マナイズム・レクイエム

織坂一

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青年は思い出を頼りに敵を葬る

黒い爪を携えた化け物達

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ここは元々、万が一の避難場所として扱われていた。

今現在は静かなものだが、噂によればこの村は30年前までは近隣の村で起こる抗争に巻き込まれることも多々あったと聞いたことがある。

だから、この洞窟は万が一敵が攻めて来て、家が焼かれたときの避難所とされていたのだと言う。

俺はここに初めて足を踏み入れたが、至って洞窟に変わったところなどなかった。

現に俺も軍にいたときは、洞窟で半日過ごすなんてこともめずらしくはない経験だった。ゆえにここに何か違和感があればすぐに気づける。

この洞窟は比較的頑丈で、横幅もあれば奥行きも深い。伊達に避難所とされているだけあって、恐らく何世帯の家族を避難させるには十分な広さだ。しかし――。


「少し、奥が深いな」


俺は洞窟へと入り、さらに歩を進めていく。

200メートル弱歩いたところで、ようやく岩壁が俺の眼前を立ち塞いだ。しかし俺は岩壁のある一点へと視線を向ける。
岩壁の隅に、なにか記号のようなものが書いてあるが、残念ながら俺には解読出来なかった。

文字数からしてなんらかの文章だと俺は予測するも、それ以外は一切不明。そして俺は今1度周囲を見渡す。
すると、足元には魔方円らしきものが3つほどあった。


「魔方円……? いや、これは――」


足元に書かれた3つの円陣。そこには文字が並んでおり、明らかにそれは結界などではないことを俺は察する。
魔法円ではなく魔方陣。そう俺が予測した瞬間、俺の立っていた箇所がせた。

よく誤解されがちだが、魔法円言うのは結界であり、悪魔などの召喚などを行うときに使うものではない。

このような避難所に書いてあるとすれば、普通は魔法円の方だ。しかし、ただ立っていただけで地を抉るとすれば明らかに人為的な物でしかない。つまり――。


「分かり易すぎる罠だなッ!」


俺は自身が感じた悪寒を頼りに、腰に下げていた剣を抜きその場を飛び抜く。
しかし構えを取ろうとした瞬間、隙など与えまいといわんばかりに、ソレらは魔方陣から湧いて出る。

魔方陣から湧いて出た化け物共の一部は、まるでマスケット銃から放たれた弾のようにこちらの肝臓きゅうしょを狙う。俺は構えこそできなかったが、それでもなお、放たれたソレら弾くだけならば問題はない。

俺は剣の刃はで横に薙ぐ形で一閃を放つ。一閃を放った瞬間、甲高い金属音が響き、俺はなんとか弾丸のように飛んできた化け物共の一部を弾く。

運良くタイミングが合ったことで、僅かであるが衝突作用により、奴らの爪を抉ることに成功した。
即座に俺は距離を置くが、それでもすぐさま黒い爪が俺の喉元へと伸びてくる。

俺は喉元に伸びてきた爪を捌き、そのまま化け物共の湧いて出た魔方陣へ肉薄していく。
幸い、化け物共は爪しか見せておらず、は出ていなかった。

先程俺は我を忘れて剣を振るっていたが、それでもなお長時間の闘いでいくつか分かったことがある。

まず1つめ。黒い爪の化け物は基本爪以外、可視化されないこと。

そのため、黒い爪を折って相手に多少は隙なりダメージを負わせるのが定石だが、厄介なことにこの爪は折ったところで大したダメージにはならない。
これだけだと奴らは無敵に見えるが、決してそんなことはなく抵抗自体は可能である。

確かに爪以外は見えないが、殺気を感じることは可能なのだ。
それどころか、殺気を頼りにしてしまえば、化け物の本体が見えてくる。

目に映るものを捉えず、殺気だけに頼れと言うのは凡人にとっては至難の技だ。だからこそ大群で攻め込まれたら、それこそ助からない。

これを踏まえた上で分かったこと2つ目は、奴らは常に血の臭いを漂わせていること。

つまり、血の臭いを頼りに敵がすぐそこにいるかどうかの判別は可能。なにより爪を折れば、その臭いは瞬時に消え失せる。

奴らの本体は黒い爪よりも瘴気を纏っているためか、血の臭いはより濃い。血の臭いに敏感すぎる俺にとっては分かりやすすぎる指標だ。
だからこそ俺は殺気と血の臭いだけを頼りに、奴らの爪を捌いてはそのまま本体を穿つ。

そして最後に分かったこと――それは爪こそ強度は高いが本体自体は紙並みに薄いこと。ある種、これが奴らの弱点と言えるだろう。

確かに襲い掛かってくる爪は凶悪だが、それを避けて本体を狙えばどうなるかなど自明。まるで濡れた薄紙に腕を突き通すかのような児戯同然と化す。俺が狙っているのはそこだった。

黒い爪をひたすら躱し、血の臭いがする方へと進む。するとぎょろりとこちらを向いた黄金色こがねいろの目玉と視線を合わすことになる。

未だ奴らの名前など知らないが、その姿は例えるならば祭りなどの催しでよくある飾り物だ。
見えるのは爪だけだが、本体との距離を詰めれば目玉のようなものが見えてくる。そしてこの目玉が奴らの本体。

なによりこの本体は目で視るのは難しくとも、光に照らしてしまうと水中にいるクラゲのように薄く発光する。

だから俺はある程度奴らを捌ききった後、そのまま洞窟を駆け抜け、奴らを月明りの元に晒す。するといとも容易く化け物は姿を現し、後は本体である目玉だけを狙っていく。

俺がある程度持ちこたえられたのも、銃よりも剣の扱いに慣れていて、かつ剣の方が適正があったことが起因しているだろう。



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