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序章 〜三村和也が無職になるまでの物語〜
三村和也は、噂を信じている
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「申し訳ありませんでした!」
和也は携帯電話を耳にあて、全力で頭を下げる。気持ちがこもると目の前に人がいるいないは関係ない。深く頭を下げるのは、言ってしまえば仕事をしていくなかで自然に体に染み付いたものである。
「はっはっ! 大丈夫ですよ。私が少し焦ってしまったところもありますから」
菅原はそう言って笑った。
「で、テレビ番組の件なんだけどね」
「はい!」
「来週の今日はどうですかな。無理なのであればそちらの日にちに合わせますが」
和也は予定帳を開きリリィの予定を確認する。来週の今日には予定は入っていない。これなら大丈夫そうだ。
「はい、大丈夫です。その日にお願いします」
「そうですか。それは良かった。ではその日に私の事務所。ワールドワイドに来てください。時間は1時半にしましょう」
「分かりました。ありがとうございます」
「いい、いい。私が時間を早めただけだからね。忙しいところすいませんでした。お願いします。でわ~」
菅原の電話は和也の「失礼します」を待たずして切れてしまった。
「いや、緊張した」
電話が終わり緊張が解ける。一度は立ち上がったところを、もう一度ソファーに勢いよく座り込む。「もうダメだ~」と言うか和也の疲れ切った、どことなく親父臭く聞こえるセリフにリリィはクスっと笑った。
「菅原さんの噂、信じてるんですね?」
リリィが和也の目の前ま出てくると彼の顔を覗き込んだ。
「それは信じるさ、というか菅原さんが『芸能界のドン』と言われてるのは事実だし。そうなると色々なところに伝手があってもおかしくはない」
「そうですかねぇ」
「そうなのさ」
そんな会話をしていると和也の携帯からアラームが鳴り始める。
「そうだった、こんなにゆっくりしてる時間は無い! ラジオの収録に行くぞ」
携帯のアラームを消しながら、和也が はリリィに言う。リリィはテーブルの上に置かれたハンドバッグを指差した。
「準備万端ですよ! マネージャーは寝てましたけど」
ニヤニヤしながら言うリリィに少しイラっとしつつも「すいません」と謝る。リリィは和也のその言葉を聞いて「よろしい!」と胸を張った。
「自分の意思で寝てたわけじゃないんだがなぁ」
「何か言いました?」
「い、いえ。何も……」
数分後、和也はリリィよりも先に外に出て車に乗った。エンジンをかける前に一度深呼吸をする。
「今日みたいなミスはもう無くさないと」
次は無い。そういう気持ちで行かないと。
そう和也は心に決めてから車のエンジンをかける。そしてリリィが来るのをラジオを聴きながら待つことにした。
続く
和也は携帯電話を耳にあて、全力で頭を下げる。気持ちがこもると目の前に人がいるいないは関係ない。深く頭を下げるのは、言ってしまえば仕事をしていくなかで自然に体に染み付いたものである。
「はっはっ! 大丈夫ですよ。私が少し焦ってしまったところもありますから」
菅原はそう言って笑った。
「で、テレビ番組の件なんだけどね」
「はい!」
「来週の今日はどうですかな。無理なのであればそちらの日にちに合わせますが」
和也は予定帳を開きリリィの予定を確認する。来週の今日には予定は入っていない。これなら大丈夫そうだ。
「はい、大丈夫です。その日にお願いします」
「そうですか。それは良かった。ではその日に私の事務所。ワールドワイドに来てください。時間は1時半にしましょう」
「分かりました。ありがとうございます」
「いい、いい。私が時間を早めただけだからね。忙しいところすいませんでした。お願いします。でわ~」
菅原の電話は和也の「失礼します」を待たずして切れてしまった。
「いや、緊張した」
電話が終わり緊張が解ける。一度は立ち上がったところを、もう一度ソファーに勢いよく座り込む。「もうダメだ~」と言うか和也の疲れ切った、どことなく親父臭く聞こえるセリフにリリィはクスっと笑った。
「菅原さんの噂、信じてるんですね?」
リリィが和也の目の前ま出てくると彼の顔を覗き込んだ。
「それは信じるさ、というか菅原さんが『芸能界のドン』と言われてるのは事実だし。そうなると色々なところに伝手があってもおかしくはない」
「そうですかねぇ」
「そうなのさ」
そんな会話をしていると和也の携帯からアラームが鳴り始める。
「そうだった、こんなにゆっくりしてる時間は無い! ラジオの収録に行くぞ」
携帯のアラームを消しながら、和也が はリリィに言う。リリィはテーブルの上に置かれたハンドバッグを指差した。
「準備万端ですよ! マネージャーは寝てましたけど」
ニヤニヤしながら言うリリィに少しイラっとしつつも「すいません」と謝る。リリィは和也のその言葉を聞いて「よろしい!」と胸を張った。
「自分の意思で寝てたわけじゃないんだがなぁ」
「何か言いました?」
「い、いえ。何も……」
数分後、和也はリリィよりも先に外に出て車に乗った。エンジンをかける前に一度深呼吸をする。
「今日みたいなミスはもう無くさないと」
次は無い。そういう気持ちで行かないと。
そう和也は心に決めてから車のエンジンをかける。そしてリリィが来るのをラジオを聴きながら待つことにした。
続く
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