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Collectors 本編 〜無職になった男はその目で何を見る〜
第1話 占い師
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三村和也は、落ち込んでいた。
すぐには立ち直れない。
深い深い谷底に身一つで突き落とされたようなどうしようもない絶望感が和也を包み込み、蝕んでいく。
夜遅くの公園。細々と光る電灯の下でブランコに一人揺られながら、和也はため息をした。
「明日から来なくていいから」
仕事でのミスは誰にでもある。猿も木から落ちる。しかし、落ちた場所が悪かった。
和也の仕事はマネージャーである。芸能事務所に所属するアイドルのマネジメントを担当するのが和也のミッションだ。そんな中、「芸能界のドン」と言われでいる大御所、菅原藤四郎との仕事の打ち合わせで、和也がたった一言失言をしてしまったことにより彼の怒りに触れてしまった。その結果として次の日には会社から自分の机がなくなり、籍がなくなり……終いには自分が担当していたアイドル、丸目リリィも急な事務所移籍として和也の前から姿を消したのだ。電話をしても繋がらないため、和也には彼女がどうなってしまったかは分からない。
こうなることは和也もひとつの噂として聞いたことがある。菅原藤四郎の機嫌を損なうと社会的地位を失うというものだ。和也が失ったのは職だけである。社会的地位がなくなった訳ではないため、まだ救いはあるかもしれない。ただ、この先職失くしてどうやって生活をしていくのか。和也も少しは考えているのだろう。額に手を当てては目を瞑り座りこんだ。頭の中がチクチクと痛むのだろう。気持ちは分からなくはない。
「俺はこれからどうすればいいんだ」
仕事の全てを失った和也は現実から逃げるようにビジネス街を歩き回った。そして気付けば日も沈み、こうして人気の無い公園で一人寂しくブランコを揺らしている。一度は和也も家に帰ろうかと考えたが、会社と同じように自分の部屋が勝手に解約されていたらと考えてしまったのだろう。駅に向かう足をこの公園に向けた。これは実家も同様だ。菅原藤四郎が一日でここまでしてしまうとなるととても恐ろしい。だから和也は一人で、誰の迷惑にもならないよう、ここに座っているのだ。
「ちょいとお兄さん。すこしお話しましょうよ」
和也は不意にどこからか声を掛けられた。
女性の声だ。ただ、どこから聞こえるのだろうか。
「こっち、こっち。あんたの背後にいるよ」
背後?
和也はブランコを両足で止め、その場に静かに立ち上がった。ゆっくりと背後を振り返ると、数メートル離れたところに「占います。 ワかれろ屋」と書かれた四角柱の置物が薄橙色に弱々しく点滅していた。またそれらの灯で、黒いマントに全身を覆い尽くしている人が置物の横に座っているのが分かる。暗闇の中で小さなお店が不気味に浮き上がっていた。
和也は「ヒエッ!」と非常に情けない声を小さく上げながらも、なるべく自分が驚いている様子を彼女に悟られないようにしながら背後に現れた不思議な占い屋をジッと見つめた。
「占い屋なんてあったか?」
和也はこの公園に来た時の事をはっきり思い出そうと必死に脳を回転させるが、職を失った事実があまりにもショックすぎたのと、意識もしっかりと保てていなかったためかその時の記憶が全くない。ましてや和也は自分がブランコに座ってた間も背後にお店が出ていたことなど知らなかったのだ。
いったいこの占い師はいつからここにいたのだろう。
「うーん……そうねぇ。でも私はお兄さんがここに来るのをずっと前から待っていたのだけど……」
「ずっと前!? というか、俺の考えてることが分かるんですか?」
和也の驚く反応を見てか、占い師は小さく笑うと自分の所へ来なさいとでも言うように手招きをはじめる。
「あ、あなた……本当に占い師ですか?」
「決まってるでしょう。逆に考えてみなさい。お兄さんの考えてることが分かるんですよ? そこらの同業者よりは確実な占いが出来ますよ」
そう自信満々言う占い師に和也は恐る恐る近づいていく。占い師との距離は目と鼻の先なのになぜかすごく遠く感じてしまう。和也がそう感じるのも無理はない。占い師が恐怖でしかないのだ。おばけのように唐突に現れ、占ってやると言われれば普通の人ならば直ぐさま逃げ出すだろう。しかし、和也は逃げない。事実として和也は半歩づつ占い師に近づいている。その姿は夜中のトイレに一人で行く子供のようにゆっくりで慎重だ。これは和也に逃げる場所などなかったからだが、占い師に近づくたびに自ら罪を犯していくような罪悪感に身体中が包まれていくような感覚を覚えた。
「やっと来たわね。そこの椅子に座って。占いを始めましょう」
和也は小さな机を挟んで、占い師の目の前に座る。占い師は机の上に水晶やタロットカードを出すことはない。その代わり、今まで顔全体を覆っていたフードをゆっくりと上げ、今まで隠れていた素顔を露わにした。女優のような小さな顔。肩まで伸びた黒い髪。雪のように白い肌。外国人のようなシュッとした鼻筋に尖った鼻。目つきは鋭く、なんでも見抜いてしまいそうな目力に和也は占い師から一瞬視線を逸らす。占い師はそれを見ると少しにやりと笑った。
「ここでは恋愛の占いが無料でできるわ。私自身他人の恋愛について聞いたり、意見したりすることはあまり好きではないのだけれど、お店の名前がこれだからそういった話が多いの。だからいっそ無料で聞いてるの」
「恋愛ですか……。最近恋はしてないですね」
和也が答えると占い師は「そう……」と寂しそうに呟いたが、すぐに笑顔になり話を続けた。
「じゃあ次にいくわ。私はあなたの考えを読める。だからあなたの今置かれている状況について整理することが出来るの。だからそれをしましょう。話すこともそれがメインですからね。もしそれに相違点や不足してる点があったら、私の話を遮るようにして教えて頂戴」
「わ、分かりました」
和也がそう返事をすると、占い師は話をはじめた。
「お兄さんの名前は三村和也。年齢は……そろそろ三十路ってところかしら。そんなまだまだ若い男が職を失った。理由は仕事でのトラブルね。担当アイドルにでも手を出したのかしら?」
「ちょっと!!」
なんてことを言う占い師だ。和也は話を遮る。
「そんなことしてません!」
「リリィの裸を見たことは事実でしょ? 違う?」
「うっ! 確かに事実ですが……」
占い師に話してもいないことを当てられ、和也は彼女がなんでもお見通しであることを再確認するが、それならなぜもう一度整理する必要があるのか分からなかった。
和也は占い師に職を失った経緯を一から順に説明する。そんなに長い話ではない。
「菅原藤四郎という男に圧力をかけられたということね。確かにあなたの言っていることは正しいし、それは事実でもある」
占い師の声のトーンが低くなる。和也は「どういうことですか」と占い師に聞き返した。
