Collectors 〜無職になった元マネージャーの収集紀行〜

段々寝音

文字の大きさ
5 / 9
序章 〜三村和也が無職になるまでの物語〜

三村和也は、訪れる

しおりを挟む
 菅原藤四郎との約束の日はすぐにやってきた。和也は今リリィをつれて菅原の事務所であるワールドワイドに車で向かっているところである。
 ワールドワイドは大企業が多く集まる東京の一等地、銀座のとあるビル一棟全てが事務所になっている。どうやらビルの中にある空き部屋は法人向けに貸出を行っており、多くの企業が日々ビルの空きスペースを奪い合っているらしい。またこのビル以外にも銀座にはワールドワイドが所有しているビルがあるようで、この前起きたとある暴力事件の事件現場として紹介されていた。この事件は関東を代表する暴力団が絡んでいたもので、菅原藤四郎とその暴力団との関係性があるのかないのかという話題が数週間に渡ってワイドショーを騒がせていた。しかし彼がそういった裏社会との関わりがあるという噂はそれ以前から多々あり、菅原本人もそれをネタにするほどであったため、そんなに大きな問題になることもなく知らないうちにその話題について誰も触れることはなくなったのだ。和也本人はそんなに注目してそのニュースを見ていたわけではなかったので、このことについては、先ほどリリィが思い出すまでは、そのことを忘れていたくらいである。

「ここら辺に地下駐車場に入れるところがあるはずなんだけどなぁ」

「大丈夫ですかぁ、マネージャー」

 後部座席からリリィが心配そうに問いかける。

「大丈夫……なはず」

 車の速度をあまり出さずにビルとビルの間を走っていると、警備員らしき人物が二人の乗っている車に止まるように指示を出した。

「どうしましたか、もう四週目ですよ。道に迷いました?」

「ええ、そうみたいなんですよ」

 和也は頭を掻きながら答える。

「どちらに行きたいんです?」

「ちょっとワールドワイドっていう芸能事務所までなんですけどね」

 和也がそう言うと警備員は少し笑顔になって「そうですか!」と答えた。

「いや実はね、わたしワールドワイドの警備員なんですよ。駐車場が地下なんで分かりづらいですよね。こちらです、案内しますよ」

「助かります」

 駐車場はワールドワイド本社ビルの後ろに立てられた雑居ビルの地下にあった。警備員曰く、ここに来る人はみんな個々で警備員に知らせなくては入れないようで、自分から彼に話をしなければならなかったのだという。今回は警備員が「もしや」と思い、話しかけたのだという。しかし、駐車場の件についてそのような連絡は菅原からも、ワールドワイドからも一度もなかった。

「まあ、ここのことは結構知ってる人いますから。事務所側もあなたが知っているだろういう認識を勝手にしたのでしょう」

「はあ……そうですか」

 警備員は笑いながら言うと駐車場内に建てられた小さなプレハブ小屋に入っていった。

「よかったね、駐車出来て。警備員さんが気づいてくれなかったら私たち永遠と外をグルグル走り回ってましたよ」

 後部座席からリリィは言う。

「確かに、今度こそ噂通りにされてたかもしれないな」

 和也は冗談を交えつつリリィに返した。
 プレハブ小屋の中に入っていった警備員への挨拶を済ませると二人は本社が入っているビルに地下通路を通って向かう。50メートルほどある通路は窓がなく、壁はコンクリートで固められている。また今にも切れそうな蛍光灯が二人を天井からチカチカ照らしている様子はまるでドラマで誰かが殺されるような歩道に似ており、とても不気味な雰囲気を醸し出していた。

「ちょっと不気味ですね」
 
 リリィは周りを見渡しながら言う。

「確かに、こういうところも整備したらいいのにね」

 和也はそれを聞いて笑った。

「確かに、電気とかね」

 二人が話をしながら歩いて行くと、一台のエレベーターが扉を開けて待っているのが見える。和也とリリィは急いで中に駆け込んだ。

 ワールドワイドの受付カウンターがある一階は意外にもシンプルなものだった。
 そこはエントランスになっており入り口から受付までは、50メートルほど離れてはいるが、その間には何もなく、外から入る日の光が天井につけられた照明の光と合わさり圧迫感よりも解放感の方が強く感じられる。まだ業務中ということもあり、サラリーマンやオフィスレディが忙しそうに走り回っていた。
 和也はリリィと共に受付カウンターまで歩いて行き、小声で談笑している受付嬢に話しかけた。

「すみません、菅原藤四郎さんとのお仕事の件で伺ったのですが」

「はい、ああ! お待ちしておりました。三村さんとリリィさんですね。菅原から話は聞いております。私が案内しますので、少々お待ちください」

 受付嬢の人が内線電話機の受話器を取りどこかに電話を始める。また、三村に対応していない方の女性は訪問者リストに二人の名前を書き込み、いくつかの書類をまとめるとクリアファイルにそれらを入れ始めた。

「はい、では、そちらに案内します。ええ、分かりました」

 受話器を置くと受付嬢はカウンターから出て、和也の前にピシッと立つと、もう一人の女性がクリアファイルを受付嬢に渡した。

「では案内いたしますのでついて来てください」


続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...