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第三章:資本の光は辺境から
閑話:ノアの一日
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夜の風が、焼きたてのパンの甘い匂いを港の方へ押し流す。
高台テラスの片隅で、その流れを確かめる。
皿は三つ、青い炎。テーブルクロスは銀。星が揺れない配色――わたしが決めた。
今の肩書きは「侍女」。でも、ただの給仕じゃない。
自由都市ヴェステラに“派遣”された、都市の空気を整えるための道具。
皿の配置、屋台の高さ、風の通り道、通りの音――それら全部が“設計範囲”。
言われたからやるんじゃない。任されたから考える。
そういうやり方は、嫌いじゃない。
「この配置……変えたな」
声がして振り返ると、カガヤが立っていた。
灰の落ちた風上で、パンの香りを確かめている。
「変えた。昨日、匂いが逃げすぎてた」
「……いい判断だ」
それだけ言って去っていった。
褒められたのかどうかは、よくわからない。
でも――わたしの“選んだ形”に、意味があるって思わせてくれる。
そういうところ、ずるい。
彼のそばにいるときだけ、自分が「まだ壊れてない」ってことを思い出せる。
過去がどうでもよくなるわけじゃない。
でも、“今のわたし”を見てくれてる感じが、ある。
別に恩を返すとかじゃない。借りを感じるのも面倒くさい。
けど、もしこの都市がうまくいって、カガヤが満足げに「やったな」とでも言ったら、
――たぶん、ちょっとだけ、うれしい。
ミロとは、たまに話す。というか、たまに“来る”。
ふわふわした髪と、びくびくした声。最初は苦手だった。
でも、彼女が刻むルーンは綺麗で、何かを壊す匂いがしなかった。
「……パンの匂い、好きかも知れないですっ!」
「きらいって言われたら、閉めてた」
「えっ、そ、そんなことないですから……!」
「うそでも言い切って」
「は、はいっ……!」
ああいう反応を見てると、”壊す側の人間”じゃないって、分かる。
今から少し前、城門前で倒れていた。
焦げた金属の匂い、血の味、剥がれた感覚――
全部、あの夜に置いてきた。
「立てるか」
彼の最初の言葉が、それだった。
そのときから、“従う”んじゃなく、“歩く”側になった。
焼きたてのパンの香りが夜風に乗る。
通りで足を止める人が増えた。
“この空気の形”を決めているのが自分だと思うと、少しだけ誇らしい。
いつかまた、“過去”が追いついてくる気はしてる。
でも、それでもいい。
どうせ来るなら、ここで待っててやる。
この都市の真ん中で。
読んでくださって、ありがとうございます!
「おもしろかった!」と思っていただけたら、
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……どれか一つでもポチっとしてもらえると、めっちゃ喜びます!
モチベが爆上がりします🔥
引き続き、よろしくお願いします!
高台テラスの片隅で、その流れを確かめる。
皿は三つ、青い炎。テーブルクロスは銀。星が揺れない配色――わたしが決めた。
今の肩書きは「侍女」。でも、ただの給仕じゃない。
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皿の配置、屋台の高さ、風の通り道、通りの音――それら全部が“設計範囲”。
言われたからやるんじゃない。任されたから考える。
そういうやり方は、嫌いじゃない。
「この配置……変えたな」
声がして振り返ると、カガヤが立っていた。
灰の落ちた風上で、パンの香りを確かめている。
「変えた。昨日、匂いが逃げすぎてた」
「……いい判断だ」
それだけ言って去っていった。
褒められたのかどうかは、よくわからない。
でも――わたしの“選んだ形”に、意味があるって思わせてくれる。
そういうところ、ずるい。
彼のそばにいるときだけ、自分が「まだ壊れてない」ってことを思い出せる。
過去がどうでもよくなるわけじゃない。
でも、“今のわたし”を見てくれてる感じが、ある。
別に恩を返すとかじゃない。借りを感じるのも面倒くさい。
けど、もしこの都市がうまくいって、カガヤが満足げに「やったな」とでも言ったら、
――たぶん、ちょっとだけ、うれしい。
ミロとは、たまに話す。というか、たまに“来る”。
ふわふわした髪と、びくびくした声。最初は苦手だった。
でも、彼女が刻むルーンは綺麗で、何かを壊す匂いがしなかった。
「……パンの匂い、好きかも知れないですっ!」
「きらいって言われたら、閉めてた」
「えっ、そ、そんなことないですから……!」
「うそでも言い切って」
「は、はいっ……!」
ああいう反応を見てると、”壊す側の人間”じゃないって、分かる。
今から少し前、城門前で倒れていた。
焦げた金属の匂い、血の味、剥がれた感覚――
全部、あの夜に置いてきた。
「立てるか」
彼の最初の言葉が、それだった。
そのときから、“従う”んじゃなく、“歩く”側になった。
焼きたてのパンの香りが夜風に乗る。
通りで足を止める人が増えた。
“この空気の形”を決めているのが自分だと思うと、少しだけ誇らしい。
いつかまた、“過去”が追いついてくる気はしてる。
でも、それでもいい。
どうせ来るなら、ここで待っててやる。
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