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第二話 溜息
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働き始めて一年も経たないうちに、客に暴力をふるってクビになった。昔から人の多いところは苦手で、愛想も悪く、すぐカッとなる慧牙にしてみれば、かなり持ったほうだと言えるだろう。マスターにいきなりクビだと言われて腹が立たない、と言うのは嘘だ。客に暴力はふるってしまったが、明らかに悪いのは客のほうだったと慧牙は思っている。男である慧牙に対して、綺麗だとか女に言うような台詞を吐き、どういう意味で言ってきたのかは分らなかったが、先ほどの男からは明らかに下心が垣間見えていた。
学生時代からこれまでもそういう目で見られ、実際に下心丸出しの男に言い寄られたことは何度かあった。その度に慧牙は瞬間的に逆上した。今までに何人ものそういう輩を軽い身のこなしと、急所に蹴りを入れたりすることで相手をのしてきた。病気がちで体力もあまりなかったわりに、喧嘩はなぜか強かった。繁華街から歩いて帰れる距離。比較的静かなアパート街の一画。古い木造のみすぼらしい二階建てのアパートに辿り着く。そして今が深夜というのを全く気にもせず、ドンドンと盛大に音を立てながら一段飛ばしで駆け上がった。去年の春にギリギリの成績でなんとか高校を卒業し、すぐ逃げるように家を飛び出した。家族が嫌い、という訳ではない。
家族から嫌われていたわけでもなかった。むしろその逆だった。生まれつき病弱で特異な容姿を持つ慧牙を守ってくれていた。でもそのことが、気の強い慧牙にしてみたら苦痛で仕方なかった。小さい頃からいつも持病の喘息のせいで学校を休み、病院のお世話になりっぱなし。家でも父親と兄弟の世話になってばかりであった。慧牙にとって、それはとても苦痛なことだった。その苦痛から解放されたくて、慧牙は高校卒業すると同時にこのボロアパートに越してきた。二階に上がり、一番左端の茶色の傷んだドアを無雑作に開けた。もう慣れてしまっているが、時折古いアパート特有の匂いが鼻についく。六畳一間の狭い我が家。ファーのついた黒のジャケットを脱ぎ捨てると、テレビをつけて敷きっぱなしの薄い布団の上に寝転がる。
「あーぁ、だりーなっ」
電気をつけていても蛍光灯の寿命が近いらしく部屋は薄暗い。慧牙の足元が向けられた部屋の角、床の上に直接置かれた小さなブラウン管のテレビからは、部屋の電気よりも明るい光が断続的にチカチカと発している。天井にあるいくつかの染みを見つめながら、慧牙は面倒くさそうな声を上げた。
――仕事、また探さなくちゃならねーのかよ。めんどくせぇ、マスターの馬鹿野郎。客に暴力ったって、ちょっと頭突きして蹴りいれただけじゃねーか。あのくらいなんだって言うんだ、……クソッ。
高校卒業してすぐにバーの仕事についたわけではなかった。卒業してまず働いたのは運送会社であった。アルバイトで一応時給もそれなりに高かった。だが慧牙は運転免許を持っておらず、仕事は倉庫内での整理というものだった。かなりの体力を必要とし、肉体労働であった為に体力のない慧牙には一ヶ月と持たなかった。それ以外にも生まれつきの容姿でからかわれたり、女扱いされたりと精神的にもよくなかったのも原因であった。けれども、最終的に運送会社でのアルバイトを辞めたきっかけは、同じアルバイトの人間を殴ったのが原因だった。その後、バーでの仕事を見つけたのだった。けれどもその仕事も今日でクビになり、慧牙は明日からどうしようかとぼんやりと考えていた。
ほんと、どうすんだよ俺……、貯金もほとんどないし仕事もなくなった。一番面倒なのが仕事を探すことだ。また履歴書とか書かないといけないし、それに今月の家賃まだ払ってない。もう考えるのめんどくせーな。考えることが面倒になって、慧牙は勢いよく起き上がるとシャワーを浴びて寝てしまおうと、赤の長袖のTシャツを脱ごうとしたときだった。帰ってくるなり、脱ぎ捨てたジャケットから携帯の振動音が聞こえてきた。慧牙は脱ぐのをやめると手を伸ばした。
