間、ミストが展開された。しかもそれだけじゃない。ちょっぴり麻痺毒が含有されている感じだ。

 「な、何!息…が!」
  
 これを好機と見た俺は、影で悶える蝶帝に蹴りを入れ、こちらが押し倒す態勢となった。
 
 「ファインプレーだ愁!」

 「危なっかしい。本当に。」

 この霧の中に居ても俺達は麻痺せず動ける理由。それは、俺の不協和音ボムと同じで、肉体で効き目が全く異なるように設計されているからである。
 
 「この……よくも!」

 「うぐっ!」

 「旋梨!」

 銃口を突き付け引き金を引こうとしたが、蝶帝に暴れられ拘束から抜けられてしまった。
 奴は早々に落とした対物ライフルを拾い、丁度天井になっている右翼に撃って落としてきた。

 「マジか!……回避は不能。一か八か!」

 俺はグレネードを斜め向きに投げ、落ちてくる右翼をバラバラにした。
 破片に右足を少しもっていかれたが、何とか一命は取り留めた。
 愁は即座にこちらにミストを展開し、隙を撃たれるのを防いできた。







 最下層に着き、エレベーターが止まった。そしてオープンする。

 「撫戯。」

 「おお!」

 開ききると同時に、案の定待ち伏せしていた敵が一斉に射撃してきた。
 俺はすぐに跳び上がり、撫戯はワイヤーを敵の密集する通路側に投げ、引っ掛けた。
 この時、エレベーターの中もワイヤーで絡まっていた。俺は跳んだ後ワイヤーフックを天井に引っ掛け、彼の攻撃の邪魔にならない位置に居た。
 大勢の人数を一気に片付けるには、銃撃戦をするよりワイヤーで一気に切り裂いた方が圧倒的に早いのだ。

 「怯むな!撃て!」

 だが、身体が縛られていようとも、手にワイヤーが絡まっていない敵はしつこく射撃を続けてきた。

 「お?忘れたか?……命の天秤、操作しているのが誰かな!」

 そう言って彼がワイヤーを弾くと、断末魔と共にワイヤーに絡まっていた敵は切られて、血を流し倒れた。
 構成員の半数は人数、半数はクローンだったようだ。

 「この感じ、一つのまとまりに何人かは生身の人間も居るみたいだな。」

 俺はワイヤーフックを切って着地し、そう言った。

 「だよな。指揮してるのは人間のはず。……黒薔薇さん、来ないな。」

 「兄上ならそう安々と死なないだろう。こっちは先に動くぞ。」

 「だな。いつの間にか合流してるだろ。」

 そう思い、俺達は先に研究所内を走り回る事にした。
 兄上も研究所内の構図は分からないらしいので、さっさと片っ端から潰してかなければならないから。







 「ようこそ、侵入者。」

 その声を聞き取り、俺達は足を止めた。刹那、刃物が飛んでくるが、気配に気づいていた様子の撫戯がワイヤーを投げ、刃物を絡め取った。
 
 「返してやるよ!」

 彼はその刃物を手に取り、投げられてきた方向に投げ返した。

 「見かけによらず誠実だな。孤高。」

 そうして、刃物を投げた黒マントが姿を現すなり、撫戯は臨戦態勢を構えた。

 「ッ!……会いたかったぜ。蜥蜴!」

 彼はそう言うや否や、ワイヤーを壁反射してそいつを囲い込み、弾いて圧縮させた。

 「この前、私にどう逃げられたか忘れたか?」

 刹那、強い強度を誇るワイヤーが秒で切断され、奴は抜け出した。

 「ったく。どうやってんだそれ。」

 「撫戯……そいつは…」

 「悪りぃ歪。先に行ってくれ。俺はこいつに因縁がある。それに、追われながら探すより、手分けした方が合理的だ。」

 「……分かった。信じてみる。」

 俺はそう言い残し、通路の死角を使ってその場を離れた。




 
 「殺る前に一つ。あの白薔薇を止めないって事は、奪還を防ぐより俺達の排除を優先してるって事だよな?」

 「貴様らでは、どうせこの広い研究所から目的物を見つけられまい。白薔薇を逃がしたところで、連絡は入れたのでな。」

 奴がそう言うという事は、歪の方にも刺客が送られるはずだ。
 彼の事だ、ここで俺が因縁があると言った時点で粗方察してはいるだろうが。

 「こっちもさっさと恋音見つけなきゃなんねぇんだ。丁度いい、お前に迫って聞き出してやるよ!」

 「そうか残党!この前は任務遂行を優先して撤退したが、貴様の力量……測らせてもらおうか!」

 刹那、瞬発的に蜥蜴は俺との距離を詰め、気付けば眼前に刃物が迫っていた。
 
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