「菅原藤四郎はただの俳優ではない。警察が目をつけるほどの危険人物だ。彼は裏社会でも有名な人で、色々好き勝手やってる。例えば歌舞伎町。そこには菅原が運営する違法カジノがいくつもあるし、水商売施設の全般は彼が一枚噛んでる。あとは結構な数の手下がいるみたい。お兄さん、一度家に帰ろうか迷ったでしょう。あのまま帰ったら菅原から命令されたヤクザ達に殺されてたわよ」
「そ、そんな……」
「あとお兄さんが働いてた芸能事務所だけれど、あそこももう終わりね。今頃会社の社長とあんたの上司は菅原から賄賂を受け取って笑いあっているか、殺されてるかの二択よ。あと……そう、あんたの担当してたアイドルだけど……」
「リリィ……! リリィは無事なはず、彼女は菅原に気に入られてたから……!」
和也は小さな机に両手を叩きつけ、身を乗り出して言う。占い師の顔にぶつかりそうだが、リリィのことで頭がいっぱいなのだろう。和也は力強く訴える。
占い師は和也のそんな姿に少し驚いたが、すぐに彼の両肩を掴み席に座らせた。
「近い! 落ち着きな」
「でも! 自分にとっては大事な人なんです! もし、自分の犯した間違いでリリィが痛い目に遭っていると考えたら……」
「リリィは大丈夫だよ。今のところはね」
「今のところって……」
「私の常連さんに頼んでなんとかリリィを菅原の芸能事務所、ワールドワイドから遠ざけたわ。私が何も動かなかったら、今頃リリィは菅原と一夜を共にしてたかもね」
「言い方! そういうのやめてくださいよ!」
仕事柄こういった話をされるのは正直好きではない。この占い師は俺を馬鹿にしているのだろうか。和也は心の中でそう思いつつもリリィを守ってくれたことに関しては正直嬉しく感じた。そしてリリィが菅原の元から離れていてくれたことにとても安心した。しかし、不思議である。なぜこの占い師はリリィのことを守ったのだろうか。
「そこまでしていただいて、ありがとうございます。でもなぜあなたがリリィのことを? それに、こんなことまで……」
和也のその言葉を聞いて占い師は、「うむ」と小さく返事をすると、周りを確認するようにゆっくりと顔を動かした。
「もうそろそろ菅原の手下がお兄さんを探し始める頃かもしれない。これまで長く話をしてきたけど、実はここからが本題なの」
それを聞いて和也は目をまん丸くし、小さく返事をする。
占い師は話を続ける。
「お兄さんは上司から明日から来なくていいと言われた。ということは今は無職だ。自分が帰る場所も無く、実家に帰ろうとすれば大事な家族も菅原に狙われる。じゃあどうするか……。そこでだ、私がお兄さんに仕事を紹介してあげようというわけ。寝床はあるし、最低限人としてしっかりとした暮らしも出来る。どう? 悪くはないでしょう?」
和也はその言葉を聞いて正直嬉しかったが、少し躊躇った。いや、躊躇わないとおかしい。まず、この人は確かに占い師としての実力はあるのかもしれない(まともに占ってもらってはいないが)。しかし、それにしても怪しすぎる。実際にどのような仕事をするのか? 福利厚生は? 社風は? などの働くうえでの色々な疑問が和也の頭の中で無数に増えていった。話に乗るべきかどうかと和也は顔を真っ赤にして考える。とその時、和也の後ろの方から男性の大声が夜遅い静かな住宅街に響きわたった。
「三村ァ!! どこにいるんだァ?!」
「ずっとあんたの部屋で待ってたのによぉ!!」
「逃げても無駄だぞ!! 出て来いや!!」
和也はまた「ヒェッ!」と叫ぶと自分の身を守るように両手で頭を抱えて丸くなった。菅原の手下が和也を捕まえるためにここまでやってきたのだ。まだ姿が見えないのはある意味救いである。
「菅原の手下がもうここまで」
占い師が和也を見ると彼は机にしがみつきプルプルと震えている。
「どうにかして三村和也をこの場所から逃がさないと、あとあと大変なことになる」
占い師は丸まった和也に逃げるように促した。
「お兄さん、菅原の手下がもう少しでここに来ます。私と早く逃げましょう!」
しかし、和也は小さく丸まったまま動こうとしない。何回促しても和也は動きはしないのだ。
占い師はそんな弱気な和也を見るなり大きな溜息を一つすると「嗚呼」と低い声で唸り、両手で彼の頭を抱えて言い放った。
「アンタのその情けなさ、見ててすごいムカつくわ! おい! 追っ手がすぐそこまで来てんだよ! そーやってウジウジ小さくなるだけか。起きろ!! 早く!!」
占い師が和也の肩を掴み、力ずくで彼の体を起き上がらせる。勢いが付きすぎて和也は背中から椅子ごと地面にひっくり返った。
「イタッ!! な、何するんですか!」
「うるさい! あんたの態度にむかついたんだよ。いちを私のお客さんのようなモノなのだから、優しく接してあげてたけれど……もう耐えられない! 私はウジウジしてるやつは嫌いなんだ!!」
先ほどまでの緩やかな話し方とは真逆の、荒々しい口調に鋭い視線の先の眼光。弱弱しい和也を上から見下すような占い師の態度は先ほどまでの様子からは想像が出来ない。
「占い師さん?!」
「いいから早く立って! ここから逃げるよ!」
占い師は地面に転がる和也の右手を取る。占い師の走る勢いと共に、和也も綺麗にクラウチングスタートを決めたいところだが見事にずっこけ顔から地面にスライディングを決める。しかしそれでも占い師は足を止めない。
「イタッ痛い! ちょっと!! 引きずらないで!!」
「我慢しな!! 大声を出さないで! 見つかっても知らないわよ!!」
占い師が走りながらそう言った時、彼女の目の前に太い鉄の棒が現れたかと思うと、顔面の右半分にそれが直撃した。占い師は走っていた方向と反対側に吹き飛ばされ、そして引きずられていた和也も少しだけ後方に転がった。
「ナイスバッティング!」
「見つけたぜ三村」
「声がデカすぎるんだよ。ババァ!」
大柄の男が三人。髪を刈り上げた眉のない男、ストリート系ファッションに身を包みタバコをふかしている男、そして最後に黒地に金色の文字がプリントされた上下ペアのジャージ男が、ガニ股歩きで公園に入ってきた。ジャージ男が汚れた金属バットを持っているため、先ほど占い師を殴ったのは彼だろう。
三人はへらへらと笑いながら占い師と和也の方に近づいていく。
和也は倒れた勢いと、引きずられた影響で身体のあらゆるところが痛かったが意識はしっかりしている。そのため、今自分達に起きている状況をしっかりと理解しようと気絶したふりをして息を潜めることにした。
占い師はバットで顔面を殴られてから身動き一つしていない。
「兄さん、ちょっとやり過ぎたんじゃないんですか?」
倒れている占い師の足元で眉のない男は話はじめた。
「いいんだよこのくらい。この女なんかボスの周りを色々と嗅ぎまわってたみてぇでよ。後々仕事を回されてたかもしれないから丁度いいじゃねぇか」
ジャージを着た男は二人の兄貴分らしい。金属バットで占い師の体を触り始める。占い師は地面にうつ伏せになった状態で倒れている。ジャージ男が占い師の髪を金属バットでかき分けると、彼女の妖艶な表情が月夜に照らされた。
「兄貴、この女以外と美人ですぜ。裏で売れば儲かりますよ」
