赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第四部:帝国との第二戦

第二節:自由都市の静かな繁栄と違和感

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 午前九時。
 ヴェステラ中央市場には、商品と人と声と通貨が、風のように交錯していた。

 南方産の果物を並べるテントの横で、帝国製の彫金細工が「八ルーメ」と書かれた札の上に並ぶ。
 今や、帝国金貨は“割高で不便な外貨”であり、この都市においてルーメは主語だった。

 「ちっ、また両替かよ……」

 そう呟いた男が金貨を握りしめて去っていく。
 店主は慣れた調子で言った。

 「次からはルーメでな。こっちじゃルーメ以外には手数料がかかるから気を付けな」

 もはやこの都市では、“通貨を持つ側”ではなく、“通貨に合わせる側”が変わりつつあった。



 * * *



 政庁塔三階、経済監察室。
 魔導端末に囲まれながら、ミロ・クレインは両手で頭を抱えていた。

 「……うぅ……ど、どうして、ここだけ……」

 封緘識別装置が出力する波形が、わずかに“揺れて”いた。
 正常値からの逸脱ではない。だが、完全な一致でもない。まるで影が二重に重なっているような違和感。

 「ミロ、何か引っかかったか?」

 声に跳ねるように振り返ると、加賀谷零がコーヒーを片手に立っていた。

 「あっ……れ、れいしゃちょー……えっと……これ、なんですけど……」

 ミロはおずおずと端末を指差す。

 「封印の波形が、すこし……二重になってて……普通なら単一魔素の偏差で済むんですけど、どこかこう……変で……」
 「異常ではないけど、違和感がある、と?」

 「そ、そうです……エラー扱いされないのが逆に気持ち悪くて……っ」

 加賀谷は魔導グラフをのぞき込み、端末に記録されたロット番号群を追った。

 「……検出範囲は?」

 「だ、だいたい港湾地区からの搬入ロットです。流通数は……い、今のところ十数件ですけど……これ、拡がってる気がして……」

 加賀谷は無言で帳票を抜き取り、黙って赤線を引いた。

 「……誰かが仕掛けてきたな」

 「し、仕掛けた……?」

 「精度が高すぎる。術式だけじゃない、封印符と鋳型、両方いじってる。個人や裏商会の仕事じゃない。組織が動いてる」

 「そ、そんな……じゃあ、その、何のために……?」

 ミロの声は、戸惑いと少しの怒りを孕んでいた。

 加賀谷は一度だけ深く息を吐いた。

 「……目的は、通貨の信用そのものを揺るがすことだ。
 “本物そっくり”を少量混ぜるだけで、“通貨が信用できない”って話が市場に拡がる。
 たとえ偽物の量が少なくても、それだけで人は止まる」

 「ひ、卑怯です……そんなの、ずるいです……!」

 「だが、やる側にとっては効果的だ。信用を失えば、経済は止まる。
 こっちは、今すぐ対応する必要がある」

 加賀谷は端末を閉じると立ち上がった。

 「ギルドに通達を出す。封印手形の照合と、現場対応のフロー構築。――公表の判断は、そこからだ」



 * * *



 同日夕刻。
 港湾ギルド会議室には、重役たちの怒声が飛び交っていた。

 「偽札? おい加賀谷、何を根拠にそんな……!」
 「そんな話を出せば、今度は我々が疑われるんだぞ!」

 「“信用の通貨”が信用を失えばどうなるか、あんたが一番わかってるはずだ!」

 加賀谷は一歩も引かずに、照合端末を卓上に置いた。

 「わかってるからこそ、こうする。“信用”は、隠して守るものじゃない。
 “確認できる状態にあること”が、何よりの防壁になる」

 「だからって、それを全市場に配るのか? 三日で?!」

 「できる。今から手配する」

 誰かが苦々しく舌打ちした。

 「……責任は取れるのか?」

 「とるさ」

 加賀谷は短く答え、端末を持って部屋を出ていった。



 * * *



 その頃、政庁塔の別室では、ヴァルド・レヴァンティスが封筒を開いていた。

 報告者は、彼の配下で元帝国軍情報局の術式技官――ライズ・ヴォーグ情報官。

 「――この封印コード、構造が帝国の“第七技術棟”系統と一致します。
 偏向魔素の処理癖が独特で、術者ごとの癖と照合しても高確率で一致していると判断されます」

 「確証は?」

 「ありません。術式は規格ベースで流通しており、製造番号も残っていません。技術的に見れば、状況証拠のみです」

 ヴァルドは椅子にもたれ、目を細めた。

 「……つまり、“関わっている”が、“証拠はない”と」

 「はい。だがこれは確実に“国家スケールの意図的工作”です。
 信用の基盤を腐らせるには、偽札をばらまくより、“疑い”を広める方が早い。帝国は、そのやり方を熟知しています」

 沈黙が落ちる。

 やがて、ヴァルドは封筒を閉じて立ち上がった。

 「カガヤ様に伝える。“帝国が宣戦布告してきた”とな」





◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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