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第1部 目指せゲームオーバー!

第6話 元魔王が仲間になった!

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 ……え、マジで言ってる? 
 フルパワーでそう言いたくなった。
 異世界転生ものでなくても、勇者や冒険者が仲間と共に、魔王討伐の旅に出るファンタジー作品は数多く存在する。
 その仲間の中に人間以外の他種族、それこそ魔族がいるというのも、まぁなくはないだろう。
 だが、しょぱながいきなり元魔王ってどういうことやねん。
 色々ツッコミたいのをこらえて、オレはまず確認した。
 何よりも大事なことがあった。

「……ドルーオ、ちょっと質問なんだけど……魔王って、魂ごとぶっ壊す魔法が使えるってマジ?」

 その問いに、先代魔王ドルーオは一瞬だけまゆひそめ、しかしすぐにうなずいた。

「魂ごと……あぁ、魔王魔法の《葬撃・終デッド・ラスター》か。現時点で魔王の座に就いている者ならば使えるぞ」
「マジ!?」
「あぁ。高純度の闇魔力は、物理的な破壊力に加え、脳や精神に干渉できる性質をもつからな。呪いによる精神汚染も可能だ」
「おぉ、すっげぇ物騒ぶっそう!」

 やはり魔王ならば魂ごと破壊してくれる。
 不死みたいなことになったオレを、ばっちりしっかり殺してくれる!
 そんな希望を抱いていると、ドルーオがいぶかな目を向けてきた。

「して……なぜそんなことを訊くんだ?」
「え? あー……」

 特に隠す必要はない。
 というか、元魔王なら色々と知っているかもしれない。
 相談したら、何か力になってくれるかもしれない。
 どう説明したものか。
 少し考えてから、オレは自分の身に起こったありのままを語った。

 ◇

「……なるほど。転生し直そうにも、魂が無事ならお前の意志に関係なく自動的に蘇生そせいしてしまうと……難儀なんぎなものだな」

 数分かけてオレが語った珍妙ちんみょうな経験談を、ドルーオは顔色一つ変えずに聞き終えた。
 ちなみに、帰りたい理由は「一身上の都合で」としか言っていない。
 アニメ観たいとか言っても絶対通じないし。

「すまない。1月前の俺なら、力になれただろうが……」
「いや、気にしなくていいけど……」
「だが、魔界への道案内ならできるぞ。ファリティ──現魔王のところに連れて行くくらいは任せてくれ」
「マジで!?」

 オレが身を乗り出すと、ドルーオはオレの隣に座る天の声ナレーター一瞥いちべつして続けた。

「あぁ。もっとも、ガイド役なら既にいるようだが」
「あー、大丈夫大丈夫。私ガイド役初めてだから上手くできないし、戦闘もできないから」
「……それはガイド役としてどうなんだ……?」

 笑って手を振るポンコツガイドに、ドルーオが何とも言えない表情を向けた。
 オレも同感だ。多分オレも似た顔してる。
 何はともあれ、元魔王ならガイドも戦闘も超高水準でこなせる最高の仲間になってくれるだろう。
 あと、どうやら現魔王の名前はファリティというようだ。
「さっき言ってたファリティさんが、オレの希望の星というわけか……!」
「魔族以外で魔王を希望の星呼ばわりするのキミくらいだと思うよ」

 天の声ナレーターがツッコんでくるが、誰がなんと言おうと魔王は、と言うかオレを魂ごと抹殺してくれる存在は希望の星だ。

「それじゃあ、仲間になってもらっていいか?」
「もちろんだ。恩返しも含めて、協力させてもらう」

 そう言って、ドルーオは右手を差し出してきた。
 口許に微笑を浮かべ、オレがその手を握ろうとした──直前、ドルーオの手がピクリと動いた。
 の天の声ナレーターも、サッと顔を上げた。

「……何か聞こえたな」
「うん」
「え?」

 2人に言われ、あわてて耳をませる。
 だが、聞こえるのは風の音と小川のせせらぎだけだ。
 ドルーオ達の言う何かは見当もつかない。
 ──と思った矢先、オレの耳にも、うっすらとだが何かが飛び込んできた。
 明らかに自然の音とは異なる、2種類の高い音。

「これは……鳥の鳴き声だな」

 ドルーオの言う通り、1つは大型の猛禽もうきんを思わせる鳥の鳴き声だ。
 そしてもう1つは、

「……女の子の悲鳴じゃね?」

 となれば、考えられるのは1つ。
 女の子が獰猛どうもうな大型猛禽のモンスターに襲われ、逃げ惑っている。
 モンスターに襲われる美少女。
 それを助ける主人公。
 ファンタジーもののド定番キタ──!!

 ◇

 数分後、ドルーオと天の声ナレーターに先導された先で、オレはそれを見た。
 確かに少女が大きな猛禽に襲われていた。
 ただ……ウン、おかしくね?

「鳥デカすぎね!?」

 大型の猛禽と予想してはいたが、あれは大型なんてレベルではない。
 遠目から見ても翼開長よくかいちょうが7~8メートルは下らない鳥が、大型なんて表現で終わってたまるか。
 ダークグレーの巨体を、これまた長大な翼をはためかせて浮かせている。
 羽撃はばたきの音が既にかなりの大音量だが、時折響く鳴き声に至っては爆音だ。

「アイツ鼓膜こまくブチ抜きに来てない……!?」

 唖然あぜんとしていると、ドルーオが追加の爆弾を落とした。

「魔獣だな。まだ比較的小型のようだが」
「はい!?」

 あれで小型って……異世界コッワ。


(つづく)
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