ストリート系男は、先ほどから三村と言いまくっている男である。ジャージ男にそう言ったあと、占い師の顔を写真に収めようとダボダボのジーパンからスマートフォンを取り出した。シンプルな黒色のケースのスマートフォンには不在通知が二件ほど入っていたようで、ストリート系男は少し顔をしかめた。
「兄貴、ボスから電話が来てました」
「あ? ……分かった。早急にこいつらをボスの所へ連れていく。BJに連絡して車をこっちにまわさせろ」
「分かりました」と、二人の声が公園に響くと彼らは公園の入り口に走って行き、一人は携帯を耳に当て話はじめ、もう一人は周りに人がいないかの確認なのか公園の入り口に立ち、周りを注意深く監視し始めた。今和也と占い師の近くにいるのはジャージを着た男一人だけ。和也はどうにかしてこの場を離れなければ占い師と一緒に菅原の元に連れていかれてしまう。しかし和也にはこの状況を打破できる手段は何一つなく、こうして息を凝らして、気絶しているフリをしているしかない。彼らの仲間であろう人物が公園の入り口に車を停車させる、そのときが二人の最後である。和也には残された時間をこのままじっと静かに過ごすしかないのだ。
「このまま俺はこいつらに連れて行かれて殺されるんだ。短い人生だったなあ」
和也がそう諦めかけた時公園に聞きなれた音楽が鳴り響いた。リズミカルなイントロにアイドルソング独特のサウンド、重みが全く感じられない電子音がとても特徴的であるそれはリリィのデビュー曲「彼はポップスター」だ。和也の携帯電話ではない。では占い師だろうか。それともヤクザだろうか。
「兄貴、この音楽」
「うるせぇ曲だ。あの店の辺りからか?」
「兄さん、自分が行きます」
「バカ、俺が行く、てめぇは見張りだ」
ジャージ男は占い師が出していたお店「ワかれろ屋」の方に近づいていく。和也達が倒れているところからはそんなに離れてはいない。しかしお店付近には電灯がなく、お店の机に置かれた四角柱の置物が薄橙色に弱々しく点滅しているだけである。ジャージ男がそのお店に近づいて行くとリリィの曲の音が段々大きくなっていく、しかし同時に曲の暗さも増していった。ジャージ男がお店の机に手が付けるほど近くなった時には、完全に周りは闇に覆われ店先のブランコでさえしっかりと認識出来ないほどに真っ黒だった。机の上に置かれた音楽プレイヤーをジャージ男は手に取る。音楽を停止すると、彼は妙な寒さを感じたのだろうか身震いを一つした。
「なんだぁ? 寒いじゃねぇか」
ジャージの男がそう言った時、消したはずの音楽プレイヤーから再びリリィの曲が流れ始める。もう一度曲を停止させようとするが止まらない。また曲の音程が段々下がり始め段々不協和音へと変化していく。ジャージ男の体は一瞬で強張り、体中の毛が逆立ち始める。二、三度ボタンを押しただけでは止まらない音楽プレイヤーに恐怖を感じたジャージ男はそれを力強く地面に叩きつけた。
「気持ちわりぃんだよ!」
地面に叩きつけられた音楽プレイヤーは音を立てずに黒い地面に転がる。音楽は段々と遅くなり音にもならないような、人のうめき声のような音を発して鳴りやんだ。がその刹那、水に沈むかのように音楽プレイヤーが徐々に地面に埋もれ始め、自分も徐々に地面に埋もれ始めた。泥に足を取られたように身動きが取れず、どんどんと地面に沈んでいく。
「ど、どうなってるんだ! おい誰か助けろよ!!」
沈んでいく速度は早く、ジャージの男が情けない声で助けを呼んでいる間にも腰のあたりまで黒い地面に沈んでいた。部下の二人に助けを求めようと公園の入り口を振り向くが、そこに入口は見えず、お店も沈んだのだろうか、消えてなくなり、ジャージの男は永遠と続く闇の中でもがき苦しんでいる。
「誰か! 誰でもいい!! 助けてくれ!」
そう、ジャージの男が訴えたその時、誰かの手が彼の首を絞め始めた。急に掴めれたため手の大きさなどは分からない。ただ、力の強さは尋常ではない。
「私がラクにさせてあげるよ。すぐにね」
意識が遠のくなかで、ジャージの男は自分の首を絞めたのが女性だと気付いたが、彼は首の中に存在する気管、血管、食堂が女性の微かな温もりに包まれつつ潰され塞がっていくのを感じ取ることしかできない。
「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
女性が高い声で不気味に笑ったかと思うと、「ギュッと」音が聞こえるくらいに一度に強く締め付け、そこから何十秒かジャージの男の首を絞めつけた。猩々色に染まった彼の顔は血走った眼が釣り上げられた深海魚のように大きく飛び出し、口は大きく開き、穴と言う穴から体液が垂れ流れている。クタッと頭が下を向き、力が無くなったところで女性はジャージの男の首から手を離した。
「あなたが臨んだ通り、助けてあげたよ。私、ミロがね」
和也が、公園中に鳴り響いていたリリィのデビュー曲が鳴りやんだのに反応し、ジャージ男が歩いて行った方向に視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。長身で黒いオーバーコートを着込んでいるその人は、顔立ちからして日本人ではない。アメリカ人だろうか。またスタイルもよくとても細い。金髪の髪の毛は肩よりも長いく綺麗だ。そして一番の特徴はアクアマリン色をした瞳が鮮やかに輝いていることだった。そんな女性の足元、黒いハイヒールの傍で、ジャージの男は仰向けになり横たわっている。
和也はその光景を見て自分の目を疑った。まず、ジャージの男が占い師のお店に向かったのは数十秒前だ。彼は普通に歩いて店の前に行き音楽を止めたのだろう。その間にこの公園に入り、ジャージの男を怯ませることが出来るのだろうか。
そんなことを和也が考えていると、女性が大声を上げながら公園の入り口に向かって歩き出した。
「おいそこのチンピラ! あんたらのボス、そこで伸びてるんだけど? 全然楽しめなかったわ」
その言葉を聞いてヤクザの二人が振り向く。
「誰だてめぇ! っておい! 兄貴が倒れてるぞ!!」
「なんだと?……おめぇ、まさか兄さんに手ェ出したんか?! どこの組の野郎だ?!」
二人は女性に向かって走り出した。ポケットから小型ナイフを取り出し、勢いよく刃を出す。
「組ね……昔はスパイとして多くの人をヤッて来たけれど、日本の組織には一度も入ったことはないよ」
そう女性が言うと彼女も、ナイフを取り出し、近づいてくる二人に向かって走り出した。
勝敗が決まるのにそんなに時間はかからなかった。女性はハリウッド映画で見るようなキレキレの動きで二人を追い詰める。それに対し、ヤクザは手も足も出ない。ナイフを持った右手を突き出し、女性の動きに合わせて後方に後ずさる。
「なんだい、面白くない奴らだ。これじゃあ、遊びにもならないね。ただでさえ私の「殺し」は楽しんで行うものなのに、これじゃあ退屈でしかない」
そう言うと女性はナイフをヤクザの一人に投げつけ見事左肩に命中させる。