――なんだ、また将かよ。何の用だってんだ、いつも電話してきやがって。
「……なんだよ」
画面を見て、兄である将からの電話であるとことを確認して眉をしかめる。そしてふてくされた様子になりながらも電話にでた。
「よう、元気か?」
電話越しに将の明るい声が聞こえてきた。
「なんだよ、こんな時間に」
慧牙はその場で怒ったような声をあげると、同い年の兄弟の将に返事をした。慧牙と将は実の兄弟ではない。慧牙には同い年の将と、長兄である二つ年上の和哉がいる。この二人とは遠縁の親戚だった。そして、弟である琉牙だけが実の兄弟だった。白野慧牙は五人家族で、あとは岳という父親がいた。慧牙と琉牙は幼い頃に両親を亡くして、遠縁にあたる白野の家に養子として引取られたのだ。岳にしてみれば、実の息子ではなかったが、遠縁ということもあり、慧牙と琉牙を温かく息子として迎え入れたのであった。
「そっか、お前今は夜の仕事してるんだったな。ごめん、仕事中に電話しちまった」
「いいよ、別に。今日からまた無職なったし」
「え? なんだお前、また仕事先で問題でも起こしたのか」
「またってなんだよ、またって。仕事で問題起こして辞めたのは運送会社のときだけだろ、そっから今日まで一度も問題なんか……おこしてねーよ」
言いかけて、バーでの仕事で暴力沙汰になりかけたことは何度かあった。そのたびにマスターから止められていたことを思い出して、少しばかり声のトーンが下がる。
「同じだろ、またなんかやらかしてクビになったんだな。客でもぶん殴ったのか?」
「別に、将には関係ない」
将に原因を当てられて、慧牙は声を詰らせた。将とは実の兄弟ではない。だけど幼い頃から一緒に育ち、同い年というのも関係しているせいか兄弟の中で一番仲がよかった。
「そんな話はどうでもいいよ。なんだよ、用件は?」
話を逸らす為、将に電話してきた理由を尋ねた。
「ったく、この話は直接会った時にたっぷりとさせてもらうからな。まぁいいや、それで電話した理由はさ、けい、お前今日誕生日だろう?」
「えっ!? あ、そうだっけ」
「自分の誕生日位覚えておけよ。今日は二月十四日、バレンタインデーで誕生日だろ」
「あぁそうだった。別に誕生日なんか意識したことないから、忘れてた」
「ほんとお前は自分のことはどうでもいいのな。その性格もうちょっとなんとかしろ。それにすぐカッとなって手を出すのも、もういい加減にやめろ。ガキじゃないんだからさ、親父も和哉も、琉牙もお前のこと心配してんだぞ? 特に琉牙なんか口にこそ出さないが、あいつが一番お前のことを心配してんだ。実の弟だろ? たまには連絡くらいしてやれ。——おい、聞いてるのか?」
だんだん説教じみてきた将の言葉にうんざりしていた。慧牙は携帯を耳から話して眉を寄せていると、将が大声を出して電話越しに慧牙の名を呼ぶ。
「あーもう、聞いてるよ。で、なんだよ? 誕生日おめでとうか? はいはい、それはご丁寧にありがとう。じゃあ、切るぞ」
「待てよ! 勝手に話を終わらせるなって。今日、誕生日だろう? だから今日、帰ってこい」
慧牙の開いた口が塞がらなくなった。
「なに考えてんだ。なんで誕生日だからって実家行って、見たくもねぇお前達のツラ見ながら、ケーキくわなきゃいけねぇんだよ。俺は嫌だね」
「うるさい。お前さ、家出てから一度も帰ってきてないだろう。いいか、絶対! 実家に顔出せよ! 戻らなかったら、親父と和哉と琉牙連れてそっちに乗り込むからな」
「なんでそんなムキになってんの、いくのめんどくせーよ」
「同じ市内だろ、電車乗って三十分くらいでつくだろ。いいから絶対こい」
うんざりしながら慧牙は立ち上がると意味もなく狭い部屋の中をウロウロし始める。
