赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

25BCHI

文字の大きさ
31 / 76
第四部:帝国との第二戦

第一節:蜂を潰すための針──帝国宰相の命令

しおりを挟む
 自由都市ヴェステラ。
 かつて“辺境”と呼ばれたその地に、いまや帝国すら無視できぬ都市の風格があった。

 石畳を走る魔導搬送車、移民で溢れる登記所、物流拠点と化した市場街。
 そして、誰もが当たり前のように手にする貨幣──共通通貨ルーメ。
 それは、かつて誰も信じなかった土地に“価値”を宿らせた象徴だった。

 加賀谷零は、政庁塔のバルコニーからその光景を見下ろしていた。
 すべてが、通貨の流れに沿って動いている。都市の呼吸が、確かに自分たちの築いた制度と共鳴していた。

 「……ルーメも流通が回ってきたな」

 そうぼやいた加賀谷の背後から、足音がひとつ。

 「なぜ、“ルーメ”と?」

 尋ねたのは、ヴァルド・レヴァンティス。
 公国の名門貴族出身にして、今は自由都市連合の信任を受けた軍政補佐官。
 彼の問いには、敵意ではなく純粋な関心が宿っていた。

 「光がほしかったからだよ」
 加賀谷は肩をすくめる。

 「この公国は、真っ暗だった。金も希望も道理もなかった。
 でも、“信じられるもの”が何かひとつあれば、人は歩ける。……通貨にそれを託しただけだ」

 「それで光、ルーメ。ずいぶんと詩的ですね」

 「理想のない通貨は、紙屑と変わらないからな」

 加賀谷の目が、街の遥か向こうへと向かう。
 制度が動き、人が集まり、価値が循環する。都市とは“信頼の構造体”だ。それを誰よりも理解していた。

 ──だが、その構造を壊そうとする者たちもいる。

 * * *
 帝国首都セイグラン。
 黒曜石の塔の奥深く、《財務庁地下第二局》では重苦しい会議が進んでいた。

 「……国家的信用を賭けた作戦となりますが」

 財務次官、ガルステイン・セルテンが一歩前に出る。

 「構わん」
 帝国宰相、マルク・ルクスフェルトは椅子にもたれたまま答えた。

 「信用とは本来、操作するためにある。形を与えられれば、人間はそれにすがる。
 ……連中のルーメも例外ではない」

 宰相は一枚の文書を取り上げる。
 《黒鋳計画》──共通通貨ルーメの信用破壊工作を意味する指令。

 「蜂を潰すのに剣は要らん。毒を撒いて、翅を腐らせる。それで十分だ」

 ガルステインは静かに頷く。

 「すでに、標準封印術式の改竄に成功した“偽ルーメ”を、沿岸都市の流通に投入済みです。
 港湾ギルドの一部は既に混乱し始めています」

 ルクスフェルトは満足げに笑った……が、その目の奥には違う色があった。
 視線は、魔導光板に浮かぶ都市ヴェステラの光点へと注がれている。

 「戦火を広げ、覇道を極めようとする者なら、まだわかる。
 だが──奴は、この世界に存在していなかった“理”を持ち込んだ。
 帝国の法も、通貨も、価値観すら……やすやすと塗り替える、“常識外の怪物”だ」

 ガルステインはその言葉に対し、肯定も否定もしなかった。

 「制度に魂はない。だが、奴の作った仕組みは人の行動を変え、都市を動かしている。
 ──それが“思想”に進化する前に、潰さねばなりません」

 ルクスフェルトは小さく息を吐き、笑った。

 「“王”になろうとしているのなら、まだ可愛げがあった。
 だがあれは、自ら玉座を作り、貨幣を玉璽に仕立てあげた……まるで、世界そのものの設計図を書き直そうとしているようだ」

 鋳造炉の封印がゆっくりと起動し、魔導熱が空気を撓ませる。
 《偽のルーメ》は着々と仕上がりつつあった。

 「“蜂”などではない。あれは──燃え広がる種火だ。
 誰もが気づいたときには、世界が別の色で塗り替えられている。……ならば、今のうちに、叩き潰すしかあるまい」

 地下の空気が、しんと静まり返った。

 その場にいた誰もが、あの名を──“加賀谷”という名を、すでに戦場の主軸として認識していた。






◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
更新の励みになりますので、
いいね&お気に入り登録していただけると本当にうれしいです!

今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」 「それは良いですわね、勇者様!」 勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。 隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。 毎日の暴行。 さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。 最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。 今までの行いを、後悔させてあげる--

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...