そいつの苦しむ声を聞きながら、女性はオーバーコートを両手で翻し、腰に取り付けられたホルスターから黒色と鼠色をしたハンドガンを手に取る。そして彼女はそれらをヤクザの方に構えると、容赦なく引き金を引いた。計六発。鼓膜が破れるくらいの大きな音が鳴り響くとヤクザの二人は一斉に倒れこみ、彼らの体に空いた穴からは、ワインのような濃く赤い血液が少しの高さを保ちつつ流れ出した。
和也は銃声が公園含め住宅街に響き渡ったと同時に両手を耳に当て、ヤクザ二人が倒れるところまでを見ていたがそこから先は顔を背け直視しないようにした。なぜかというと銃を撃った女性が彼ら二人から流れ出た濃い血を顔中に塗ったくり、匂いを嗅ぎ、甲高く笑い始めたからだ。時折、何かをすするような音も聞こえたが、女性が二人の血を飲んでいると想像したくも考えたくもなかった。
そんなことで和也は倒れた占い師に視線を移すと、膝を引きずりながら彼女に近づいて行った。もう少しで占い師に手が届くというところまで来た時、彼女が何事もなかったように静かに立ち上がり、服に付いた砂埃をはたき落し始めた。
「あーあ、こんなに汚れちゃった。でも間に合ってよかったよ」
占い師はそう言いながら血を浴びている女性の方を向く。そして占い師は右ポケットからスマートフォンを取り出すと女性に向かってそれをかざした。
「ありがとうミロ。また今度お前の力を借りるよ」
占い師がそう言うとスマートフォンから光が放たれ、ミロと言われた血まみれの女性を包み込んだ。数秒後、光とともにミロは消え、その場には血まみれで倒れているヤクザ二人だけがそこに横たわっていた。
「占い師さん、大丈夫だったんですね」
和也が占い師に話しかけると彼女は和也を鋭い目つきで睨み付けた。
「あんたがめそめそ怖がってるからこうなったんだぞ。私がもしものことを考えて対策を練っていたからよかったものの、何もしてなかったら今頃どうなっていたか!」
その言葉に和也は返す言葉もなく、小さく「すみません」と呟くと占い師は「聞こえねぇよ!」と低い声で和也に言い放った。
「まあ無事でよかった。でもまだ仲間がここに来るみたいだからね。さっさとここから逃げないと。ミロが拳銃を使ったせいで面倒なことになってるからね」
占い師の言葉を聞いて和也は先ほどから聞きたかったミロのことについて詳しく聞こうと質問する。
「あの女性……ミロって誰なんですか? 光になって消えちゃったんですけど……」
「あれについてはここから逃げた後に説明する」
そう占い師は言い放つと公園の出口に向かって走りだした。
「ちょっと、待ってくださいよ! 足が痛くて速く走れないんです! あと、話が!」
足を引きずりながらも和也は占い師の後を追う。
「いいだろう。分からないだろうが少しだけヒントをやる。彼女は私がコレクトした。ただそれだけだ」
和也はそのヒントを聞いたところで占い師が何を言っているのか当然分からないのだが、その秘密を知るためには占い師について行くしかない。というか和也自身がこれから生きて行くためには、彼女について行くしかない選択がなかった。これから先、例え一人で逃げたとしてもいつかは殺されてしまうだろう。だったらいっそ占い師について行って、先ほどの話にあった仕事をして生きていくほうがまだ楽かも知れない。和也はそう走りながら考えることにした。ふと後ろを振り返る。小さくなった公園が見えるのだが、占い師のお店はいつの間にか消えていた。しかし、三人の遺体はそのまま土の上に置かれている。
「占い師さん、あの三人はあのままでいいんですか?」
和也がそう占い師に聞くと「大丈夫」と一言だけいって目の前の交差点を右に曲がって行った。和也も足の痛みを我慢しながら和也も交差点を右に曲がって行った。
「これからどこに行くんですか?」
「私たちのアジトであり、あんたの家になるところだよ」
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「たく、話が違うぜ。ターゲットの家の前にいたのによ」
公園の前に黒いハイエースが一台停車した。エンジンが切られ運転席から一人の男が降りてくる。服装はだぼだぼのパーカーにブカブカのジーンズ、そして真っ赤なスニーカーを履いている。日本人とアメリカ人のハーフなのだろうか。アフリカ系アメリカ人のような肌色にドレッドヘア、黄色と緑色、赤色の横縞模様のニット帽を被っている。
「ブラザー? いないのか? 返事しろよ ブラザ……」
男が公園に入るとそこには血まみれになって倒れている男性二人の姿が目に入った。
見覚えがある、まさか!
男が近づくと、そこには先ほど一緒に車に乗ってターゲットの家に行った仲間達の姿だった。
「お、おい! しっかりしろ……!」
ゆすっても反応がない。男はこの二人が殺されたことをここで改めて自覚した。ふと顔を上げると少し離れたところで男の兄貴分である男も倒れている。彼らは誰かに殺された。そうはっきり理解した瞬間だった。
男はスマートフォンを取り出し電話を掛ける。
「ボス! 大変です。みんな殺されました!」
男はボスと言われる名前の人物に目の前で起きている状況について説明をする。
「ほぉ、三人がやられたか。分かった。お前は警察に連絡しろ。くれぐれも間違えるなよ、俺の知り合いのところにだ。上手く頼んで今回のことはもみ消してもらう。そしたらお前はすぐにこっちへ戻って来い! 誰にも見られるなよ」
低く太い声。ボスを知っている人物が聞けば誰もが背筋を伸ばし、その恐ろしさに震え上がる。騒いでいる赤ん坊もすぐに泣き止む。ボスの声はどんな雑音の中でも存在感を消すことはない。電話を通して聞いても鳥肌がとまらないほどの恐怖を与えるのだ。事実、今電話していた男、BJも体中の毛が逆立ち足の震えが止まらない。
「分かりました。ボス」
耳元でプチっという嫌な音が聞こえたところでボスの存在感は消える。
男はスマートフォンを手にもったままもう一度仲間だった男たちの姿に目を移す。
「誰がこんなことを……」
男はそういい残し、黒いハイエースのほうへ走り出した。
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「三村和也と鴉夜女が会ってしまったか」
暗い部屋で革で出来た高級ソファーに座った男。体は筋肉質で肩幅が広い大柄の男は白いスーツを身にまとい、紅色のネクタイを締めている。右手にはワイングラスが握られ、三分の一程度のワインがグラスの中で波打っている。これはグラスを程よく揺らしているからではない。男のグラスを握る右手にどんどんと力が加わっているのだ。
「許せん、許せんぞあの女!!」
そう男が叫んだ時、ワイングラスが同時に割れ、頭に響く高い音と共に男の真っ白なズボンへとその破片とワインが弾け飛んだ。
「クソが! 許さんからな。私から逃げられると思うなよ。絶対に殺してやるからな」
「二人まとめてな……」
続く
Collector's
第一章
First collect サリィ編
第一話 完
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本編に出てくる殺人鬼ミロは、私が書いた作品『血塗られた藍玉』にも出てきます。
気になる方は是非そちらも読んで見て下さい!
