桜色のネコ

猫人鳥

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悩み相談

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*ハル視点です。

 お昼ご飯には、野菜カレーとキャベツサラダを頂きました。
 圭君はゆっくりしていていいと言ってくれますが、特にやることも無くて暇です。
 怪我の手当てだけではなく、ご飯を頂き、部屋もお借りしてしまっている私は、どうしたらいいのでしょうか?
 少しでも手伝おうとお皿を片付けようとしたのも、怪我に良くないからと圭君に止められてしまいましたし……
 何か圭君の役に立てる事があるといいのですが。

「僕、そろそろ勉強を始めますので、何かあったら声をかけて下さいね」

 家事を一通り終えた圭君が、お部屋に帰ってきました。
 勉強をするそうです。
 何の勉強をしているんでしょうか?
 一人の方が集中出来るのなら、邪魔になってしまうかもしれませんが、勉強なら私にもお手伝い出来るかもしれません!

「あのっ! あまりそうは見えないかも知れませんが、これでも私、結構頭が良い方なんです! だから勉強をするのなら、分からない所とか聞いて下さい!」
「えっ? あぁ、ありがとうございます?」
「あ、いきなりすみません……」

 少しは役に立てるかも! という焦りのままに、意気込んで言ってしまったので、ビックリさせてしまいましたね、多分?
 圭君はあまり表情が変わらない方なので、驚いているのかは分かりませんが……

「何の勉強をしているんですか?」
「大学入試用の過去問題とかですよ。僕浪人中なので」
「圭君は家事もバイトも勉強も、全部ちゃんと出来ていて偉いですね。おまけに私みたいな存在の世話まで」
「いえ、ちゃんと出来ていなかったから受験に落ちたんですよ。努力が足りなかったんですね」

 圭君が少し悲しそうな顔をしました。
 受験に落ちたのは辛いですよね……
 私にはそういった経験がないので、圭君の今の気持ちは想像する事しか出来ませんが。

「今回がダメでも、また次がありますよ。一回落ちたからこそ、その悔しさをバネにして、目標に向かって高く飛べるというものじゃないですか?」
「……僕、目標とか夢とか、そういうの無いんですよ」
「えっ?」
「ただ何となくで大学受験して、落ちて、とりあえず浪人生として勉強して、生活の為にバイトをしているというだけで……全然偉くなんかないですよ」

 圭君は辛そうに笑いながら、そう言いました。
 あまり自分の感情を悟られたくない人なのかと思っていましたが、そうでもないみたいですね。

「今勉強しているのも、結局また受験に落ちたら、この一年無駄になるなって考えて……受かったとしても、やりたいことも無いのに大学に行っても意味は無いように思いますし……あっ、すみません、こんな話……」

 受験生の苦悩という奴ですね……

「んー? 受験に落ちたからといって、一年が無駄になるってことはないですよ。その一年に価値をつけるのは受験じゃなくて、圭君自身ですから」
「価値、ですか?」
「圭君が自分で無駄だったと思ってしまったら、本当に無駄になってしまいます。でもその一年で増えた知識だったり、出会えた人だったり、浪人したからこそ出来た経験があるのなら、無駄にはなりませんよ」

 受験の経験が無い私には、良いアドバイスは思い浮かびません。
 でも、こんなに優しくて頑張り屋さんの圭君の一年が無駄だなんて事は、絶対にないと思います。

「……確かに、増えた知識とかは無駄ではないですよね。でも、結局は夢も何もなく、増えた知識を生かすことも出来ず、大学へ行っても何をやりたいのかも分からない状態で、ただ日々を無駄に過ごしていくだけなんですよ……」
「今はなくても、これから夢ができるかも知れませんよ? そもそも夢というものは、何歳までに持たなければいけないというものでもないですし、いつ夢を描いてもいいんです! 自由なんですよ!」

 何なら私も特に夢なんてないですからね。
 いつか夢ができたら、その夢を叶えられるように頑張ろう! という程度にしか考えていませんから。

「もちろん夢の為に大学に行く人もいると思います。でも、逆でもいいと思いませんか?」
「逆? ですか?」
「夢を見つける為に大学に行くとか」
「それでも、見つけられないかも知れませんし……」

 圭君、結構ネガティブですね?

「それならそれでいいじゃないですか」
「夢を見つける為に大学に入ったのにですか?」
「大学で夢が叶う訳でもありません。大学はただの、夢への踏み台でしかないんですから」
「踏み台?」
「通過点に過ぎないという事です。ただ、そこを通過した事で得た新しい経験は、自分の夢に繋げられるかも知れません。新しい人に出会えば、自分に無かった意見を貰えるかも知れません」
「新しい経験……」
「はい! 例え夢が見つからなかったとしても、大学で得るものは多いはずです! だから、圭君のこれまでの努力を、圭君が否定していてはいけませんよ?」

 大学へ行ったことの無い私が長々と語ってしまいましたので、圭君もちょっと驚いた顔をしています。

「……ありがとうございます、ハルさんに相談して良かったです。何か、自分は何やっているんだろう? みたいな感じになって、時間を無駄に過ごしている気がしていましたが、ハルさんのおかげで考え方が変わった気がします」
「少しでもお役に立てたのなら良かったです」

 さっきまでの暗い顔の圭君はいなくなったみたいですね。
 やっぱり常にポジティブに考えていないと!
 勉強をするにしても、何にしても、モチベーションは大切ですから。

「この一年を無駄にしないように頑張りますね」
「浪人してなかったら、夜勤バイトもしていなかったかも知れないですよ。圭君、店長さんは優しい良い人って、言ってたじゃないですか。そういう出会いは、絶対に無駄じゃないですからね」
「そうですね、ハルさんにも会えていなかったかも知れないんですもんね。ハルさんと会えて良かったです」

 圭君はそう言って、微笑んでくれました。
 あまり表情の変わらない、圭君のレアな笑顔が見られて、何だか妙に嬉しかったです。
 胸の辺りが少し変な感じがしましたが、何でしょうか?

「そういえば、ハルさんは何大学を卒業しているんですか?」
「あ、ごめんなさい……偉そうに語りはしましたが、大学に行ったことはないです」
「でも大学の勉強を教えられる位なんですよね? えっと、凄い高校だったんですか?」
「高校も行ってないですね、ついでにいうと中学も。卒業したのは幼稚園くらいです。でも知識はあるので勉強は聞いてもらって大丈夫ですよ」

 そんな事を言われても、幼卒に何ができる? って感じですよね。
 圭君もこんな私に何を言ったらいいのかと、悩んでしまっている感じでした。
 
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