「来なかったらマジでそっちいくから」
「……わかったよ、行けばいいんだろ、行けば。でもすぐ帰るからな!」
この言葉に慧牙は観念したのか頭を掻くとぶっきらぼうに答えた。
「よし、わかればよろしい。昼間は俺達それぞれ用事あっていないから、夕方位に来てくれ。でも、早く着たければ来てても構わないぞ?」
「はいはい、じゃあもう切るぞ」
「あぁ、あとケーキのことまでは考えてなかったけど、ちゃんと用意しておくからな。楽しみに——」
話の途中で慧牙は一方的に電話を切ると、携帯を放り投げて寝転がった。おもしろくなかった。一人暮らしを始めてから、将だけは月に一回は電話をしてきていた。そして慧牙の様子を伺ったり、時には突然訪れたりもしていた。将は慧牙と違って桁違いに頭が良く、彼の成績なら東京の有名な大学でも行けたはずだった。しかし何故か地元から離れることを嫌がった。今は高校を卒業して、この地域で一番レベルの高い大学に通っている。頭が良くてルックスもいい将がなぜ、未だになんのやりたいことも見出せず、フラフラとしている慧牙に構うのかと思っていた。そんな考えが膨らんでくると、いつも慧牙の心の中はムシャクシャするのだった。慧牙はふてくされた様子でむくりと起き上がった。先ほど脱ぎかけてやめた長袖のTシャツを脱ぎはじめた。そしてユニットバスの中へと入っていく。暖かいシャワーを浴び、体を洗いながら慧牙はふと思った。
――俺の誕生日はバレンタインデーだけど、あいつら彼女とかいねぇの? なんでそんな日の夕方にみんな集まって、俺の誕生日祝うわけ? あれ? あいつらみんな彼女いないのか?
先ほど将と話をしていた時には気づかなかった。慧牙はそう考えるといやそうな顔つきをして身震いした。
「……俺もそんなのいないけどさ」
独り言を呟きながら浴室を出る。慧牙は部屋に唯一ある小さな手鏡をローテーブルから取ると、自分の顔を鏡に写した。
確かに日本人である両親から生まれたはずなのに。実の弟も少し日本人離れしているけど、浅黒い肌に黒髪だ。瞳だけは俺と同じ青色だけど、あいつの目の色はかなり濃い。暗い青色だ。どうして俺だけ——。慧牙はすぐに自分の顔を見るのが嫌になり、鏡を元の位置に戻した。そして大きな溜息をつきながら、布団の上にドカッと横になるとぼんやりとテレビを眺めた。
学生時代からこれまでもそういう目で見られ、実際に下心丸出しの男に言い寄られたことは何度かあった。その度に慧牙は瞬間的に逆上した。今までに何人ものそういう輩を軽い身のこなしと、急所に蹴りを入れたりすることで相手をのしてきた。病気がちで体力もあまりなかったわりに、喧嘩はなぜか強かった。繁華街から歩いて帰れる距離。比較的静かなアパート街の一画。古い木造のみすぼらしい二階建てのアパートに辿り着く。そして今が深夜というのを全く気にもせず、ドンドンと盛大に音を立てながら一段飛ばしで駆け上がった。去年の春にギリギリの成績でなんとか高校を卒業し、すぐ逃げるように家を飛び出した。家族が嫌い、という訳ではない。
家族から嫌われていたわけでもなかった。むしろその逆だった。生まれつき病弱で特異な容姿を持つ慧牙を守ってくれていた。でもそのことが、気の強い慧牙にしてみたら苦痛で仕方なかった。小さい頃からいつも持病の喘息のせいで学校を休み、病院のお世話になりっぱなし。家でも父親と兄弟の世話になってばかりであった。慧牙にとって、それはとても苦痛なことだった。その苦痛から解放されたくて、慧牙は高校卒業すると同時にこのボロアパートに越してきた。二階に上がり、一番左端の茶色の傷んだドアを無雑作に開けた。もう慣れてしまっているが、時折古いアパート特有の匂いが鼻についく。六畳一間の狭い我が家。ファーのついた黒のジャケットを脱ぎ捨てると、テレビをつけて敷きっぱなしの薄い布団の上に寝転がる。
「あーぁ、だりーなっ」
