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序章 〜三村和也が無職になるまでの物語〜
三村和也は、訪れる
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菅原藤四郎との約束の日はすぐにやってきた。和也は今リリィをつれて菅原の事務所であるワールドワイドに車で向かっているところである。
ワールドワイドは大企業が多く集まる東京の一等地、銀座のとあるビル一棟全てが事務所になっている。どうやらビルの中にある空き部屋は法人向けに貸出を行っており、多くの企業が日々ビルの空きスペースを奪い合っているらしい。またこのビル以外にも銀座にはワールドワイドが所有しているビルがあるようで、この前起きたとある暴力事件の事件現場として紹介されていた。この事件は関東を代表する暴力団が絡んでいたもので、菅原藤四郎とその暴力団との関係性があるのかないのかという話題が数週間に渡ってワイドショーを騒がせていた。しかし彼がそういった裏社会との関わりがあるという噂はそれ以前から多々あり、菅原本人もそれをネタにするほどであったため、そんなに大きな問題になることもなく知らないうちにその話題について誰も触れることはなくなったのだ。和也本人はそんなに注目してそのニュースを見ていたわけではなかったので、このことについては、先ほどリリィが思い出すまでは、そのことを忘れていたくらいである。
「ここら辺に地下駐車場に入れるところがあるはずなんだけどなぁ」
「大丈夫ですかぁ、マネージャー」
後部座席からリリィが心配そうに問いかける。
「大丈夫……なはず」
車の速度をあまり出さずにビルとビルの間を走っていると、警備員らしき人物が二人の乗っている車に止まるように指示を出した。
「どうしましたか、もう四週目ですよ。道に迷いました?」
「ええ、そうみたいなんですよ」
和也は頭を掻きながら答える。
「どちらに行きたいんです?」
「ちょっとワールドワイドっていう芸能事務所までなんですけどね」
和也がそう言うと警備員は少し笑顔になって「そうですか!」と答えた。
「いや実はね、わたしワールドワイドの警備員なんですよ。駐車場が地下なんで分かりづらいですよね。こちらです、案内しますよ」
「助かります」
駐車場はワールドワイド本社ビルの後ろに立てられた雑居ビルの地下にあった。警備員曰く、ここに来る人はみんな個々で警備員に知らせなくては入れないようで、自分から彼に話をしなければならなかったのだという。今回は警備員が「もしや」と思い、話しかけたのだという。しかし、駐車場の件についてそのような連絡は菅原からも、ワールドワイドからも一度もなかった。
「まあ、ここのことは結構知ってる人いますから。事務所側もあなたが知っているだろういう認識を勝手にしたのでしょう」
「はあ……そうですか」
警備員は笑いながら言うと駐車場内に建てられた小さなプレハブ小屋に入っていった。
「よかったね、駐車出来て。警備員さんが気づいてくれなかったら私たち永遠と外をグルグル走り回ってましたよ」
後部座席からリリィは言う。
「確かに、今度こそ噂通りにされてたかもしれないな」
和也は冗談を交えつつリリィに返した。
プレハブ小屋の中に入っていった警備員への挨拶を済ませると二人は本社が入っているビルに地下通路を通って向かう。50メートルほどある通路は窓がなく、壁はコンクリートで固められている。また今にも切れそうな蛍光灯が二人を天井からチカチカ照らしている様子はまるでドラマで誰かが殺されるような歩道に似ており、とても不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ちょっと不気味ですね」
リリィは周りを見渡しながら言う。
「確かに、こういうところも整備したらいいのにね」
和也はそれを聞いて笑った。
「確かに、電気とかね」
二人が話をしながら歩いて行くと、一台のエレベーターが扉を開けて待っているのが見える。和也とリリィは急いで中に駆け込んだ。
ワールドワイドの受付カウンターがある一階は意外にもシンプルなものだった。
そこはエントランスになっており入り口から受付までは、50メートルほど離れてはいるが、その間には何もなく、外から入る日の光が天井につけられた照明の光と合わさり圧迫感よりも解放感の方が強く感じられる。まだ業務中ということもあり、サラリーマンやオフィスレディが忙しそうに走り回っていた。
和也はリリィと共に受付カウンターまで歩いて行き、小声で談笑している受付嬢に話しかけた。
「すみません、菅原藤四郎さんとのお仕事の件で伺ったのですが」
「はい、ああ! お待ちしておりました。三村さんとリリィさんですね。菅原から話は聞いております。私が案内しますので、少々お待ちください」
受付嬢の人が内線電話機の受話器を取りどこかに電話を始める。また、三村に対応していない方の女性は訪問者リストに二人の名前を書き込み、いくつかの書類をまとめるとクリアファイルにそれらを入れ始めた。
「はい、では、そちらに案内します。ええ、分かりました」
