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しおりを挟むしばらく沈黙が続く。
私はとても入江先生を見ることが出来ずギュッと目を瞑ったままだった。
そして「わかった」と低い低い声で言って入江先生は静かに保健室を出ていった。
だんだん遠くなる足音を聞きながらぐしゃりと座り込んだ。
それから入江先生は保健室に全く来なくなった。
それどころか学校内を歩いてても見かけなくなった。
生徒たちも最初はどうしたんだ、何があったんだと騒いでいたけど
ある日を境にピタリと何も言わなくなった。
きっと入江先生が何か言ったんだろう。おかげでとても静かになった。
たまに大貫先生が懲りずに誘ってきたりしていたけど上の空で返事していたらいつの間にか来なくなった。
私が望んだ静かな毎日が流れていく。
奈菜と二人だけの生活。楽しいのにぽっかりと大きな穴が空いてしまった。
「ねぇ、ママ。和くん最近こないね」
すっかりなついていた奈菜は姿を見せなくなった入江先生が恋しくて
たまに遊びに誘うように言ってくる。
だけどこればっかりはどうしようもないからダメだと告げると
決まって布団に入ってストライキされてしまうようになった。
私の方が布団に隠れてうずくまりたい心境だった。
そんな日々を過ごし心の大きな穴はだんだん深くなっていく。
どんなときでも入江先生の顔がちらついて離れない。
元気がない私に奈菜が久々に「ONE」のDVDを見ようと誘ってきた。
テレビで見る「ONE」はやっぱりかっこよくって、最高で。
キラキラしながら歌を歌ってるのを見て楽しいんだけど、
今まで見たいにドキドキはしなかった。
瞬の姿を見たときなんか、入江先生を思い出してしまって胸が苦しくなった。
避けたくせに姿が見たかったんだと思い知らされる。
ため息しか出ない私に奈菜は、
「ママ、和くんと喧嘩しちゃったならちゃんと仲直りしてね。
最近のママはとってもさびしそうだよ?」
なんて言われてしまった。
奈菜と二人でがんばると決めたのに、さびしそうな表情をしていたなんて。
「奈菜、ごめんね。入江先生とは喧嘩したわけじゃないの。
先生にはちゃんと似合ったとお付き合いすべきだからもうあわないのよ」
「どうして?ママじゃだめなの?」
「ママは・・・・奈菜がいればそれでいいの。大丈夫なの」
ぎゅうっと抱しめながら告げた。
奈菜は何も言わなかった。
次の日。
廊下で入江先生と江藤先生が楽しそうに笑って話ししているのを見て
回れ右して帰りたくなったもそこを通るしか道はなく仕方がないので早歩きで通り過ぎた。
すごく久しぶりに見た入江先生は相変わらずきれいな顔で笑っていた。
江藤先生との話が盛り上がっているみたい。
江藤先生は入江先生の腕をそっと触れながら「もー、先生ったら・・・」と
かわいらしく見上げていた。
本当にお似合いだった。
そう思ったら胸が苦しくなった。
ズキズキと痛む胸を押さえながら二人の横を過ぎ去る。
入江先生は見向きもしなかったのがまた辛くなった。
自分で入江先生に断ったくせに、踏ん切りがついていないのが情けなくて。
何やっているんだろう、私。全然、大丈夫じゃない。
大丈夫じゃないくせに大丈夫と言ってしまう私の悪い癖。
死んだ旦那に可愛げがないって言われたよね、何度も。
だから浮気したんだよと逆切れされ、家を飛び出して事故ったんだよね。
あの人の最後の表情がいやなものを見るかのようだったのを覚えている。
今更ながら思い出してへこむ私がいた。
江藤先生みたいに自分の欲しいものに素直に頑張れる人が羨ましい。
キラキラ輝いて見えるし可愛らしい。
私はクールとか言われても結局素直になれなかったり
臆病者で行動に移せないだけでただ眺めることしか出来ないんだ。
足早に二人のもとから離れた後、階段にさしかかって生徒に呼び止められた。
後ろを振り返った瞬間、足を滑らしてしまった。
体の重心が後ろになっていく。
怖くて目をつぶってしまっても
スローモーションで下に落ちていくのを感じ
素直にならなかった罰かしらなどと思っていたが、温かい何かに包まれた。
そして感じるはずの痛みがなかった。
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