すぐには立ち直れない。
深い深い谷底に身一つで突き落とされたようなどうしようもない絶望感が和也を包み込み、蝕んでいく。
夜遅くの公園。細々と光る電灯の下でブランコに一人揺られながら、和也はため息をした。
「明日から来なくていいから」
仕事でのミスは誰にでもある。猿も木から落ちる。しかし、落ちた場所が悪かった。
和也の仕事はマネージャーである。芸能事務所に所属するアイドルのマネジメントを担当するのが和也のミッションだ。そんな中、「芸能界のドン」と言われでいる大御所、菅原藤四郎との仕事の打ち合わせで、和也がたった一言失言をしてしまったことにより彼の怒りに触れてしまった。その結果として次の日には会社から自分の机がなくなり、籍がなくなり……終いには自分が担当していたアイドル、丸目リリィも急な事務所移籍として和也の前から姿を消したのだ。電話をしても繋がらないため、和也には彼女がどうなってしまったかは分からない。
こうなることは和也もひとつの噂として聞いたことがある。菅原藤四郎の機嫌を損なうと社会的地位を失うというものだ。和也が失ったのは職だけである。社会的地位がなくなった訳ではないため、まだ救いはあるかもしれない。ただ、この先職失くしてどうやって生活をしていくのか。和也も少しは考えているのだろう。額に手を当てては目を瞑り座りこんだ。頭の中がチクチクと痛むのだろう。気持ちは分からなくはない。
「俺はこれからどうすればいいんだ」
仕事の全てを失った和也は現実から逃げるようにビジネス街を歩き回った。そして気付けば日も沈み、こうして人気の無い公園で一人寂しくブランコを揺らしている。一度は和也も家に帰ろうかと考えたが、会社と同じように自分の部屋が勝手に解約されていたらと考えてしまったのだろう。駅に向かう足をこの公園に向けた。これは実家も同様だ。菅原藤四郎が一日でここまでしてしまうとなるととても恐ろしい。だから和也は一人で、誰の迷惑にもならないよう、ここに座っているのだ。
「ちょいとお兄さん。すこしお話しましょうよ」
和也は不意にどこからか声を掛けられた。
女性の声だ。ただ、どこから聞こえるのだろうか。
「こっち、こっち。あんたの背後にいるよ」
背後?
和也はブランコを両足で止め、その場に静かに立ち上がった。ゆっくりと背後を振り返ると、数メートル離れたところに「占います。 ワかれろ屋」と書かれた四角柱の置物が薄橙色に弱々しく点滅していた。またそれらの灯で、黒いマントに全身を覆い尽くしている人が置物の横に座っているのが分かる。暗闇の中で小さなお店が不気味に浮き上がっていた。
和也は「ヒエッ!」と非常に情けない声を小さく上げながらも、なるべく自分が驚いている様子を彼女に悟られないようにしながら背後に現れた不思議な占い屋をジッと見つめた。
「占い屋なんてあったか?」
和也はこの公園に来た時の事をはっきり思い出そうと必死に脳を回転させるが、職を失った事実があまりにもショックすぎたのと、意識もしっかりと保てていなかったためかその時の記憶が全くない。ましてや和也は自分がブランコに座ってた間も背後にお店が出ていたことなど知らなかったのだ。
いったいこの占い師はいつからここにいたのだろう。
「うーん……そうねぇ。でも私はお兄さんがここに来るのをずっと前から待っていたのだけど……」
「ずっと前!? というか、俺の考えてることが分かるんですか?」
和也の驚く反応を見てか、占い師は小さく笑うと自分の所へ来なさいとでも言うように手招きをはじめる。
「あ、あなた……本当に占い師ですか?」
「決まってるでしょう。逆に考えてみなさい。お兄さんの考えてることが分かるんですよ? そこらの同業者よりは確実な占いが出来ますよ」
そう自信満々言う占い師に和也は恐る恐る近づいていく。占い師との距離は目と鼻の先なのになぜかすごく遠く感じてしまう。和也がそう感じるのも無理はない。占い師が恐怖でしかないのだ。おばけのように唐突に現れ、占ってやると言われれば普通の人ならば直ぐさま逃げ出すだろう。しかし、和也は逃げない。事実として和也は半歩づつ占い師に近づいている。その姿は夜中のトイレに一人で行く子供のようにゆっくりで慎重だ。これは和也に逃げる場所などなかったからだが、占い師に近づくたびに自ら罪を犯していくような罪悪感に身体中が包まれていくような感覚を覚えた。
「やっと来たわね。そこの椅子に座って。占いを始めましょう」
和也は小さな机を挟んで、占い師の目の前に座る。占い師は机の上に水晶やタロットカードを出すことはない。その代わり、今まで顔全体を覆っていたフードをゆっくりと上げ、今まで隠れていた素顔を露わにした。女優のような小さな顔。肩まで伸びた黒い髪。雪のように白い肌。外国人のようなシュッとした鼻筋に尖った鼻。目つきは鋭く、なんでも見抜いてしまいそうな目力に和也は占い師から一瞬視線を逸らす。占い師はそれを見ると少しにやりと笑った。
「ここでは恋愛の占いが無料でできるわ。私自身他人の恋愛について聞いたり、意見したりすることはあまり好きではないのだけれど、お店の名前がこれだからそういった話が多いの。だからいっそ無料で聞いてるの」
「恋愛ですか……。最近恋はしてないですね」
和也が答えると占い師は「そう……」と寂しそうに呟いたが、すぐに笑顔になり話を続けた。
「じゃあ次にいくわ。私はあなたの考えを読める。だからあなたの今置かれている状況について整理することが出来るの。だからそれをしましょう。話すこともそれがメインですからね。もしそれに相違点や不足してる点があったら、私の話を遮るようにして教えて頂戴」
「わ、分かりました」
和也がそう返事をすると、占い師は話をはじめた。
「お兄さんの名前は三村和也。年齢は……そろそろ三十路ってところかしら。そんなまだまだ若い男が職を失った。理由は仕事でのトラブルね。担当アイドルにでも手を出したのかしら?」
「ちょっと!!」
なんてことを言う占い師だ。和也は話を遮る。
「そんなことしてません!」
「リリィの裸を見たことは事実でしょ? 違う?」
「うっ! 確かに事実ですが……」
占い師に話してもいないことを当てられ、和也は彼女がなんでもお見通しであることを再確認するが、それならなぜもう一度整理する必要があるのか分からなかった。
和也は占い師に職を失った経緯を一から順に説明する。そんなに長い話ではない。
「菅原藤四郎という男に圧力をかけられたということね。確かにあなたの言っていることは正しいし、それは事実でもある」
占い師の声のトーンが低くなる。和也は「どういうことですか」と占い師に聞き返した。
「菅原藤四郎はただの俳優ではない。警察が目をつけるほどの危険人物だ。彼は裏社会でも有名な人で、色々好き勝手やってる。例えば歌舞伎町。そこには菅原が運営する違法カジノがいくつもあるし、水商売施設の全般は彼が一枚噛んでる。あとは結構な数の手下がいるみたい。お兄さん、一度家に帰ろうか迷ったでしょう。あのまま帰ったら菅原から命令されたヤクザ達に殺されてたわよ」
