上 下
33 / 33
第1部 目指せゲームオーバー!

第34話 強くなるには

しおりを挟む
「んぁ……?」

 なんか物音がした気がして、オレは目を開けた。
 視界はまだ薄暗い。時間で言えば多分、朝の5時ちょっと前くらいか。
 起き上がってみると……お。

「レラ……?」

 昨日オレ達のパーティーに加わった問題児が、どこかに行こうとしていた。
 周りを起こさないように気を遣っているのか、足音を殺している。
 ……まぁオレは起きちゃったんだけども。
 そんでどこ行くんだろ……

「着いてってみるか……」

 尾行とか自信ないけど、とりあえず自分に言い聞かせるように呟いてから、オレはそっと立ち上がった。
 直後、ナッシュが目を覚ました。寝起きゆえか、いつにも増して不愛想な視線が飛んでくる。
 ……うん、オレに隠密行動の才能はないってハッキリ分かんだね。

 ◇

「……でェ、なんで俺まで尾行しなきゃなんねぇんだよォ」
「しょうがないじゃん、俺この世界の土地勘とかないんだから。1人だと迷子になっちゃうだろ」
「なっちまえよ迷子によォ。つーか俺だってこんなとこの土地勘なんざねぇわァ」

 ダル気な声を冷めた視線が飛んでくるが、何だかんだ言いながらもナッシュは今、オレのレラ尾行に同伴してくれている。
 こっそりとどこかへ行ったレラをこっそりと追いかけると、レラは程近い森へと入っていった

「早朝の森とか絶対迷子になるじゃん……ナッシュ、ナビ頼むぞ」
「知るかボケェ」

 そのまま薄暗い森の中を、2人でガサガサと突き進んでいく。
 ……でも、ぶっちゃけレラどこにいるか分かんねぇな……
 周り見回しても、木とナッシュしか見えん。

「……おいィ、こっちだァ」
「ん。……お」

 ナッシュが指した方向に意識を向けてみると、オレにもすぐに感じられた。
 風の魔力……多分レラだ。
 魔力を追って走ってみると、少し開けたところにメカクレ少年がいた。
 レラがパーカーのポケットから、大量の小石を取り出した。やたらポケットがふくらんでるけど、中身は全部小石っぽいな。
 オレ達がこっそりと見守る中、レラは集中した様子で小石をまとめて放り投げた。
 大量の小石が宙を舞う。
 直後、レラが口を開いた。

「《風弾ストーム・バレット》」

 レラの手許に、青緑色の魔法陣が浮かぶ。
 そこから小ぶりな魔法弾が、いくつも発射された。
 飛んだ先にあるのは──さっきレラが投げた小石。
 ガガガッ! と破砕音を響かせ、風弾が小石を撃ち落とした。
 ……いや、撃ち落とせたのは投げた小石の3割くらいか。

「ちっ……」

 レラの舌打ちが聞こえた。やっぱ全部撃ち落とす気だったのか。

「どうやらァ、俺に負けた理由をちゃんと解ってるみてぇだなァ」

 昨日のナッシュとのタイマンの話か。

「負けた理由って……シンプルにお前のが上手うわてだったとかじゃねぇの?」
「脳ミソの形したアクセサリーとかァ、洒落しゃれたモン頭ん中に入れてるみてぇだなァ」
「何それ、どういう言い回しなの?」

 そんな特殊な言い回しの嫌味、初めて聞いたわ。つーか分かりづれぇわ。

「あいつが俺に負けたァ……言い換えりゃ俺に手を読まれたのはァ、あいつの手札が接近戦しかなかったからだァ」
「……と言うと?」
「刀剣での接近戦をメインとする冒険者ァ──アタッカーは敵に接近できなけりゃ無力だァ。そんであのガキは避けも受けもイイ線行ってたがァ、それだけだったから読まれたァ」
「つまり……魔法の撃ち合いで勝てるようになればいいってこと?」
「それもあながち間違いじゃねェ。あのガキに必要なのはァ、相手の中距離攻撃を牽制けんせいする飛び道具だからなァ。遠くからでも殺せる火力がねぇとォ、牽制にはならねェ」

 確かに『このくらいなら別に大丈夫だなー』レベルの威力の技だったら、そのまま力ずくで突破される。
 相手を受けに回らせて、攻めを潰せるだけの火力が必要だ。
 そして、どれだけ火力が高くても当たらなければ意味はない。特にアタッカーであるレラは、高速で動き回りながら相手を狙う必要がある。
 今やってるのも多分そのための、動きながら動く的に当てる特訓か。

「……行くぞォ。これ以上邪魔する必要はねェ」

 言いながら、ナッシュはスッタスッタ歩いて行った。
 やべぇ、置いてかれる。

「そこの勇者止まりなさい、そこの勇者止まりなさい。ウゥ~」
「誰が逃亡犯だァ、ぶっ飛ばすぞォ!!」

 あ、通じた。
 こっちの世界でも逃亡犯への呼び止めはこのフレーズなんだな。
 ……しかし、レラが強くなるために、魔法の腕をみがくのかぁ……つまり!

「オレが強くなるためには、逆に接近戦の腕を磨いた方がいいってことか!!」
「お前の『頭に脳みそ詰まってませんアピール』はもう聞き飽きてんだよォ」
「だから辛辣しんらつかって」

 まぁ、さすがにそこまで単純な話じゃないのは分かってるけども。

「自分のォ、それか自分の武器や技の強みを理解しろってことだァ。そんでそれを最大限に活かすゥ、またはそれと最も相性のいい戦い方を見つけるんだよォ」
「なるほど……」

 オレの強みって言うと、まぁ転生ボーナスだよな。
 全部の属性の適性が高くて、復活魔法が自動で発動する。
 言い換えればそれだけ魔力がたくさんあるってことだ。最後まで魔力たっぷりで戦える。
 ……うん、だんだん見えてきた。

「フッ、伊達だてにバトルアニメを履修りしゅうしてないぜ……!」
「何をニヤニヤ笑ってんだァ、気持ち悪ぃなァ」

 ◇

「あ、2人帰ってきた」
「どこに行っていたんだ? もう全員起きているぞ」
「ひとまず、燻製くんせいは温めておきましたよ」
「ナッシュー、早く朝メシ作ってくれよー!」
「おはよー、おかえりー」

 戻ったオレとナッシュに、パーティーメンバー4人と1羽から、そんな声が飛んできた。
 ……うん、4人ね。

「……なんでお前のが先に帰ってきてんだよクソガキィ」
「え、何言ってんの? ボクずっとここにいたけど?」

 レラが頭をかきながら言った。
 ウソ吐いてんな、分っかりやす。
 これで本人バレてないって思ってるのが逆にすごいわ。
 ……まぁでも、こういうポンコツキャラが豹変ひょうへんして、カッコ良く新技を披露ひろうするのも醍醐味だいごみの1つだ。
 楽しみだ。



(つづく)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...