恋をしよう

アオ

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 今日も保健室のドアをノックする生徒がいる。
 「センセー。きいてよ~」
 「はいはい。この前の彼氏と喧嘩したの?」
 「その彼とは別れた。また気になる人がいてさ」

 私は相葉もも 30歳。見た目はいかにもお局さんといったように
 腰まで伸ばしたまっすぐの黒髪をひとつまとめに線の細いメガネをしている。
 化粧は必要最低限。キレイにする必要もないから。
 身長は168センチと高めな為に腕を組むと威圧的に見えるらしい。
 そんな私は相葉学園という幼稚部から大学までエスカレーター式になっている
 巨大学園の保健室の先生。
 といっても担当は高等部のみ。
 子どもがここの幼稚部に通っているのは生徒にも先生にも内緒。
 説明するのが面倒だから。
 シングルマザーで大変だったところを、
 ここの理事長をしている叔父に助けてもらってから
 親子ともどもこの学園に通っている。
 マンモス校だから厳しいのかなって思ったけど、
 学力だけきちんと保っていたら生徒の自主性にゆだねるという
 けっこうフランクな学校で生徒達ものびのびしてて私はこの学校が好きだ。
 生徒もまあいまどきの子もいるけどみんな素直で恋愛相談なんかしてくる。
 保健室で息抜きができるように心がけているからかな?
 あんまり恋愛相談は得意じゃないんだけど、
 一度泣きながら保健室に来た子の相談を受けたら
 あとからあとから来るようになった。
 まあ私にできるのは話を聞くぐらいなんだけどね。
 だからだろうか、保健室は常にいろんな生徒が入り浸っている。

 
 「でね、今日の入江センセはね、
 またジャージの上からもわかるけど筋肉が程よくついて
 あれは結構ジムで鍛えてるね。絶対シックスパックだわ」
 「ちょっと伸びたさらさらの前髪をなびかせてバスケする姿は
 みんな見惚れちゃったよねー」
 「シュートを入れるときなんか手足長くって空中に浮いてる姿が
 綺麗だったんだよ、男の人なのに。
 それにあの汗を拭く姿・・・。キラキラしすぎてまぶしかったぐらいなの」
 「はぁ。いい目の保養だった・・・・」

 目の前で思い出しては目をきらきらしている子達。
 私がとめようとしても彼女の話は続く。
 入江センセというのがこの高等部で一番人気の人。

 入江 和 28歳 英語講師。


 アイドルユニット「ONE」のメンバーにすごく似ているってことで
 うちの学校にきたときはもうすごかった。
 どの子も憧れて先生に告白してたよなぁ。
 アイドルが身近にきたらそりゃ誰もが騒ぐよね。
 もちろん先生としてもきちんとしてる。
 教え方はすごくうまいらしい。もともとイギリスに住んでたらしく発音はもちろんのこと、
 紳士的な振る舞いが人気度アップにつながってる。
 男子生徒からも気さくな性格のせいか「入江ちゃん」と呼ばれ
 廊下で立ち話してる姿はよく見かける。

 そんなパーフェクトな先生だけど、私は苦手とする。
 直視できないんだな。
 キラキラすぎて。


 と、思い出したところでチャイムが聞こえた。
 「はいはい、あんたたち。大好きな入江先生の授業に遅れるわよ」
 「あー、やばい。急ごう。じゃあねー先生」
 バイバイと手を振る私を見て、
 ばたばたと数名が教室に戻った。
 私は彼女らを見送るとメガネをはずして肩をぐるぐるとまわした。
 メガネは疲れる。
 だけど、気分によってフレームを換えたりして楽しめるから私はコンタクトよりも好き。
 ちなみに今日はフレームの薄いめがねにしている。
 うーんと両手を上に上げて背伸びをし、紅茶を飲むためにポットへと向かった。

 
 「ママー!!」
 私のかわいい娘が校庭の向こうから大きく手を振ってきた。
 そしてあっという間に近づいてダイブしてくる。
 「ごめんねー。遅くなって。さみしかった?」
 「寂しかったけど大丈夫。ママ、お仕事おつかれさま」
 そういってぎゅうっと私を抱きしめてくれる。
 ああ、これで仕事の疲れがとれるんだな。幸せを感じる一瞬。
 「奈菜ちゃん、今日、お母さんに見せたいものがあるんでしょ?」
 奈菜の後ろから幼稚部の先生がにっこりを笑った。
 「そうなの!ママ、これみて!」
 奈菜の目線に座った私に真っ赤な折り紙を差し出した。
 「今日ね、先生に教えてもらったの。ママにプレゼント」
 お花の形に折った折り紙が私の手のひらにコロンと置かれた。
 「ありがとう。ママのお仕事机に飾るね」
 「ほんとう?」
 「うん。これ見てお仕事がんばるからね」
 ぎゅーっと抱しめてもう一度ありがとうと伝えた。
 その後は手をつないで先生にさよならをいってマンションに戻った。