「そ、そんな……」
「あとお兄さんが働いてた芸能事務所だけれど、あそこももう終わりね。今頃会社の社長とあんたの上司は菅原から賄賂を受け取って笑いあっているか、殺されてるかの二択よ。あと……そう、あんたの担当してたアイドルだけど……」
「リリィ……! リリィは無事なはず、彼女は菅原に気に入られてたから……!」
和也は小さな机に両手を叩きつけ、身を乗り出して言う。占い師の顔にぶつかりそうだが、リリィのことで頭がいっぱいなのだろう。和也は力強く訴える。
占い師は和也のそんな姿に少し驚いたが、すぐに彼の両肩を掴み席に座らせた。
「近い! 落ち着きな」
「でも! 自分にとっては大事な人なんです! もし、自分の犯した間違いでリリィが痛い目に遭っていると考えたら……」
「リリィは大丈夫だよ。今のところはね」
「今のところって……」
「私の常連さんに頼んでなんとかリリィを菅原の芸能事務所、ワールドワイドから遠ざけたわ。私が何も動かなかったら、今頃リリィは菅原と一夜を共にしてたかもね」
「言い方! そういうのやめてくださいよ!」
仕事柄こういった話をされるのは正直好きではない。この占い師は俺を馬鹿にしているのだろうか。和也は心の中でそう思いつつもリリィを守ってくれたことに関しては正直嬉しく感じた。そしてリリィが菅原の元から離れていてくれたことにとても安心した。しかし、不思議である。なぜこの占い師はリリィのことを守ったのだろうか。
「そこまでしていただいて、ありがとうございます。でもなぜあなたがリリィのことを? それに、こんなことまで……」
和也のその言葉を聞いて占い師は、「うむ」と小さく返事をすると、周りを確認するようにゆっくりと顔を動かした。
「もうそろそろ菅原の手下がお兄さんを探し始める頃かもしれない。これまで長く話をしてきたけど、実はここからが本題なの」
それを聞いて和也は目をまん丸くし、小さく返事をする。
占い師は話を続ける。
「お兄さんは上司から明日から来なくていいと言われた。ということは今は無職だ。自分が帰る場所も無く、実家に帰ろうとすれば大事な家族も菅原に狙われる。じゃあどうするか……。そこでだ、私がお兄さんに仕事を紹介してあげようというわけ。寝床はあるし、最低限人としてしっかりとした暮らしも出来る。どう? 悪くはないでしょう?」
和也はその言葉を聞いて正直嬉しかったが、少し躊躇った。いや、躊躇わないとおかしい。まず、この人は確かに占い師としての実力はあるのかもしれない(まともに占ってもらってはいないが)。しかし、それにしても怪しすぎる。実際にどのような仕事をするのか? 福利厚生は? 社風は? などの働くうえでの色々な疑問が和也の頭の中で無数に増えていった。話に乗るべきかどうかと和也は顔を真っ赤にして考える。とその時、和也の後ろの方から男性の大声が夜遅い静かな住宅街に響きわたった。
「三村ァ!! どこにいるんだァ?!」
「ずっとあんたの部屋で待ってたのによぉ!!」
「逃げても無駄だぞ!! 出て来いや!!」
和也はまた「ヒェッ!」と叫ぶと自分の身を守るように両手で頭を抱えて丸くなった。菅原の手下が和也を捕まえるためにここまでやってきたのだ。まだ姿が見えないのはある意味救いである。
「菅原の手下がもうここまで」
占い師が和也を見ると彼は机にしがみつきプルプルと震えている。
「どうにかして三村和也をこの場所から逃がさないと、あとあと大変なことになる」
占い師は丸まった和也に逃げるように促した。
「お兄さん、菅原の手下がもう少しでここに来ます。私と早く逃げましょう!」
しかし、和也は小さく丸まったまま動こうとしない。何回促しても和也は動きはしないのだ。
占い師はそんな弱気な和也を見るなり大きな溜息を一つすると「嗚呼」と低い声で唸り、両手で彼の頭を抱えて言い放った。
「アンタのその情けなさ、見ててすごいムカつくわ! おい! 追っ手がすぐそこまで来てんだよ! そーやってウジウジ小さくなるだけか。起きろ!! 早く!!」
占い師が和也の肩を掴み、力ずくで彼の体を起き上がらせる。勢いが付きすぎて和也は背中から椅子ごと地面にひっくり返った。
「イタッ!! な、何するんですか!」
「うるさい! あんたの態度にむかついたんだよ。いちを私のお客さんのようなモノなのだから、優しく接してあげてたけれど……もう耐えられない! 私はウジウジしてるやつは嫌いなんだ!!」
先ほどまでの緩やかな話し方とは真逆の、荒々しい口調に鋭い視線の先の眼光。弱弱しい和也を上から見下すような占い師の態度は先ほどまでの様子からは想像が出来ない。
「占い師さん?!」
「いいから早く立って! ここから逃げるよ!」
占い師は地面に転がる和也の右手を取る。占い師の走る勢いと共に、和也も綺麗にクラウチングスタートを決めたいところだが見事にずっこけ顔から地面にスライディングを決める。しかしそれでも占い師は足を止めない。
「イタッ痛い! ちょっと!! 引きずらないで!!」
「我慢しな!! 大声を出さないで! 見つかっても知らないわよ!!」
占い師が走りながらそう言った時、彼女の目の前に太い鉄の棒が現れたかと思うと、顔面の右半分にそれが直撃した。占い師は走っていた方向と反対側に吹き飛ばされ、そして引きずられていた和也も少しだけ後方に転がった。
「ナイスバッティング!」
「見つけたぜ三村」
「声がデカすぎるんだよ。ババァ!」
大柄の男が三人。髪を刈り上げた眉のない男、ストリート系ファッションに身を包みタバコをふかしている男、そして最後に黒地に金色の文字がプリントされた上下ペアのジャージ男が、ガニ股歩きで公園に入ってきた。ジャージ男が汚れた金属バットを持っているため、先ほど占い師を殴ったのは彼だろう。
三人はへらへらと笑いながら占い師と和也の方に近づいていく。
和也は倒れた勢いと、引きずられた影響で身体のあらゆるところが痛かったが意識はしっかりしている。そのため、今自分達に起きている状況をしっかりと理解しようと気絶したふりをして息を潜めることにした。
占い師はバットで顔面を殴られてから身動き一つしていない。
「兄さん、ちょっとやり過ぎたんじゃないんですか?」
倒れている占い師の足元で眉のない男は話はじめた。
「いいんだよこのくらい。この女なんかボスの周りを色々と嗅ぎまわってたみてぇでよ。後々仕事を回されてたかもしれないから丁度いいじゃねぇか」
ジャージを着た男は二人の兄貴分らしい。金属バットで占い師の体を触り始める。占い師は地面にうつ伏せになった状態で倒れている。ジャージ男が占い師の髪を金属バットでかき分けると、彼女の妖艶な表情が月夜に照らされた。
「兄貴、この女以外と美人ですぜ。裏で売れば儲かりますよ」
ストリート系男は、先ほどから三村と言いまくっている男である。ジャージ男にそう言ったあと、占い師の顔を写真に収めようとダボダボのジーパンからスマートフォンを取り出した。シンプルな黒色のケースのスマートフォンには不在通知が二件ほど入っていたようで、ストリート系男は少し顔をしかめた。