電気をつけていても蛍光灯の寿命が近いらしく部屋は薄暗い。慧牙の足元が向けられた部屋の角、床の上に直接置かれた小さなブラウン管のテレビからは、部屋の電気よりも明るい光が断続的にチカチカと発している。天井にあるいくつかの染みを見つめながら、慧牙は面倒くさそうな声を上げた。
――仕事、また探さなくちゃならねーのかよ。めんどくせぇ、マスターの馬鹿野郎。客に暴力ったって、ちょっと頭突きして蹴りいれただけじゃねーか。あのくらいなんだって言うんだ、……クソッ。
高校卒業してすぐにバーの仕事についたわけではなかった。卒業してまず働いたのは運送会社であった。アルバイトで一応時給もそれなりに高かった。だが慧牙は運転免許を持っておらず、仕事は倉庫内での整理というものだった。かなりの体力を必要とし、肉体労働であった為に体力のない慧牙には一ヶ月と持たなかった。それ以外にも生まれつきの容姿でからかわれたり、女扱いされたりと精神的にもよくなかったのも原因であった。けれども、最終的に運送会社でのアルバイトを辞めたきっかけは、同じアルバイトの人間を殴ったのが原因だった。その後、バーでの仕事を見つけたのだった。けれどもその仕事も今日でクビになり、慧牙は明日からどうしようかとぼんやりと考えていた。
ほんと、どうすんだよ俺……、貯金もほとんどないし仕事もなくなった。一番面倒なのが仕事を探すことだ。また履歴書とか書かないといけないし、それに今月の家賃まだ払ってない。もう考えるのめんどくせーな。考えることが面倒になって、慧牙は勢いよく起き上がるとシャワーを浴びて寝てしまおうと、赤の長袖のTシャツを脱ごうとしたときだった。帰ってくるなり、脱ぎ捨てたジャケットから携帯の振動音が聞こえてきた。慧牙は脱ぐのをやめると手を伸ばした。
――なんだ、また将かよ。何の用だってんだ、いつも電話してきやがって。
「……なんだよ」
画面を見て、兄である将からの電話であるとことを確認して眉をしかめる。そしてふてくされた様子になりながらも電話にでた。
「よう、元気か?」
電話越しに将の明るい声が聞こえてきた。
「なんだよ、こんな時間に」
慧牙はその場で怒ったような声をあげると、同い年の兄弟の将に返事をした。慧牙と将は実の兄弟ではない。慧牙には同い年の将と、長兄である二つ年上の和哉がいる。この二人とは遠縁の親戚だった。そして、弟である琉牙だけが実の兄弟だった。白野慧牙は五人家族で、あとは岳という父親がいた。慧牙と琉牙は幼い頃に両親を亡くして、遠縁にあたる白野の家に養子として引取られたのだ。岳にしてみれば、実の息子ではなかったが、遠縁ということもあり、慧牙と琉牙を温かく息子として迎え入れたのであった。
「そっか、お前今は夜の仕事してるんだったな。ごめん、仕事中に電話しちまった」
「いいよ、別に。今日からまた無職なったし」
「え? なんだお前、また仕事先で問題でも起こしたのか」
「またってなんだよ、またって。仕事で問題起こして辞めたのは運送会社のときだけだろ、そっから今日まで一度も問題なんか……おこしてねーよ」
言いかけて、バーでの仕事で暴力沙汰になりかけたことは何度かあった。そのたびにマスターから止められていたことを思い出して、少しばかり声のトーンが下がる。
「同じだろ、またなんかやらかしてクビになったんだな。客でもぶん殴ったのか?」
「別に、将には関係ない」
将に原因を当てられて、慧牙は声を詰らせた。将とは実の兄弟ではない。だけど幼い頃から一緒に育ち、同い年というのも関係しているせいか兄弟の中で一番仲がよかった。
「そんな話はどうでもいいよ。なんだよ、用件は?」
話を逸らす為、将に電話してきた理由を尋ねた。
「ったく、この話は直接会った時にたっぷりとさせてもらうからな。まぁいいや、それで電話した理由はさ、けい、お前今日誕生日だろう?」
「えっ!? あ、そうだっけ」
「自分の誕生日位覚えておけよ。今日は二月十四日、バレンタインデーで誕生日だろ」
「あぁそうだった。別に誕生日なんか意識したことないから、忘れてた」
