まぁさんとレオ

針山タヨリ

文字の大きさ
2 / 4

指輪

しおりを挟む
「指輪でも買おうか」

 カフェで一番安い350円のアイスコーヒーを片手に、真実まことがポツリと呟いた。750円のフラペチーノをストローでかき回していた麗生れおは、それを聞いて瞬間的に椅子からガタッと腰を浮かせる。

「ゆっ指輪っ!?」
「座れ」
「あハイ」

 大人しく座りなおした麗生が、やや前のめりの姿勢で真実の次の言葉を待つ。
 真実はぎゅっと眉を寄せ、気まずそうに視線を彷徨わせた。

「待てしてる犬みたい」

 不機嫌を装った照れ隠しなどもうすっかり見慣れている麗生は、憎まれ口を気にした様子もなく、目を輝かせて続きを促した。

「うんうん、それで? 指輪?」
「……ああそう、指輪。私たちってそういうの持ってなかったなっ……て、ちょっと」

 麗生は、汗をかいた紙コップごと真実の右手に手を添えた。
 冷たい水滴が付いてしっとりとした指が小さく震え、逃げ出そうとする。
 麗生の指はそれを許さず、するりと器用に絡みついて見せた。
 麗生がちらりと視線をやると、口を真一文字に結んでこちらを睨みつけている真実と目が合う。睨みつけるのも、照れ隠しだ。

「嬉しい。まぁさんからそういう事言ってくれるなんて」

 麗生がふにゃりと眉を下げて笑うと、途端に真実の頬と目元がピンク色に染まる。昔から真実はこの顔に弱い。

「嬉しいならまあ、何よりで……」
「ねぇどういうの買う? 給料三か月分? ダイヤモンド?」
「どっちの給料換算で三カ月?」
「うわっ意地悪だ!」
「ふふ、冗談冗談。行くよ」
「行くって、え」
「ん、指輪見に」

 すっかり調子を取り戻した真実が、グッとコップの底に残ったコーヒーを飲みほした。
 そして、それを見て慌ててフラペチーノを吸い上げた麗生がずずずっと立てた音に顔をしかめ、水滴だらけになった手で麗生の肩を小突いた。


「……ここ?」

 麗生の腕を引いた真実が足を止めたのは、カフェが入っていたショッピングモール内にあるアクセサリーショップだった。
 高級感漂うジュエリーショップもあったが、それは素通り。
 ここでは中高生から大学生くらいの若い年代の女性たちが、自由に商品を手に取り吟味している。

「いきなり高いもの買うのもなんでしょ」
「そ、それもそう、なのかな」
「そうなの」

 そう言いつつ、真実もその店に入っていく様子がない。
 腕を組んだ二十代の女子が二人、アクセサリーショップの入り口で棒立ちという光景が出来上がっている。

「まぁさんこういうところ、入ったことなさそうだもんね」
「それはあんたもでしょ」

 真実は学生時代は特にこういったものに興味が無く、アクセサリーを身に着けることはまず無かった。そして麗生はと言えば、こういった安価なものではなく“援助者”からプレゼントされたブランド品ばかりを身に着けていた。
 つまり二人はそれぞれの事情で、一個数百円~数千円の価格帯のアクセサリーショップとは、無縁だったわけである。

「凄いね~、青春のキラキラって感じ……あ、」
「えっ、何、どうした」

 遠目に陳列されるアクセサリーたちを眺めていた麗生だったが、ふと会計付近に陳列された指輪に引き寄せられていく。必然的に、左腕を掴まれていた真実も一緒に店の奥に足を踏み入れた。

「見てこれペアになってる」
「あ、本当だ」

 そこには、五種類ほどのペアリングが並べられていた。それらの中で麗生は、シンプルな造りの華奢なリングを手に取る。一方はシルバー、もう一方はゴールドで、ゴールドの方にはさりげなく花の彫刻がされているリングは、普段使いにも良さそうだ。
 ……ただ一つの難点を除いては。

「やっぱ、片方がちょっと大きいよね」
「まぁ、ペアリングだし……」

 そう、ペアリングなのだ。
 ゴールドは女性サイズだが、シルバーの方は男性サイズで、二人にはかなり大きい。

「う~ん、可愛いんだけどなぁ……」
「そんなに気に入ったの?」
「気に入ったっていうか……小さい頃すっごい欲しかったやつにちょっと似てて」
「ああ、あのアニメの?」
「そう! まぁさんも知ってるの?」
「変身アイテムだったやつでしょ」

 真実は麗生よりも二つ年上のため、見ていたシリーズ物の女児アニメも年代としては少しズレる。その上、真実はそういったものを観るタイプの子どもではなかった。それでも国民的人気作品ともなれば、何となくは知っていた。

 真実は、麗生の幼少期に思いを馳せた。彼女の家庭事情が少々複雑なのは、ずっと前からよく知っていた。
 想像の中。時間は日曜日の朝、広いリビングで独りアニメを眺める小さな麗生。途中、作中で使われる変身グッズを模したアクセサリーが紹介されて、キラキラした目でが振り返る。しかし、そこには誰もいない。静かなリビングでは、「ママ、これ欲しい!」から始まる親子の会話は勿論存在しない。

「可愛いけど、別の探す」

 そう言って少し目を伏せて諦めたように笑う目の前の麗生と、想像の中の少女の横顔が重なる。
 数秒も考えずに、真実は二つ並んだ指輪を丁寧に摘まみ上げた。

「……良いよ、これにしよ」
「えっ、でも」
「大きい方は私が着けるから」
「でもまぁさんの方があたしよりも指小さいじゃん」
「そこは細いって言え」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...