「兄貴、ボスから電話が来てました」
「あ? ……分かった。早急にこいつらをボスの所へ連れていく。BJに連絡して車をこっちにまわさせろ」
「分かりました」と、二人の声が公園に響くと彼らは公園の入り口に走って行き、一人は携帯を耳に当て話はじめ、もう一人は周りに人がいないかの確認なのか公園の入り口に立ち、周りを注意深く監視し始めた。今和也と占い師の近くにいるのはジャージを着た男一人だけ。和也はどうにかしてこの場を離れなければ占い師と一緒に菅原の元に連れていかれてしまう。しかし和也にはこの状況を打破できる手段は何一つなく、こうして息を凝らして、気絶しているフリをしているしかない。彼らの仲間であろう人物が公園の入り口に車を停車させる、そのときが二人の最後である。和也には残された時間をこのままじっと静かに過ごすしかないのだ。
「このまま俺はこいつらに連れて行かれて殺されるんだ。短い人生だったなあ」
和也がそう諦めかけた時公園に聞きなれた音楽が鳴り響いた。リズミカルなイントロにアイドルソング独特のサウンド、重みが全く感じられない電子音がとても特徴的であるそれはリリィのデビュー曲「彼はポップスター」だ。和也の携帯電話ではない。では占い師だろうか。それともヤクザだろうか。
「兄貴、この音楽」
「うるせぇ曲だ。あの店の辺りからか?」
「兄さん、自分が行きます」
「バカ、俺が行く、てめぇは見張りだ」
ジャージ男は占い師が出していたお店「ワかれろ屋」の方に近づいていく。和也達が倒れているところからはそんなに離れてはいない。しかしお店付近には電灯がなく、お店の机に置かれた四角柱の置物が薄橙色に弱々しく点滅しているだけである。ジャージ男がそのお店に近づいて行くとリリィの曲の音が段々大きくなっていく、しかし同時に曲の暗さも増していった。ジャージ男がお店の机に手が付けるほど近くなった時には、完全に周りは闇に覆われ店先のブランコでさえしっかりと認識出来ないほどに真っ黒だった。机の上に置かれた音楽プレイヤーをジャージ男は手に取る。音楽を停止すると、彼は妙な寒さを感じたのだろうか身震いを一つした。
「なんだぁ? 寒いじゃねぇか」
ジャージの男がそう言った時、消したはずの音楽プレイヤーから再びリリィの曲が流れ始める。もう一度曲を停止させようとするが止まらない。また曲の音程が段々下がり始め段々不協和音へと変化していく。ジャージ男の体は一瞬で強張り、体中の毛が逆立ち始める。二、三度ボタンを押しただけでは止まらない音楽プレイヤーに恐怖を感じたジャージ男はそれを力強く地面に叩きつけた。
「気持ちわりぃんだよ!」
地面に叩きつけられた音楽プレイヤーは音を立てずに黒い地面に転がる。音楽は段々と遅くなり音にもならないような、人のうめき声のような音を発して鳴りやんだ。がその刹那、水に沈むかのように音楽プレイヤーが徐々に地面に埋もれ始め、自分も徐々に地面に埋もれ始めた。泥に足を取られたように身動きが取れず、どんどんと地面に沈んでいく。
「ど、どうなってるんだ! おい誰か助けろよ!!」
沈んでいく速度は早く、ジャージの男が情けない声で助けを呼んでいる間にも腰のあたりまで黒い地面に沈んでいた。部下の二人に助けを求めようと公園の入り口を振り向くが、そこに入口は見えず、お店も沈んだのだろうか、消えてなくなり、ジャージの男は永遠と続く闇の中でもがき苦しんでいる。
「誰か! 誰でもいい!! 助けてくれ!」
そう、ジャージの男が訴えたその時、誰かの手が彼の首を絞め始めた。急に掴めれたため手の大きさなどは分からない。ただ、力の強さは尋常ではない。
「私がラクにさせてあげるよ。すぐにね」
意識が遠のくなかで、ジャージの男は自分の首を絞めたのが女性だと気付いたが、彼は首の中に存在する気管、血管、食堂が女性の微かな温もりに包まれつつ潰され塞がっていくのを感じ取ることしかできない。
「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
女性が高い声で不気味に笑ったかと思うと、「ギュッと」音が聞こえるくらいに一度に強く締め付け、そこから何十秒かジャージの男の首を絞めつけた。猩々色に染まった彼の顔は血走った眼が釣り上げられた深海魚のように大きく飛び出し、口は大きく開き、穴と言う穴から体液が垂れ流れている。クタッと頭が下を向き、力が無くなったところで女性はジャージの男の首から手を離した。
「あなたが臨んだ通り、助けてあげたよ。私、ミロがね」
和也が、公園中に鳴り響いていたリリィのデビュー曲が鳴りやんだのに反応し、ジャージ男が歩いて行った方向に視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。長身で黒いオーバーコートを着込んでいるその人は、顔立ちからして日本人ではない。アメリカ人だろうか。またスタイルもよくとても細い。金髪の髪の毛は肩よりも長いく綺麗だ。そして一番の特徴はアクアマリン色をした瞳が鮮やかに輝いていることだった。そんな女性の足元、黒いハイヒールの傍で、ジャージの男は仰向けになり横たわっている。
和也はその光景を見て自分の目を疑った。まず、ジャージの男が占い師のお店に向かったのは数十秒前だ。彼は普通に歩いて店の前に行き音楽を止めたのだろう。その間にこの公園に入り、ジャージの男を怯ませることが出来るのだろうか。
そんなことを和也が考えていると、女性が大声を上げながら公園の入り口に向かって歩き出した。
「おいそこのチンピラ! あんたらのボス、そこで伸びてるんだけど? 全然楽しめなかったわ」
その言葉を聞いてヤクザの二人が振り向く。
「誰だてめぇ! っておい! 兄貴が倒れてるぞ!!」
「なんだと?……おめぇ、まさか兄さんに手ェ出したんか?! どこの組の野郎だ?!」
二人は女性に向かって走り出した。ポケットから小型ナイフを取り出し、勢いよく刃を出す。
「組ね……昔はスパイとして多くの人をヤッて来たけれど、日本の組織には一度も入ったことはないよ」
そう女性が言うと彼女も、ナイフを取り出し、近づいてくる二人に向かって走り出した。
勝敗が決まるのにそんなに時間はかからなかった。女性はハリウッド映画で見るようなキレキレの動きで二人を追い詰める。それに対し、ヤクザは手も足も出ない。ナイフを持った右手を突き出し、女性の動きに合わせて後方に後ずさる。
「なんだい、面白くない奴らだ。これじゃあ、遊びにもならないね。ただでさえ私の「殺し」は楽しんで行うものなのに、これじゃあ退屈でしかない」
そう言うと女性はナイフをヤクザの一人に投げつけ見事左肩に命中させる。
そいつの苦しむ声を聞きながら、女性はオーバーコートを両手で翻し、腰に取り付けられたホルスターから黒色と鼠色をしたハンドガンを手に取る。そして彼女はそれらをヤクザの方に構えると、容赦なく引き金を引いた。計六発。鼓膜が破れるくらいの大きな音が鳴り響くとヤクザの二人は一斉に倒れこみ、彼らの体に空いた穴からは、ワインのような濃く赤い血液が少しの高さを保ちつつ流れ出した。