「ほんとお前は自分のことはどうでもいいのな。その性格もうちょっとなんとかしろ。それにすぐカッとなって手を出すのも、もういい加減にやめろ。ガキじゃないんだからさ、親父も和哉も、琉牙もお前のこと心配してんだぞ? 特に琉牙なんか口にこそ出さないが、あいつが一番お前のことを心配してんだ。実の弟だろ? たまには連絡くらいしてやれ。——おい、聞いてるのか?」
だんだん説教じみてきた将の言葉にうんざりしていた。慧牙は携帯を耳から話して眉を寄せていると、将が大声を出して電話越しに慧牙の名を呼ぶ。
「あーもう、聞いてるよ。で、なんだよ? 誕生日おめでとうか? はいはい、それはご丁寧にありがとう。じゃあ、切るぞ」
「待てよ! 勝手に話を終わらせるなって。今日、誕生日だろう? だから今日、帰ってこい」
慧牙の開いた口が塞がらなくなった。
「なに考えてんだ。なんで誕生日だからって実家行って、見たくもねぇお前達のツラ見ながら、ケーキくわなきゃいけねぇんだよ。俺は嫌だね」
「うるさい。お前さ、家出てから一度も帰ってきてないだろう。いいか、絶対! 実家に顔出せよ! 戻らなかったら、親父と和哉と琉牙連れてそっちに乗り込むからな」
「なんでそんなムキになってんの、いくのめんどくせーよ」
「同じ市内だろ、電車乗って三十分くらいでつくだろ。いいから絶対こい」
うんざりしながら慧牙は立ち上がると意味もなく狭い部屋の中をウロウロし始める。
「来なかったらマジでそっちいくから」
「……わかったよ、行けばいいんだろ、行けば。でもすぐ帰るからな!」
この言葉に慧牙は観念したのか頭を掻くとぶっきらぼうに答えた。
「よし、わかればよろしい。昼間は俺達それぞれ用事あっていないから、夕方位に来てくれ。でも、早く着たければ来てても構わないぞ?」
「はいはい、じゃあもう切るぞ」
「あぁ、あとケーキのことまでは考えてなかったけど、ちゃんと用意しておくからな。楽しみに——」
話の途中で慧牙は一方的に電話を切ると、携帯を放り投げて寝転がった。おもしろくなかった。一人暮らしを始めてから、将だけは月に一回は電話をしてきていた。そして慧牙の様子を伺ったり、時には突然訪れたりもしていた。将は慧牙と違って桁違いに頭が良く、彼の成績なら東京の有名な大学でも行けたはずだった。しかし何故か地元から離れることを嫌がった。今は高校を卒業して、この地域で一番レベルの高い大学に通っている。頭が良くてルックスもいい将がなぜ、未だになんのやりたいことも見出せず、フラフラとしている慧牙に構うのかと思っていた。そんな考えが膨らんでくると、いつも慧牙の心の中はムシャクシャするのだった。慧牙はふてくされた様子でむくりと起き上がった。先ほど脱ぎかけてやめた長袖のTシャツを脱ぎはじめた。そしてユニットバスの中へと入っていく。暖かいシャワーを浴び、体を洗いながら慧牙はふと思った。
――俺の誕生日はバレンタインデーだけど、あいつら彼女とかいねぇの? なんでそんな日の夕方にみんな集まって、俺の誕生日祝うわけ? あれ? あいつらみんな彼女いないのか?
先ほど将と話をしていた時には気づかなかった。慧牙はそう考えるといやそうな顔つきをして身震いした。
「……俺もそんなのいないけどさ」
独り言を呟きながら浴室を出る。慧牙は部屋に唯一ある小さな手鏡をローテーブルから取ると、自分の顔を鏡に写した。
確かに日本人である両親から生まれたはずなのに。実の弟も少し日本人離れしているけど、浅黒い肌に黒髪だ。瞳だけは俺と同じ青色だけど、あいつの目の色はかなり濃い。暗い青色だ。どうして俺だけ——。慧牙はすぐに自分の顔を見るのが嫌になり、鏡を元の位置に戻した。そして大きな溜息をつきながら、布団の上にドカッと横になるとぼんやりとテレビを眺めた。
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