【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第6章

§47‐1 荊を抱く愛執の淵*

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 横抱きにする腕の力がいつもより強い。決して離さないというように。何かを予感しているのだろう。
 
 きっと、俺の考えていることなどグレンにはお見通しなのだ。
 
 二人とも言葉を交わさぬまま私室へ戻る。扉を開けてくれた兵達に声をかけることもしなかった。

 扉が閉まると、即座に防音魔法をかけたようだ。もしかすると結界も張っているのかもしれない。
 
 ソファに俺を下ろすと、靴を脱がせて服を着替えさせてくれる。無言のまま優しい手つきで何かを祈るようにしながら。
 
 俺に部屋着を着せたら自分も着替える。俺を抱いていたので暑いのかパンツしか履かず、上体はふわふわだ。
 
 こちらに戻ってきてまた俺を抱き上げる。まるで怪我人のようだ。あっという間にベッドに寝かせられる。
 
 グレンは俺の横に腰掛ける。自然と俺の腹に尻尾が乗る。


「……何を考えている」
「……何だと思う?」


 自嘲的な笑いを交えながら答える。グレンの表情が苦悶に歪んだ。そんな顔をさせて、本当にごめん。


「頼みがあるんだ」
「なんだ」
「……今夜、俺を絶対に開かない牢へ繋ぐか、朝まで手酷く抱きつぶしてくれないか」
「……何故だ」


 あぁ、そんな泣きそうな顔をさせたくはないのに。ごめん。それでも俺は言葉を続ける。


「そうでもしてくれないと、俺は今夜あいつの首を切りに行ってしまう。予感じゃない。確信しているんだ。……頼むよ、俺を止められるのはグレンだけだ」


 怒りと憎しみで涙が溢れる。祖国の家族を思うとあっという間に剣を手にしてしまいそうになる。
 
 グレンはそんな俺を見て、まるで自分の胸も痛むように唸る。
 
 俺を抱きしめると、絞り出すような声で言う。


「……今日の騒動で昼間に飲むはずだった薬を飲んでいない。これから飲めば抑えられるが、お前が望むなら薬を飲まずに本当に朝まで付き合う」
「発情期の薬か……?」
「あぁ」


 これ以上ない提案だった。俺は頷く。


「飲まないで」


 グレンは細く息を吐きながら「分かった」と言う。
 そして俺の頭を撫でながら続ける。


「睦み合うことを罰のように使ったら、後で悔やむお前が目に浮かぶ。いいか、今夜のこれは罰でもなんでもない。俺たち二人で決めた、ただ愛を伝え合うために選んだことだ」
「……ッ」
「それを忘れないと誓うなら、朝まで付き合おう」


 とめどなく流れる涙と嗚咽。うん、ごめん、ありがとう、誓うよ、愛してる。濡れてぐしゃぐしゃになった言葉を吐き出す俺を優しく抱きしめてくれる。

 グレンは俺以上に俺のことをよく分かっているようだ。怒りを鎮めることだけを考えて、その後のことなど何も考えていなかった。
 
 そしてきっと、グレンの言う通りに考えてしまっただろう。愛し合うことを、仕様もないことに利用してしまったと。

 
「分かってくれたなら良い。望み通り加減なしで抱くが、本当に辛かったら俺たちの名字を言うんだ、いいな」
「……うん」


 素直に頷いた。「いい子だ」と言ってくれるグレンが俺の足の間に身体を入れる。膝裏に手を添えて優しく摩ってくれる。ちょっとくすぐったくて、身を捩る。


「今日は大活躍だったな。風のように走り出して周りはあっという間に置いて行かれたが」
「ごめ……反射で……」
「気にするな。それでこそライゼルだ。ポエリもお手柄だったな」
「そういえば、あの子は」
「何故かサノメが気に入ってな。一緒に食事をして同じ寝床で寝ているとタイクから報告が来た」
「なにそれぇ、絶対可愛いじゃん」


