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しおりを挟むはあ。やる気が出ない。
机に両肘ついてぼうっとグラウンドを眺めた。どこかのクラスがグラウンドでテニスをしている。
なんでテニスコートあるのにグラウンドでやるのかいまだ理解できないと思いつつも
昨日の電話を思い出す。
電話は大貫先生からだった。そんな予感はしてたんだ。
大貫先生は体育教師で頭も筋肉で出来ているような体育会系の人で2つ下の高校時代からの後輩。
たまたまここに勤めだしてから再会したんだけどなぜか言い寄ってくるんだけど
どんなにあしらってもあきらめてくれない。何度も断っているのにわかってくれない。
昨日は食事に誘われたんだけど断ってもあの感じじゃあきらめてないような気がする。
なんて言えばいいのかな、毎回会話をしてるようでしてない感じ。
本日、何度目かのため息が出てしまった。
「相葉先生大丈夫ですか?」
目の前にきれいな顔が横からアップで現れた。きてたんだ、入江先生。
全く気が付いてなかったわよ。
「い、入江先生。すみません」
見慣れてそうで見慣れてない入江先生のアップにびっくりして思わず後ろにひっくり返りそうになる。
慌ててずれたメガネを整えた。
実はごくたまに入江先生は超至近距離に現れる。彼が近寄っているのに私は大体気がついてないから
いつも後ろにひっくり返りそうになったり、
椅子から落ちそうになるけど必死にそれを隠して笑顔で対応する。
こんなふうに現れるのは心臓に悪いのでやめてほしい。
入江先生からすると慣れているのか、
私が慌てふためいてる姿を見てもニッコリと笑ってるだけなんだけども
年上の私に対しても誰に対してもそうであろうけどもやめてほしい・・・。
「こちらこそびっくりさせたみたいですみません。大丈夫ですか?具合でも悪いのですか?」
そう言って私のおでこをさわろうと
指先がふれそうになるのを両手でガードした。
一瞬、目を細めて首を傾げた。
「だだだ大丈夫です。考えごとしてただけなんで」
「でも顔が赤いですよ、ほら」
さっきよりも近づいて私の頬をさすった。
きゃあきゃあ騒ぐ年でもないけど頭の中はパニックになってる。
先生はニコニコしながら頬をまだ触ってた。
こんなことを誰にでもしてるんだろうなぁ。天然そうだもん、この顔。
それに海外生活で距離感が日本人と違うんだわ。
ああ、でも好みすぎる・・・・。
いや、だめだ、ここで見惚れてる場合じゃないし、
至近距離もおかしいし、ええと・・・・
プチパニックに陥っている時に内線電話がなった。
た、たすかったぁ。
とにかくこの状況から逃げるように慌てて電話をとり先生から距離をとるように
後ろをむいて話すと相手は私の悩みの種だった。
『どうしても先生と食事に行きたくって。どうでしょうか?』
はぁ。何でわかってくれないんだろうか。
「どんなに誘われても行きませんし誰とも付き合うつもりはないんです。恋愛なんかしません。
それに内線使って仕事中に電話してこないでください」
ガシャンと大きな音をたてて切った。
まったく、もう。ここまで言ったらわかるだろうとブツブツ言っていると
入江先生の存在を忘れていたことに気がついた。
恐る恐る振り向くとなんだか今まで見たこともない極上の笑顔で立っていた。
「相葉先生、今、誰ともお付き合いしてる人いないんですか?」
ああ、なんだか恥ずかしいことを聞かれたみたい……………。
「あの、それは個人的なことなんで話したくありません・・・・・」
入江先生のキラキラ笑顔が眩しすぎて直視できず足元を見ながら答える。
「どうしてですか?僕が誰かに言いふらすような口の軽い男だと思ってるんですか?」
悲しそうに訴えられても答えないから。
負けないわよ。
「そんなふうには思ってないんですけど、プライベートなことを詮索されるのが嫌いなんです」
にっこりと大人の微笑をしながらいってやった!がんばったぞ、私。
なんて強めに言っても視線を合わすことができない小心者の私。
「プライベート・・・・・。そうですか、僕はあなたのプライベートに踏み込む価値のない男ですか・・・」
