Collectors 〜無職になった元マネージャーの収集紀行〜

段々寝音

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序章 〜三村和也が無職になるまでの物語〜

三村和也は、握手をする

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 どこまでも上昇するエレベーターの中は異様に静かで喋ることさえも許されない。強張った空気の中で和也とリリィ、そしてこのビルの受付嬢は静かにその時を待つ。このエレベーター内にいる人達が皆笑うのをやめ、上昇しているのを示す数値が表示された画面をにら無む。
 誰もが菅原藤四郎に対して恐怖しているかかかということなのだろうか。少なからず和也とリリィは、その異様な空気に気持ち悪くもなりながらも目的の階まで上がっていくのを今か今かと待ち侘びたのだった。

(確か35階だったかな)

 菅原藤四郎が待つ部屋はそんなに上の方にはない。(和也は最上階を予想していた)しかし、35階全フロアには彼に関わる必要な部署や施設が集められているため、実質彼専用フロアである。
 エレベーターが35階に到着したことを知らせる合図が鳴ると扉が静かに開く。受付嬢が和也達に降りるようにと合図を出すと、彼女は開いておくためのボタンを押した。

「ありがとうございます」

「ありがとう、ございます」

 和也達がエレベーターから降りると左右に通路が伸びているのだが、会議室にあるような普通の扉よりは重厚な扉に二人とも目がいった。

「ここ……ですかね、マネージャー。なんかすごく会議室っぽいですよ」

「もう少し小さな部屋を想像してたんだが……」

「そこの扉を今開けますね」

 和也の背後から受付嬢がそう言うと重そうに見える扉を軽々と開け、ドアをストッパーで固定した。

「ああ、ここなんですね」

 和也の言葉にリリィはクスッと笑った。

「準備が出来ましたので、中でお待ちください。すぐに菅原が来ると思うので」

 扉の前受付嬢がそう案内すると二人は中へ通される。そこはリリィが予想した通り、会議室だった。

「広いですね」

「確かに」

 番組の打ち合わせは今回が初めてではない。前の番組の時はテレビ局内にある小さな部屋の中でギュウギュウ詰めになりながら話し合いをした。しかし、今和也達がいるところはドラマの中で見るような大きな会議室だ。縦長の机が大きな円を描くように置かれ、それらの上にはマイクが設置されている。二人が入ってきた入り口付近には大きなスクリーンが置いてある。

「いやいや、早かったですな三村さん」

 和也の背後から男の人の声が聞こえる。ズッシリとした重みを感じるその声は聞けば中年男性だと誰もが思うほどの声質であり、その声から伝わる重みと同様に大柄で肩幅が広く引き締まった身体が白いスーツの上からでも分かるほどに主張している。紅色のネクタイが全身を包む白色にアクセントを加えている。頭は整髪料で髪をピシッと固めている。これが菅原藤四郎である。彼はガニ股で会議室に入ってくると、和也に握手を求める。

「私が菅原藤四郎です」

「丸目リリィのマネージャーの三村です。先日は申し訳ございませんでした」

 和也は菅原と名刺を交換すると、リリィに挨拶をするように促す。

「丸目リリィです。このようなお話をいただいたことを嬉しく思っています。精一杯お仕事させていただきますので、よろしくお願いします!」

 リリィの言葉に菅原は笑顔を向ける。

「よろしくお願いするよ。ではどうぞ、お座りください。後々番組スタッフがこの部屋に来ると思うので」

 そう言って菅原は和也達の椅子を少し引くと「どうぞ」と手を伸ばした。和也とリリィは頭を下げながらその椅子に座る。

「では私は一度部屋に戻りますので、少々お待ちください」

 菅原はそう言うと会議室を後にした。
 再び会議室は静けさに包まれる。広い部屋に和也とリリィが残される。

「意外と優しい人でしたね」

「そ、そうだね。がたいが良くて少し怖かったけど」

「でも少し匂いました。お香みたいな独特な匂いで、臭かったです」

 そう言ってリリィは鼻をつまむ。
 そんな彼女の姿に笑いそうになるのを必死で堪える。

「仕事中だ。笑うのは帰りの車で」

「は~い」とリリィは嫌そうに答えた。


続く
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