【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第1章

§3 交換条件

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 ソノラさんの瞳が真剣に俺の心を探るように光っていた。神妙な面持ちで俺に覚悟を問う。



「本当に、よろしいのですか?」
「はい。私の身ひとつで援軍が得られるのですから、迷うことなどありません」
「……分かりました」



 ソノラさんが頷き、納得してくれた様子に安堵する。肩の荷が下りる音を心の奥で確かに聞いた。他にも条件があったらどうしようかと思っていたので、またひとつ胸のつかえが取れた。



「援軍についてだが、どの程度動かしていただけるのだろうか」
「まずは足の速い精鋭を一千ほど。……誤解なきようお伝えしておりませんでしたが、すでに国境付近にて待機しており今すぐにでも動ける準備はできています」
「なんと……!」

 ソノラさんは俺が条件を飲むことを予想していたのだろうか?まるで全てが計画されていたかのように、話は進む。何にせよ、援軍が早く来てくれることは有り難い。

 しかし彼女は未だ何かを言いづらそうにしている様子だ。



「何か心配事でも?」
「……実は、国王が援軍の指揮をとり、伴侶となるライゼル様の強さを直に見たいと申しておりまして……流石にそれに関しては私も止めたのですが」



 ……ものすごく困っているようだ。彼女の耳が不安げな様子で前後に振れているのが見えた。

 何なら少し怒っているようにも見える。もしかするとゼフィロス国王は面白い人なのかもしれない。少なくとも、座って待っているだけの人ではないのだろう。



「ライゼル、お前が決めて良い」
「そうだね。相手はお前のことを随分と気にしてくださっているようだが」



 ギル兄は若干考えるのが面倒になってきているように見えるけど……!?

 だが正直なところ渡りに船だ。出来ることならこの戦い、最後まで剣を振るいたいと思っていた。血が沸騰するような高揚感は、疲労で重い身体を突き動かす燃料になる。



「望むところです……! 無理にでも戦場に出ようと思っていたので、寛大な旦那様に感謝せねばなりませんね?」
「……ほんっとうに、恐れ入ります」



 籠の鳥になることを全く心配しなかったかというと嘘になる。

 元より腕っぷしの良さを求められているのであれば可能性は低いだろうと思っていたけれど。
 
 ギル兄とアド兄はソノラさんと打ち合わせをして、あっという間に家臣たちに指示を出して状況を整えていく。

 俺は端からそれを眺めていることしかできないが、せめてもと作戦の内容は頭に叩き込んだ。
 
 そして半刻も掛からぬうちに必要な作戦立案と指示を終え、ギル兄とアド兄がグラスの水を勢いよく煽る。



「ようやくノグタムの阿呆どもを掃除する算段が取れた……感謝する」
「恐れ入ります。我が王も伴侶となる方の母国を守れること、誇りに思うでしょう」
「ライ。作戦は明日の日の出と共に決行だ。短い時間だが休息をとっておくんだよ」
「砦に戻っていいでしょうか?」
「ああ、構わん。……気をつけろよ」
「はい!」



 俺は二人の兄に礼をして部屋を出る。しかし部屋を出たところでソノラさんに呼び止められる。



「お呼び止めして申し訳ございません」
「いえいえ、どうなさいましたか?」
「ライゼル様は……」



 ソノラさんが言い淀む。なんとなくだけれど、俺は彼女が何を言いたいのか分かる気がした。



「どうして、条件を飲んだのか? ですか?」
「……愚問でしたね」



 失礼いたしました、と頭を下げる彼女を制す。
 
 もちろん彼女の考える通り“国の危機だから”と言うのは一番の理由と言っていい。だが彼女が聞きたいのはそういうことと違う、それも分かるのだ。彼女は、俺という個人の「本心」を知りたがっている。



「こんな役立たずの三男でも、交換条件になれたから、でしょうか」
「そんな……!」



 ソノラさんの黒い瞳が、驚きと否定の色に染まる。
 


「分かっています。私はそれなりに努力や研鑽を重ねてきたつもりです。しかしやはり兄二人には程遠く、また理想とも程遠い。そんないじけた性根を持つ私のことを、両親と兄たちが認めてくれて大事にしてくれていることは身に染みて感じています」
「……」
「“理想が高い“、“自分を卑下している“、言葉ではどうとでも表現できます。しかし、心の底ではどれもしっくりきていないのが本音なのです。……この国は大切です。命に変えても守りたいと思う。それは嘘ではない。ただ、ここではない何処かで、まだ見ぬ何か……自分自身はたまた他者なのかは分かりませんが、それを知りたいと思ったのです」



 話しながら自分でもやっと腑に落ちた。そうか、俺はそう思っていたのか、と。
 
 ソノラさんの目が見開かれ、伏せる。黒く艶のある毛並みが光に照らされてきらきらと揺れる。



「我が王の隣で、“それ”が見つかることを切に願っております」
「ありがとう。まずは明日の大勝負、勝ちましょうね」
「はい!」



 再び別れの挨拶を交わした俺たちは、今度こそ各々の持ち場へと向かった。










 


 
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