和也は銃声が公園含め住宅街に響き渡ったと同時に両手を耳に当て、ヤクザ二人が倒れるところまでを見ていたがそこから先は顔を背け直視しないようにした。なぜかというと銃を撃った女性が彼ら二人から流れ出た濃い血を顔中に塗ったくり、匂いを嗅ぎ、甲高く笑い始めたからだ。時折、何かをすするような音も聞こえたが、女性が二人の血を飲んでいると想像したくも考えたくもなかった。
そんなことで和也は倒れた占い師に視線を移すと、膝を引きずりながら彼女に近づいて行った。もう少しで占い師に手が届くというところまで来た時、彼女が何事もなかったように静かに立ち上がり、服に付いた砂埃をはたき落し始めた。
「あーあ、こんなに汚れちゃった。でも間に合ってよかったよ」
占い師はそう言いながら血を浴びている女性の方を向く。そして占い師は右ポケットからスマートフォンを取り出すと女性に向かってそれをかざした。
「ありがとうミロ。また今度お前の力を借りるよ」
占い師がそう言うとスマートフォンから光が放たれ、ミロと言われた血まみれの女性を包み込んだ。数秒後、光とともにミロは消え、その場には血まみれで倒れているヤクザ二人だけがそこに横たわっていた。
「占い師さん、大丈夫だったんですね」
和也が占い師に話しかけると彼女は和也を鋭い目つきで睨み付けた。
「あんたがめそめそ怖がってるからこうなったんだぞ。私がもしものことを考えて対策を練っていたからよかったものの、何もしてなかったら今頃どうなっていたか!」
その言葉に和也は返す言葉もなく、小さく「すみません」と呟くと占い師は「聞こえねぇよ!」と低い声で和也に言い放った。
「まあ無事でよかった。でもまだ仲間がここに来るみたいだからね。さっさとここから逃げないと。ミロが拳銃を使ったせいで面倒なことになってるからね」
占い師の言葉を聞いて和也は先ほどから聞きたかったミロのことについて詳しく聞こうと質問する。
「あの女性……ミロって誰なんですか? 光になって消えちゃったんですけど……」
「あれについてはここから逃げた後に説明する」
そう占い師は言い放つと公園の出口に向かって走りだした。
「ちょっと、待ってくださいよ! 足が痛くて速く走れないんです! あと、話が!」
足を引きずりながらも和也は占い師の後を追う。
「いいだろう。分からないだろうが少しだけヒントをやる。彼女は私がコレクトした。ただそれだけだ」
和也はそのヒントを聞いたところで占い師が何を言っているのか当然分からないのだが、その秘密を知るためには占い師について行くしかない。というか和也自身がこれから生きて行くためには、彼女について行くしかない選択がなかった。これから先、例え一人で逃げたとしてもいつかは殺されてしまうだろう。だったらいっそ占い師について行って、先ほどの話にあった仕事をして生きていくほうがまだ楽かも知れない。和也はそう走りながら考えることにした。ふと後ろを振り返る。小さくなった公園が見えるのだが、占い師のお店はいつの間にか消えていた。しかし、三人の遺体はそのまま土の上に置かれている。
「占い師さん、あの三人はあのままでいいんですか?」
和也がそう占い師に聞くと「大丈夫」と一言だけいって目の前の交差点を右に曲がって行った。和也も足の痛みを我慢しながら和也も交差点を右に曲がって行った。
「これからどこに行くんですか?」
「私たちのアジトであり、あんたの家になるところだよ」
<<<<<<<
「たく、話が違うぜ。ターゲットの家の前にいたのによ」
公園の前に黒いハイエースが一台停車した。エンジンが切られ運転席から一人の男が降りてくる。服装はだぼだぼのパーカーにブカブカのジーンズ、そして真っ赤なスニーカーを履いている。日本人とアメリカ人のハーフなのだろうか。アフリカ系アメリカ人のような肌色にドレッドヘア、黄色と緑色、赤色の横縞模様のニット帽を被っている。
「ブラザー? いないのか? 返事しろよ ブラザ……」
男が公園に入るとそこには血まみれになって倒れている男性二人の姿が目に入った。
見覚えがある、まさか!
男が近づくと、そこには先ほど一緒に車に乗ってターゲットの家に行った仲間達の姿だった。
「お、おい! しっかりしろ……!」
ゆすっても反応がない。男はこの二人が殺されたことをここで改めて自覚した。ふと顔を上げると少し離れたところで男の兄貴分である男も倒れている。彼らは誰かに殺された。そうはっきり理解した瞬間だった。
男はスマートフォンを取り出し電話を掛ける。
「ボス! 大変です。みんな殺されました!」
男はボスと言われる名前の人物に目の前で起きている状況について説明をする。
「ほぉ、三人がやられたか。分かった。お前は警察に連絡しろ。くれぐれも間違えるなよ、俺の知り合いのところにだ。上手く頼んで今回のことはもみ消してもらう。そしたらお前はすぐにこっちへ戻って来い! 誰にも見られるなよ」
低く太い声。ボスを知っている人物が聞けば誰もが背筋を伸ばし、その恐ろしさに震え上がる。騒いでいる赤ん坊もすぐに泣き止む。ボスの声はどんな雑音の中でも存在感を消すことはない。電話を通して聞いても鳥肌がとまらないほどの恐怖を与えるのだ。事実、今電話していた男、BJも体中の毛が逆立ち足の震えが止まらない。
「分かりました。ボス」
耳元でプチっという嫌な音が聞こえたところでボスの存在感は消える。
男はスマートフォンを手にもったままもう一度仲間だった男たちの姿に目を移す。
「誰がこんなことを……」
男はそういい残し、黒いハイエースのほうへ走り出した。
<<<<<<<
「三村和也と鴉夜女が会ってしまったか」
暗い部屋で革で出来た高級ソファーに座った男。体は筋肉質で肩幅が広い大柄の男は白いスーツを身にまとい、紅色のネクタイを締めている。右手にはワイングラスが握られ、三分の一程度のワインがグラスの中で波打っている。これはグラスを程よく揺らしているからではない。男のグラスを握る右手にどんどんと力が加わっているのだ。
「許せん、許せんぞあの女!!」
そう男が叫んだ時、ワイングラスが同時に割れ、頭に響く高い音と共に男の真っ白なズボンへとその破片とワインが弾け飛んだ。
「クソが! 許さんからな。私から逃げられると思うなよ。絶対に殺してやるからな」
「二人まとめてな……」
続く
Collector's
第一章
First collect サリィ編
第一話 完
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本編に出てくる殺人鬼ミロは、私が書いた作品『血塗られた藍玉』にも出てきます。
気になる方は是非そちらも読んで見て下さい!
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