 私の娘 奈菜には父親がいない。
 父親は浮気した挙句、その浮気相手と交通事故で死んだ。
 事故のショックと浮気されていたショックとぐちゃぐちゃだった私が
 死を選ぼうとしたときお腹の中に子どもができたことを知った。
 あんな男の子どもだから・・・・と周りには言われたけど
 私はおろすことができなかった。
 自分に生きろと告げてきた子ども。
 私も一緒にいるからと勇気付けてくれた。
 おかげで今では奈菜がいることで毎日が幸せいっぱいだ。
 どんなに辛いことがあっても奈菜と抱しめあえば二人で乗り越えることができた。
 笑うことができた。
 「ねーママ。テレビの予約大丈夫なの?」
 不意に奈菜に言われて携帯の時計を見る。朝、予約をしてくるのを忘れてきたのだ。
 「きゃあ、時間がない。いそげー!」
 「いそげー!」

 手を繋ぎながら猛ダッシュでマンションにもどった。
 走ったおかげかなんとか某番組に間に合った。
 私が予約している間に奈菜は手洗いとうがいと着替えを済ませてテレビの前に立つ。
 「よかったー、間に合ったね。あ!でてきたよー!!」
 奈菜は両手を挙げてきゃあきゃあと騒ぎ出す。
 「きゃー、かっこいい!!瞬!!」
 奈菜とふたりで騒いでいるのは、アイドルユニット「ONE」が出てきたから。
 そう、実は私たち親子は「ONE」の大ファン。
 ファンクラブに入りライブにときどき行くほど。
 彼らの歌やダンスは元気を分けてくれるから大好き。
 笑顔がたまらない。
 若い頃はアイドルなんて・・と思ってたのだけど、
 自分が辛い時に彼等の歌声や笑顔に癒された。
 すごく旨いとかじゃないんだけど聞いていたり
 彼等が楽しそうに話ししているのを見るとほんわかする。
 娘は彼等の歌を子守唄のように聞いて育ってるのでもちろん大好きになってしまった。
 娘と一緒に騒ぐのはどうかと思われるけど、
 他の人は知らない。私たち親子の秘密。まあ、秘密ってほどじゃないけど
 職場ではクールにしてるから。
 「あーもー。瞬かっこよすぎ」
 ふらふらしながらテレビに食いついた。
 近くで見てもやっぱりいいわぁ。
 「ねえママ、ママのがっこの先生で瞬にそっくりな先生いるんでしょ?」
 「なんでそんなこと知ってるの?」
 娘の言葉にドキリとした。
 「今日ね、リコちゃんがその先生見に行こうとしてね、幼稚園の柵に登って先生に見つかって怒られてたの」
 話を聞いてはあっとため息が出た。リコちゃんというのが奈菜の一番のお友達。
 活発でみんなのリーダー的存在。
 凄く面倒見がいい子何だけどたまに驚く行動しちゃうのでお母さんもヒヤヒヤしてるみたい。
 「どうしてそんなことしちゃったの?」
 「リコちゃんが朝見たんだって。でもみんな嘘だっていったから
 リコちゃん確かめてくるって言って柵登っちゃったの」
 ご飯の支度に取りかかりながら奈菜の話を聞くのもいつもの日課。
 今日一日の話をする奈菜の顔がくるくるかわって面白い。
 「似てる先生はいるわよ。でもだからといって高等部にきちゃだめよ。
 お兄さんお姉さんのお勉強の邪魔になるし先生も心配するでしょ?」
 「じゃあママがお友達になって連れてきてよ」
 はぁ?有り得ない。お友達なんて。
 「ママだって瞬が一番好きでしょ?」
 痛いところをつかれる。これが入江先生を苦手とする一番の理由。顔が好みすぎて近寄れない。
 遠くから見てきゃあきゃあ騒ぐのが一番なのだ。
 でもそれだけでお友達になるというのは相手に失礼だと思うのよね。
 顔だけで近づくなんて人いままでいっぱいいただろうし、
 きっと気分よくないよね。
 そう思ってどうも個人的に仲良くなろうとなかなか思えない。
 ましてや学校で仲良くなってしまったらすぐ生徒達に何か言われるだろうし
 というか、恋愛はしなくていいと思ってる。
 奈菜との二人の生活が楽しいしONEを見て元気をもらえたらそれでいい。 
 「奈菜、かっこいいからお友達になるっておかしいよね。
 奈菜ならそんな見せかけだけでお友達になってほしい?」
 しばらく考えてプルプルと首をふった。
 「そうだよね。リコちゃんだってお金持ちだからお友達になったとかじゃないもんね。
 リコちゃんが好きだからお友達になったんでしょ?」
 リコちゃんはすごい資産家の娘らしい。だからみんな遠巻きにしていたけど、
 奈菜はそんなのよくない。リコちゃんはいい子なんだっていってみんなの中につれてきた。
 それからリコちゃんは明るくなって今の彼女にいたる。
 奈菜は大きくうなずいてじっと私を見た。
 「じゃあ、奈菜自身を好きだからお友達になってほしいっていうのはわかるよね」
 「うん。ママ、ごめんなさい」
 そう言って私の太ももに抱きついてきた。私は奈菜の高さにしゃがみこんで抱きしめる。
 「いいよ。奈菜がちゃんとわかってくれたらいいんだよ。さ、ご飯にするよ。お手伝いお願いね」
 奈菜が元気よく返事をしてお手伝いをしようとした瞬間、
 家の電話が鳴った。

 



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