ことなかれ令嬢、ことば一つで全員蹴散らします

25BCHI

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第一章

第六節:断罪は、突然にです

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 一限目の講義室。扉をくぐった瞬間、ざわめきが針のようにリティシアに降り注いだ。

「王太子殿下、婚約破棄を検討中らしいわよ」
「理由が“平民をいじめた”って……えぐくない?」
「ゼロ魔力で偉そうとか、まさに悪役令嬢!」

 その中を、彼女は何事もなかったかのように歩き、自席へと向かった。
 周囲の視線は冷たく、言葉は刺々しく、そして誰一人として真実を確かめようとはしない。
 だが、それも想定内だった。

 隣の席では、エミリアが小声で囁いてきた。
「……気にしないでください。噂なんて、すぐに消えますから」
「ありがとうございます。……あ、そのノート、逆さまですよ」
「わ、わたしほんと、そういうとこあって……!」

 リティシアはそんな彼女の様子に、少しだけ表情を緩めた。
 だがその胸の奥では、静かな違和感が渦巻いていた。

 王太子レオンハルトの行動。
 エリス嬢の“涙”によって巻き起こる都合のよい誤解。
 噂という名の焚き火に、愉快犯たちが薪をくべていく──そんな構図が、あまりにも綺麗すぎて。

(……これは、もう完全に私が“悪役”になってますね)

 平和な学園生活を守るために、極力目立たず、波風立てずにやってきた。
 それが、“あの人”との婚約を守るためでもあったからだ。
 けれど──。

 黒板の前で教師が出席を取り始めたとき、リティシアは小さく目を閉じた。

 王太子は、やはり自分の“ヒロイン”を選んだのだ。

 そして、舞台の幕は静かに上がる。この“断罪劇”が、すべての幕開けとなったのだ
 
──数日後
 晴れ渡る青空の下、学院の中庭には生徒たちがずらりと並んでいた。

 中央には、王太子レオンハルトとその取り巻きたち。
 向かい合うのは、一人の少女。銀灰色の髪をゆるく結い、深紅のドレスを着こなすその姿は、控えめながらも気品に満ちていた。

 公爵令嬢──リティシア・クロード。

 今日、この場で彼女は“断罪”される。

「リティシア・クロード。貴様との婚約は、ここで破棄させてもらう!」

 王太子の声が、中庭に響き渡る。
 わざわざ全校生徒を集めて行うには、あまりに芝居がかった演出だった。

「君のような冷血で感情のない女に、王妃の座など務まるはずがない! 僕は──エリス嬢を愛している!」

 レオンハルトの隣には、儚げな美貌を持つ平民出の少女が立っていた。いかにも“新たな婚約者”という構図だ。

 だが、断罪された当の本人は──
 涼やかな微笑みを浮かべていた。

 王太子の剣幕を前にしても、まるで春先のそよ風を浴びているかのように、静かに目を細める。

「できれば、その台詞……もう少し、工夫なさるべきでしたわね。何度も聞いた言い回しですもの」

 その一言で、中庭の空気がピンと張り詰める。

 レオンハルト王太子は、目を見開いた。まるで、“脚本の不出来”を指摘された劇団主宰のように。

 リティシアの毒づきが物理的にもダメージを与えたかのようにぐらりと身体を揺らし、王太子はその場に膝をつく。

 場がざわつく中、隣に立つ少女──エリスにリティシアは彼女の首飾りについて尋ねた。

「そう言えば、エリス様──。その首飾り、随分と強い魔力を帯びていらっしゃいますのね。きっと、贈り主の“誇り”が込められているのでしょう」

 エリスは鼻で笑い、首飾りを指でつまんだ。

「ええ。殿下が私にくださったものですわ。魔力の通りがとても良くて──」

「まあ。ですがその“誇り”、お洗濯した方がよろしいのでは? 泥まみれのまま振りかざすのは、少々滑稽ですわ」

 エリスが身に着けていた首飾り──王太子から贈られたとされる魔具が、キィンと音を立てて共鳴した。

「えっ?」

 次の瞬間。

 バチッ。

 鮮やかな光が弾け、赤い閃光が爆ぜる。
 首飾りから漏れた魔力がエリスの髪に触れたとたん──

 ボフッ。

 彼女の前髪が、まるでススキでも燃やしたようにふくらみ、チリチリに焦げた。

「きゃあああああっ!! な、なにこれ熱っ、熱いっっ!!」

 中庭に焦げた匂いが立ちこめ、取り巻きたちの悲鳴が重なる。

 だがその中心で、リティシアだけは、変わらぬ笑みを浮かべていた。

「──ご心配には及びませんわ。装飾魔術の制御不良はよくあることですもの。特に、“器に合わぬ誇り”を詰め込んだ場合などは」

 静かに告げられた言葉に、誰もが息を呑む。

 それが呪いなのか、偶然なのか──
 確かめる勇気を持つ者は、誰一人いなかった。

 この日を境に、生徒たちはリティシア・クロードに無闇に関わることをやめた。
 それは恐れからか、それとも敬意からか。
 ──おそらく、両方だったのだろう。



______________________
______________________
★あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

とうとうやってまいりました──例の“断罪の場面”、無事にチリチリ炸裂しました。
平民出のエリス嬢、気がつけば王太子の隣ポジションから前髪が煙を上げるまで、ものすごいヒロインムーブをキメてくれました。

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