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第2章
§21‐2 民との交流
しおりを挟む「もしかしてその魔法はスフェーン王国秘伝の魔法なのでは……?」
「いえ、私が作った極々普通の魔法です」
「ライゼル様のおっしゃる普通が我々の普通と違うことは分かりましたッ!」
「だから声が大きいぞビセオ」
「失礼しましたッ!」
「んふっ」
「お二人共、懸念はごもっともですがスフェーン王国のギルフォード王子とアドリアン王子も御承知のことですので、問題ございませんよ」
思わず笑ってしまった俺を助けるようにタイクが説明を加える。それを聞いてようやく飲み込んでくれた二人が、早速畑に案内すると言うので着いていく。
商業ギルドを出て、馬に乗り半刻ほど歩くと畑が見えてきた。
王都の端に位置するので、人々の気配や声よりも風や鳥の羽ばたきの音がよく聞こえる。風が土埃を巻き上げ、乾燥した匂いが鼻をつく。
アリュールの背を降りると、彼から心話で話しかけられる。
「ライゼル、ちょっと散歩して来ても良いか」
「いいよ、行っておいで」
「どうかなさいましたか?」
「あぁ、いえなに、馬が走りたそうなので散歩に行かせようかと」
「ちゃんと戻ってくる賢い馬なのですね」
「えぇ、とても」
まさか愛馬が神の眷属なのでとは言えない。
にこやかに話しかけてくれるソルファは、物腰は柔らかいが芯の強さや独自の美学を持っていそうな印象だ。彼の鋭い眼差しには、全てを見通すような知性が宿っている。商業ギルドのマスターともなれば当然なのかもしれないが。
ビセオが使っても問題ない畑を教えてくれたので、俺は持って来た苗を種類ごとに分けて植える。ビセオも興味津々で手伝ってくれた上、タイクたちもいるのであっという間に一面の畑に苗を植えられた。
「ではみんな少し下がっていてくださいね。――――ルフ・ヴィエンテ・ユエン〈森の涙よ、波紋となりて〉」
魔法に使う魔力量は王城の庭で使用した時より少ない。苗とその周りの土は改良済みだからそれ以外の土だけ潤せば良いのだ。
ソルファとビセオは目と口を開いたまま数秒固まってしまった。二人の名前を呼ぶとゆっくりゆっくり俺の顔を見る。
「この、この土と苗を丸ごと私共にくださると……?」
「はい」
「ほほほ本気でおっしゃっているのですかッ!?」
事前の説明が不十分だったのかと、首を傾げつつタイクに目線をやる。タイクは、物知り顔で丸メガネを押し上げた。
「驚いているお二人のお気持ちは、よーく分かります。ですが、ライゼル様のおっしゃることはそのままま王の意向でもあるので、信じていただいて問題ございません」
はいこれもご覧くださいね、とタイクがソルファに手紙を渡す。恐らくグレンが一筆したためてくれたものだ。
それを受け取り目を通すと、ソルファは驚いた表情はそのままに事情は飲み込んでくれたようだ。
「にわかに目の前の現実が飲み込めず、おかしなことを言って申し訳ございませんライゼル様」
「いえいえ、私も仕事中にお邪魔してすみません」
「それにしてもこの土と苗の品質は素晴らしいです」
「ありがとうございます。今後は土と苗を定期的にギルドへ送りますね。苗より先に土を農家へ分けていただけると、他の土も同じような性質に変わって作物が育ちやすくなると思うので試してみてください」
「ん゛!?」
「はいはい、それも私から説明しましょうね」
土の話をしたところでまた二人が固まってしまったので、タイクが説明をしてくれているようだ。
「ねぇ二人とも」
「なんですかい、旦那」
「はい」
「俺の説明って分かりづらいのかな……?」
「分かりづらいってぇよりは……」
「常識の基準が違うのでゼフィロスの民たちは慣れるのに時間を要するのでしょう」
「そっか。俺の説明が悪いわけじゃないよな」
「どっちかってぇと、魔法と魔力が常人離れしてるって話じゃねぇですかい?」
「そういうことですね」
心配になったことをブラスとティラに小声で聞いてみたが、俺の説明が悪いわけではないらしい。それならよし。
「ライゼル様、またしても理解力が乏しく申し訳ございません。タイク様からお聞きして飲み込めました。しかしこのような大仕事を任せていただいてよろしいのですか?」
「もちろんです。私の力は微々たるものですので、お力をお借りしたいです。その方がゼフィロスの民にとっては受け入れやすいでしょうし。後はその……私が今後数週間忙しくなるので……」
「! そうですね。そちらについても我々がお手伝いできるところはお力添えいたします。ミレイさんからも連絡をいただいておりますので、近日中に係が採寸に伺うかと」
「分かりました。お手数ですがよろしくお願いしますね」
「御意」
……そう。俺にはこれから、“結婚式”の準備が山のように待ち受けているのだ。
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