ぐほっ。
なんてことをなんて表情でおっしゃるのかね、この人は。
ちらりと盗み見したらちょっと伏目がちにさびしげな表情でになっていた。
子犬が捨てられたみたいな表情で言われるとこっちが悪いことしたみたいじゃない。
それにそんな表情なんかしたら襲いたく・・・・いやいや
思わず鼻血が出そうになるわよ。
ひとりで妄想の世界に入っていると
カツンと足音がなる。
入江先生の足が見えたかと思うと影ができた。
上をむくと目を細めた入江先生が私を見下ろしている。
椅子に座っている私を囲むように手を添えられた。
私も背が高いほうだけど、入江先生のほうがもっと高いみたい。
そんなことを頭のどこかで考えていると、
ひとつに結んだ私の髪をそっと触れ髪に口付けをした。
その姿がなんだか映画のワンシーンかドラマみたいと他人事のように見える。
「僕はね・・・・」
呆然と見ている私に耳元でささやくように話をする。
「ずっとあなたのことが好きだったんです。
ある人に大切な人がいると聞いたから想いを告げるのを我慢してましたが、
そんな人がいないのに我慢することはさすがにできないんですよ」
ぞくぞくする色っぽい声で私の心の中がかき乱される。
「相葉先生、いや相葉ももさん。
僕と付き合いませんか?」
えっと・・・・。
信じられないことを今言いましたか。
私が電話で誰とも付き合わないって叫んだのにこんなことを言ってくるなんて。
しかもあの入江先生だよ?
年上の私なんかよりもいっぱいいるでしょうに。
いつのまにか動く椅子ごと壁際に追い詰められて、
私は逃げることができない。
「あ、の」
「なんですか?」
口調はいつもの入江先生だけど、瞳の奥は熱いものが潜んでいるようで、
視線をそらすことが出来ない。
「髪を離してもらえませんか?」
「いやです」
今だ髪をつかんだままでいる。
「どうして離してくれないんですか・・・・」
「離したらあなたは逃げるでしょう?」
逃げるって・・・・・。この状況でどこに逃げれるのよ。
「ああ、困らせたいわけじゃないんですよ。
ちゃんと答えてくれたら離してあげます」
「じゃあ・・・」
「否定形の言葉も受け付けません」
にっこりと言う表現が一番似合う笑顔で私が答える前に言い放たれた。
そんなぁ。
困る。非常に、困る。
どうやったら逃げれるんだろうか。
うう、誰か助けて・・・。
「センセー、怪我した!!」
ガラッと扉を開けるとともに男子生徒が入ってきた。
同時に入江先生が離れてくれた。
はぁ、助かった。
内心ひやひやしながらも椅子から離れて生徒に近づき処置をする。
「入江ちゃんも怪我したの?」
私に足を差し出している生徒が不思議そうに訊ねた。
「僕はちょっと指先切ったから絆創膏もらいに行くという口実で相葉先生の顔を見にきた」
えっ?と処置している動きが一瞬止まってしまった。
同時に保健室にいた男子生徒の叫び声が廊下まで響いた。
冗漫にもほどがある。勘弁してほしい。はぁっとため息をつきながら
男子生徒にはテープ固定を仕上げ入江先生には絆創膏を手渡した。
「はい、君はこっちに学年名前を書いてとっとと教室に戻る。入江先生は人をサボる口実にしないて下さい。
生徒は真に受けて大変なことになりますよ。さあ、授業に戻って下さい。主任に見つかっても知りませんよ」
そう、にっこりと笑って保健室から追い出した。
なんだか入江先生はなにか言いたげだったけど無視。
とにかく無視して笑顔でドアを閉めた。
そして私は流しで手を洗い、目の前にある鏡を見た。
ずれている眼鏡をかけ直し髪を撫でて整える。
特に手入れなどしてないけど髪だけは真っすぐでサラサラしていてよく死んだ旦那にも誉められたな。
さすがに髪にキスはしなかったけど。
急にさっきのシーンが頭に浮かび上がり恥ずかしくなった。
あんな恥ずかしいことやってしまう入江先生って絶対イタリアかラテンの血が入ってんだわ。
じゃなきゃ普通の神経じゃないんだわ。
髪を触りながら一人で納得して飲みかけの紅茶に口をつけた。
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