赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第一部:国家の価値はゼロから始まる

第五節:食料危機からの脱却(中編)

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 ──交易管理塔の一室。
 年季の入った木製の机を挟み、リィナは、向かいに座る男の“重心の定まらなさ”をじっと見ていた。

 レオン・グレイブ。
 全身から漂う不信感。姿勢は崩れ、顎には無精髭。目つきは細く、どこか笑っているようで、何も笑っていないようでもあった。
 見ようによってはただの流れ者。けれど、どこか引っかかる。

 「……で、商いのお誘いってわけか?」
 レオンが足を組み替える。机の脚が、ギィ、とわずかに軋んだ。

 「付加価値貿易を展開する。その初手として、君と取引したい」
 加賀谷──カガヤが応じる。
 その声には、強さよりも“決まっている”という確信があった。

 「ふうん……で、公国さんお得意の“職人芸”でも売り出すってこと?」
 レオンが鼻を鳴らす。
 その口調に、わずかな皮肉と、予測済みだという退屈が混ざっていた。

 リィナは思わず、口を開いた。
 「工芸品は、この国の誇りですわ。手仕事の精緻さは、他国に引けを取りません」

 「へぇ、誇りねぇ。で、そんなもん、どこの港でいくらで売る気だい?」
 レオンは嘲るでもなく、純粋な疑問として返した。

 「……」
 リィナは言葉に詰まる。たしかに、価格競争では太刀打ちできない。
 流通も細く、まとまった数も捌けない。

 そんな彼女の横で、加賀谷が静かに息を吐いた。

 「違う。俺たちが売るのは、商品じゃない」
 「は?」

 「この国の価値は、“場所”にある」

 その言葉に、レオンの目つきが少しだけ変わった。

 「ミティア公国は、帝国と諸国家の交易線上にある。しかも、運河が通っている。地理的に見て──最短で東西をつなぐ結節点だ」

 加賀谷は手元の地図を示す。そこに描かれた交易線は、まるで網のように国土を貫いていた。

 「つまり?」

 「自分たちで作らなくていい。“流す”んだよ、価値あるものを。公国を通すルートにする。通したければ、通行料を払う。保管料を払う。港湾税を払う」

 「なるほど……“中継貿易”ってわけか」

 ようやく、レオンが真顔になる。
 無精髭の奥の唇が、にやりと歪んだ。

 「こりゃまた、帝国が好きそうなやり口だな」

 「皮肉か?」

 「褒め言葉さ」

 レオンは立ち上がり、背伸びをする。
 その目には、すでに計算が走り始めていた。

 「で、俺は何をすりゃいい?」

 「交易の設計を任せる。ルートの確保、港湾との交渉、供給元の調整。……全部だ」

 「丸投げかよ」

 「君ならできるだろ」

 ふたりのやり取りを、リィナは唖然としながら見ていた。
 まるで芝居を見ているようだ。だがこれは、現実。国の命運を握るやりとりだ。

 「──俺の取り分は?」

 「十分に」

 「ふっ……上等」

 レオン・グレイブ。
 この国の地図に、彼の名が書き込まれる日は、きっと近い。
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