受話器を置くと受付嬢はカウンターから出て、和也の前にピシッと立つと、もう一人の女性がクリアファイルを受付嬢に渡した。
「では案内いたしますのでついて来てください」
続く
ワールドワイドは大企業が多く集まる東京の一等地、銀座のとあるビル一棟全てが事務所になっている。どうやらビルの中にある空き部屋は法人向けに貸出を行っており、多くの企業が日々ビルの空きスペースを奪い合っているらしい。またこのビル以外にも銀座にはワールドワイドが所有しているビルがあるようで、この前起きたとある暴力事件の事件現場として紹介されていた。この事件は関東を代表する暴力団が絡んでいたもので、菅原藤四郎とその暴力団との関係性があるのかないのかという話題が数週間に渡ってワイドショーを騒がせていた。しかし彼がそういった裏社会との関わりがあるという噂はそれ以前から多々あり、菅原本人もそれをネタにするほどであったため、そんなに大きな問題になることもなく知らないうちにその話題について誰も触れることはなくなったのだ。和也本人はそんなに注目してそのニュースを見ていたわけではなかったので、このことについては、先ほどリリィが思い出すまでは、そのことを忘れていたくらいである。
「ここら辺に地下駐車場に入れるところがあるはずなんだけどなぁ」
「大丈夫ですかぁ、マネージャー」
後部座席からリリィが心配そうに問いかける。
「大丈夫……なはず」
車の速度をあまり出さずにビルとビルの間を走っていると、警備員らしき人物が二人の乗っている車に止まるように指示を出した。
「どうしましたか、もう四週目ですよ。道に迷いました?」
「ええ、そうみたいなんですよ」
和也は頭を掻きながら答える。
「どちらに行きたいんです?」
「ちょっとワールドワイドっていう芸能事務所までなんですけどね」
和也がそう言うと警備員は少し笑顔になって「そうですか!」と答えた。
「いや実はね、わたしワールドワイドの警備員なんですよ。駐車場が地下なんで分かりづらいですよね。こちらです、案内しますよ」
「助かります」
駐車場はワールドワイド本社ビルの後ろに立てられた雑居ビルの地下にあった。警備員曰く、ここに来る人はみんな個々で警備員に知らせなくては入れないようで、自分から彼に話をしなければならなかったのだという。今回は警備員が「もしや」と思い、話しかけたのだという。しかし、駐車場の件についてそのような連絡は菅原からも、ワールドワイドからも一度もなかった。
「まあ、ここのことは結構知ってる人いますから。事務所側もあなたが知っているだろういう認識を勝手にしたのでしょう」
「はあ……そうですか」
警備員は笑いながら言うと駐車場内に建てられた小さなプレハブ小屋に入っていった。
「よかったね、駐車出来て。警備員さんが気づいてくれなかったら私たち永遠と外をグルグル走り回ってましたよ」
後部座席からリリィは言う。
「確かに、今度こそ噂通りにされてたかもしれないな」
和也は冗談を交えつつリリィに返した。
プレハブ小屋の中に入っていった警備員への挨拶を済ませると二人は本社が入っているビルに地下通路を通って向かう。50メートルほどある通路は窓がなく、壁はコンクリートで固められている。また今にも切れそうな蛍光灯が二人を天井からチカチカ照らしている様子はまるでドラマで誰かが殺されるような歩道に似ており、とても不気味な雰囲気を醸し出していた。
「ちょっと不気味ですね」
リリィは周りを見渡しながら言う。
「確かに、こういうところも整備したらいいのにね」
和也はそれを聞いて笑った。
「確かに、電気とかね」
二人が話をしながら歩いて行くと、一台のエレベーターが扉を開けて待っているのが見える。和也とリリィは急いで中に駆け込んだ。
ワールドワイドの受付カウンターがある一階は意外にもシンプルなものだった。
そこはエントランスになっており入り口から受付までは、50メートルほど離れてはいるが、その間には何もなく、外から入る日の光が天井につけられた照明の光と合わさり圧迫感よりも解放感の方が強く感じられる。まだ業務中ということもあり、サラリーマンやオフィスレディが忙しそうに走り回っていた。
和也はリリィと共に受付カウンターまで歩いて行き、小声で談笑している受付嬢に話しかけた。
「すみません、菅原藤四郎さんとのお仕事の件で伺ったのですが」
「はい、ああ! お待ちしておりました。三村さんとリリィさんですね。菅原から話は聞いております。私が案内しますので、少々お待ちください」
受付嬢の人が内線電話機の受話器を取りどこかに電話を始める。また、三村に対応していない方の女性は訪問者リストに二人の名前を書き込み、いくつかの書類をまとめるとクリアファイルにそれらを入れ始めた。
「はい、では、そちらに案内します。ええ、分かりました」
受話器を置くと受付嬢はカウンターから出て、和也の前にピシッと立つと、もう一人の女性がクリアファイルを受付嬢に渡した。
「では案内いたしますのでついて来てください」
続く
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