【完結】花守の騎士は隣国の獣人王に嫁ぎ懐刀となる

狗宮 寝子

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第6章

§50‐2 合同訓練

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 グレンの執務室をノックすると低い声で返事が聞こえる。扉を開いて顔を覗かせると、ペンを持ったグレンがこちらを見ている。


「お疲れ様」
「おかえり、ライゼルもご苦労だったな」
「騎士としては楽しい時間だったから、全然疲れてないよ」
「そうか」


 言葉を交わしながら剣をソファの傍に置く。耳から上の髪だけ結っていた髪紐を引っ張り解く。髪がほどけ、肩に落ちる。頭を振って耳の上を掻くと、一気に身体の力が抜ける。


「ふう……」

 
 身に着けた装備を外すとまた一段と身体が緩む。硬い革と金属の拘束から解放され、ようやく本当の自分へ戻るような安堵感に包まれる。ソファに腰を落ち着けると、このまま立ち上がれなくなりそうだなと思う。


「やはり疲れているだろう」
「うーん、そんなつもりはなかったんだけど」
「気疲れかもしれんぞ」
「あぁ……」


 いくつか思い当たることはある。東方領の噂、南方領の騎士たちの諍い……。グレンが立ち上がってお茶を淹れてくれるのをソファにしな垂れて見つめる。

 濃紺のスラックスに白い麻のシャツ。スラックスと同じ色のベストは身体にぴったり沿っていて、彼の美しい身体を惜し気無く引き立てる。

 しなやかで強靭な筋肉の隆起が、上質な布地の上からでもありありと分かる。その背中を見つめていると、どうしようもない愛しさが込み上げてくる。

 俺が思考を巡らせるのをお茶を淹れながら待ってくれる。優しい伴侶に甘え、お粗末な思いをつらつら零す。


「南方領の騎士が二人、第一部隊預かりになっちゃったよ」
「自業自得なんだろう?」
「うん、まあそうだね……あと、ティラから聞いたんだけど、東方領の騎士の中に奴隷契約を結ばされている騎士がいるらしいって」
「それは俺の耳にも入っている」


 今度はグレンがため息をつく番。

 淹れてくれたお茶をトレーに乗せてソファ前のローテーブルに下ろす。お礼を言ってカップを手に取ると、爽やかなお茶の香りが鼻を抜ける。ハーブの香りが疲れた頭を癒してくれる。

 俺の隣に座ったグレンもお茶を一口飲んで長い息をつく。彼の体重分ソファが沈む。


「軽く調査員を入れたこともあるが、情報は得られていない。奴隷についてはユーディア王国の問題が片付いたら着手したい問題のひとつでもある」
「そうだな……俺も手伝うよ」
「ありがとう」


 目元をごしごし擦るグレン。もうすぐ夕飯時だ。今日は一日机に齧り付いていたのだろう、眠そうだ。少し目の周りがくぼんでいて、彼の激務を物語っている。

 俺はグレンのカップを優しく奪い、自分のと一緒にトレーへ戻す。空いた両手で彼の頭をごしごしと撫でる。顔から耳にかけて遠慮なく力を入れて撫でると、グレンの喉から低い音がグルグルと鳴り始める。


「今日はもう終わったのか?」
「うむ……」 


 返事もどこか舌足らずで、よほど疲れているらしい。


「どうする、お腹すいた? 寝る?」
「少しだけ、寝たい」
「じゃあ俺の膝を使わせてあげよう、ほら、おいで」


 膝を叩いて見せると、眠気眼でいそごそと身体を横たえる。

 今日のグレンは少し甘えたさんのようだ。こういう日は多くないので、俺は思い切り甘やかす。

 ソファの端に座る俺の膝に頭を乗せて、横向きになる。後頭部が俺の腹にくっついて温かい。顔から額、耳にかけて撫でると、先ほどとは違う種類のため息が聞こえる。


「はぁ……幸せだ……」
「簡単だなぁ。もっと欲張ったらいいのに」
「……今日、夜……いいか? 」
「ちゃんと言ってくれたら」
 

 ここまできたら、最後の最後まで甘く溶かしたい気分になってしまった。グレンはしばしの後、口を開く。


「……今夜、抱かせてほしい」
「ふふ、喜んで」


 顔は見えなかったが、耳が忙しなく動く。そしてもうひとつ、グル……と甘く喉を鳴らす音がした。

 グレンの宣言通り、その日の夜は甘いひと時になった。






 
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