赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第四部:帝国との第二戦

第一節:蜂を潰すための針──帝国宰相の命令

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 自由都市ヴェステラ。
 かつて“辺境”と呼ばれたその地に、いまや帝国すら無視できぬ都市の風格があった。

 石畳を走る魔導搬送車、移民で溢れる登記所、物流拠点と化した市場街。
 そして、誰もが当たり前のように手にする貨幣──共通通貨ルーメ。
 それは、かつて誰も信じなかった土地に“価値”を宿らせた象徴だった。

 加賀谷零は、政庁塔のバルコニーからその光景を見下ろしていた。
 すべてが、通貨の流れに沿って動いている。都市の呼吸が、確かに自分たちの築いた制度と共鳴していた。

 「……ルーメも流通が回ってきたな」

 そうぼやいた加賀谷の背後から、足音がひとつ。

 「なぜ、“ルーメ”と?」

 尋ねたのは、ヴァルド・レヴァンティス。
 公国の名門貴族出身にして、今は自由都市連合の信任を受けた軍政補佐官。
 彼の問いには、敵意ではなく純粋な関心が宿っていた。

 「光がほしかったからだよ」
 加賀谷は肩をすくめる。

 「この公国は、真っ暗だった。金も希望も道理もなかった。
 でも、“信じられるもの”が何かひとつあれば、人は歩ける。……通貨にそれを託しただけだ」

 「それで光、ルーメ。ずいぶんと詩的ですね」

 「理想のない通貨は、紙屑と変わらないからな」

 加賀谷の目が、街の遥か向こうへと向かう。
 制度が動き、人が集まり、価値が循環する。都市とは“信頼の構造体”だ。それを誰よりも理解していた。

 ──だが、その構造を壊そうとする者たちもいる。

 * * *
 帝国首都セイグラン。
 黒曜石の塔の奥深く、《財務庁地下第二局》では重苦しい会議が進んでいた。

 「……国家的信用を賭けた作戦となりますが」

 財務次官、ガルステイン・セルテンが一歩前に出る。

 「構わん」
 帝国宰相、マルク・ルクスフェルトは椅子にもたれたまま答えた。

 「信用とは本来、操作するためにある。形を与えられれば、人間はそれにすがる。
 ……連中のルーメも例外ではない」

 宰相は一枚の文書を取り上げる。
 《黒鋳計画》──共通通貨ルーメの信用破壊工作を意味する指令。

 「蜂を潰すのに剣は要らん。毒を撒いて、翅を腐らせる。それで十分だ」

 ガルステインは静かに頷く。

 「すでに、標準封印術式の改竄に成功した“偽ルーメ”を、沿岸都市の流通に投入済みです。
 港湾ギルドの一部は既に混乱し始めています」

 ルクスフェルトは満足げに笑った……が、その目の奥には違う色があった。
 視線は、魔導光板に浮かぶ都市ヴェステラの光点へと注がれている。

 「戦火を広げ、覇道を極めようとする者なら、まだわかる。
 だが──奴は、この世界に存在していなかった“理”を持ち込んだ。
 帝国の法も、通貨も、価値観すら……やすやすと塗り替える、“常識外の怪物”だ」

 ガルステインはその言葉に対し、肯定も否定もしなかった。

 「制度に魂はない。だが、奴の作った仕組みは人の行動を変え、都市を動かしている。
 ──それが“思想”に進化する前に、潰さねばなりません」

 ルクスフェルトは小さく息を吐き、笑った。

 「“王”になろうとしているのなら、まだ可愛げがあった。
 だがあれは、自ら玉座を作り、貨幣を玉璽に仕立てあげた……まるで、世界そのものの設計図を書き直そうとしているようだ」

 鋳造炉の封印がゆっくりと起動し、魔導熱が空気を撓ませる。
 《偽のルーメ》は着々と仕上がりつつあった。

 「“蜂”などではない。あれは──燃え広がる種火だ。
 誰もが気づいたときには、世界が別の色で塗り替えられている。……ならば、今のうちに、叩き潰すしかあるまい」

 地下の空気が、しんと静まり返った。

 その場にいた誰もが、あの名を──“加賀谷”という名を、すでに戦場の主軸として認識していた。






◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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