 見たかった、と続けると、キスが落ちてきた。他愛のない会話を終わらせる合図だ。

 俺がお願いしたことは、グレンを怒らせて当然のことだった。段々と落ち着いてきた頭ではわかる。


「ごめ……ぐれん、ごめんな……ッ」
「分かってる。分かっているから、泣くな」
「嫌いに、なってないか」


 ぽろぽろと目尻からこめかみへ流れる涙が止まらない。グレンの頭に手を添えて精一杯謝罪する。
 
 そんな俺を見下ろして、目尻を下げる。


「嫌いになんて、なるわけがないだろう。正気を失う姿すら美しいと思った。どうだ、そんなことを思う俺を嫌いになるか」
「んーん、ならない」
「だろう?」


 クッ、と喉で笑い、頭を撫でながらキスをしてくれる。
 子どもをあやすようで嫌だと思ったが、怒りの次に自身の不徳を謝り、今は快楽の波に揺られている。
 
 感情の移り変わりが忙しくてつらい。もう、何も考えたくない気分だ。

 グレンの舌が俺の舌を掴まえて絡む。一緒に脇腹を撫で上げられると、高い声が鼻を抜けていく。
 
 それに気を良くしたのかさらに口づけは深くなる。上顎をぞりぞり、となぞられ涎が溢れる。
 
 一瞬離れたかと思ったら、自身の舌を見せつけてくる。同じようにしろという合図だ。もう何度目か分からない睦み合いの中でできた二人のお決まりの流れ。
 
 言われた通りに舌を出す。この時半端にするのはダメらしく、精一杯伸ばさないといけない。これは未だに恥ずかしい。
 
 伸ばした舌をぱくりと食べられる。裏側に沿わされるグレンの舌。上の歯は優しく舌に食い込ませる。


「んう……ぅ」


 わざわざ口にしたことは無いが、グレンは俺がこんなふうに命の綱を差し出しているのが嬉しいのだろうと思う。そして俺はその綱を握られていることに妙な興奮を覚えている。似た者同士だ。

 脇腹を撫でていた手が上がっていって胸を触る。服に爪が引っ掛かり邪魔だったのか、早々にすべての服を脱がされる。
 
 フーッ、と首を舐めるグレンの息がいつもより荒い。そして妙に首をせめてくる。


「あぁ……んんッ、首、ばっか」
「発情期のせいか……やけにライの首に嚙みつきたくなる」
「んぁっ」


 柔く食まれる首の皮。同時に舌がぬるぬると動いて、まだあまり触られていない胸の飾りが疼く。

「こっちも……」
「あぁ、美味そうだ」

 自分から強請ってしまって恥ずかしい。しかしそんな気持ちはあっという間に胸から得る快感が塗り替えていく。舌で強く弾かれる。その度にじんじんとした快感が腰の方へ抜けていく。
 
 両方の飾りをまんべんなく舐めて満足したのか、今度は腰の下にクッションを差し入れて、後蕾が丸見えになるまで太腿を手で押す。いつぞや、「ライは身体が柔らかいな」と言われたが、鍛錬のために柔軟しているのだと睨んだのを思い出す。


「随分と余裕そうだな」
「ちが、っあ! ……んんんんっ」


 グレンが前に言っていたことを思い出していただけなのに、脚の間で鋭い瞳が光った。

 太い舌が後蕾に差し込まれ、遠慮なくぐいぐいと奥の方へ進んでいく。割って入られる感覚で尻から背中、首の後ろにかけて興奮が駆け巡る。
 
 腹側の感じやすい部分を舌先が掠め、一気に思考が脆くなる。


「そこ……あ、っふ、んぅ……だめ、ぁ」


 早くも気をやってしまいそうになる。俺はグレンに懇願する。


「ね、グレンの、欲しい……はやくッ」
「……煽るな、こっちも精一杯なんだ」






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