恋をしよう

アオ

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 「キャー!先生!」
 「入江先生、相葉先生大丈夫!」
 生徒たちが騒いでいる声が聞こえた。
 入江先生?もしやと起きると私を包んで助けてくれたのは入江先生だった。
 入江先生は目を閉じたままだった。
 「入江先生、入江先生?」
 声かけるも反応がない。外傷は?脈は?体中診ながらポロポロと涙が出た。
 「やだ、お願い。目を開けてよ。お願い起きてよ」
 手の震えが止まらない。
 頭の中には最悪な状態が次々と浮かび上がる。


 お願い神様。



 入江先生はまだ目を開けない。
 うそ、冗談でしょ?
 何度も何度も叩いても先生は目を開けようともしない。
 私が先生の気持ちから逃げた罰?
 素直にならなかったから?
 だから神様は私から入江先生を奪うの?
 「お願い。もうあなたから逃げないから。素直になるから」
 胸倉を揺さぶりながら呟く。
 だからお願い。目を開けてよ。
 私はぼろぼろと涙をこぼれるのも気にせず
 何度も何度も入江先生の名前を呼んだ。





 「本当?」




 入江先生の胸に当てていた手をガシッと捕まれた。
 えっ?
 パチッと目を開いた入江先生はむくっと起きた。
「相葉先生は大丈夫?怪我ない?」
 呆然としたまま頷いた。
 うんうんとニコニコしながら頷いて「よかったよかった」と呟きずれていた私のメガネを直してくれた。
 「え?入江先生ご自分の怪我は?」
 「この位頭打たずに受け身とれますってば。運動神経いいほうなんで」
 「気を失ってたんじゃ」
 「ずっとおきてましたよ。相葉先生が触ってくれるんで寝たふりはしましたけど」

 ええっ?

 「でも良かったです。相葉先生が泣くぐらいに心配してもらえたし
 どうやらちゃんと素直になってくれるらしいし」


 ニヤリと笑ったのは気のせいだろうか。
 握っていた手を私の頬にもってきた。
 親指で涙を拭いクスリと笑う。
 「いっぱい泣いていっぱい笑って?俺の前だけでもいいからさ。
 ほんとの相葉センセ見せて?」
 

 必死に作り上げた壁をいとも簡単に壊してそれでも逃げた私をこれまた簡単に捕まってしまった。
 この先どんなに逃げてもきっと叶わないだろうと思う。
 この人はそんなひとなんだ。
 私の逃げないという気持ちがわかったんだろうか、甘く微笑んでくれた。
 私はじっと見つめ合い入江先生の瞳に吸い込まれそうに・・・・・・・・


 「さすがに生徒と前じゃどうかと思うぞ」
 ぼそっと大貫先生の声が聞こえた。
 「なんだよーいいところなのに~」
 「きがきかねぇなぁ~」
 などと生徒の声で私たちが囲まれていたのに気付く。
 「ひゃぁっ」
 と慌てて飛び退いたと同時に舌打ちが聞こえ一瞬だけいやーな顔の入江先生がいた。
 いや、普通だめでしょ。
 「さぁ、お前たちは教室戻れー」
 みんなのブーイングをハイハイと両手で受けながらみんなを促した。
 「相葉先生は入江先生に付き添って下さい。病院に一応行かれるんでしょ?」
 「は、はい」
 慌てて立ち上がってアイタタタと腰を抑えた入江先生の腕を引っ張った。どうやら腰は打ったらしい。
 支えながら立つと「相葉先生」と呼び止められた。
 二人で振り返ると大貫先生はにっこりと笑った。
「これで安心して泣ける場所が出来ましたね。
 本当は僕がそうなりたかったですけど僕には感情むきだしにすらなってくれませんでした。
 だけど今日の相葉先生を見て入江先生に完敗です」
 そして彼は立ち去りながら
 「お幸せに」 
 と囁いていった。
 なんだか今まで邪険にして悪かったなぁ。
 ちゃんと自分のことを考えてくれていたとは思わなかった。
 こんな私のことを好きになってくれてありがとう。
 「大貫先生、ありがとう」
 と叫ぶと手をヒラヒラさせていった。
 「今更、大貫先生の方がよかったとか言わないよね?」
 目をウルウルさせながら入江先生は覗き込んできた。
 ぐほっ。その顔はダメでしょ。
 可愛すぎて直視できませんてば。
 大体、意地悪になったり、
 急にかわいい顔したりこの人は私の心臓をどうにかしたいんだろうか。
 ドキドキしっぱなしでもたいよ・・・・。
 顔が赤くなりながらもそっぽを向いて  
 「何言ってんですか!病院行きますよ」
 私は入江先生を支えながら歩きだした。
 ちょっと冷たく言い過ぎたかな?と思って覗き見したら
 隣で見るからに落ち込んでますって顔になり引きずられるように歩く入江先生。
 落ち込ませちゃったのかな。さっき素直になるって言ったばっかりなのに可愛げなかったよね。

 よし!


 「えと、もし病院で入院とかじゃなかったら今日はうちに来ませんか?
 助けていただいたお礼もしたいですし奈菜も会いたがってますし」
 「それだけ?」
 「え?」
 「それだけ?お礼と奈菜ちゃんがあいたがってるだけ?」
 入江先生は下を向いたままだ。え~言うの?全部言わなきゃいかんの?
 うううぅと少し唸って小さな声で呟いた。
  「私も一緒にいたいし・・・・」
 あぁ、恥ずかしい。穴に入りたい。もう、これ以上無理無理無理。
 「う、我慢できないかも。ツンデレ、最高」
 ぼそっと入江先生が何か言ってるのは聞き取れず。
 「え?なんですか?」
 「なんでもないです。さあ、病院行きまショ。さくさく~っと」
 入江先生はスタスタと一人で歩き始めた。
 腰が痛かったんじゃなかったの。という私のツッコミはスルーで入江先生はどんどん先に進む。
 「病院行って仕事と部活を早めに切り上げてー奈菜ちゃん迎えに行ったらみんなでお買い物してー」
  などと楽しそうに独り言を言っていた。
 「入江先生、怒ってたんじゃないんですか?」
 ふと、彼の態度の違い様に思わず疑問が浮かんだ。
 私は明らかに避けられていたはずだ。先を歩いていた入江先生はくるっと振り向いた。
 「えー怒ってましたよ、そりゃあもうカンカンに」
 怒っていたと言うわりには優しい口調。
 「なんでこんなに頑固なんだーって。信じてくれないんだーって。
 他にお似合いな人とかまで言われたら怒るでしょ、普通。
 だけどあそこまで頑なに否定されると俺のことそこまで求めてくれないんだと逆にへこんじゃって」
 いつの間にか授業が始まり、授業中の職員用玄関は静かで入江先生の柔らかい声だけが響いた。
 「相葉先生から嫌われてはいないと思ってた。
 だけど誰かにとられる前に早く自分のものにしたいとちょっと焦ってた。だから嫌われちゃったかなって
 もっと抑えて大人になれなかった自分にも怒ってた」
 焦るとかなんだか信じられないんですけど。
 「あ、信じられないって顔してる。俺だってこんなに余裕なくなるって初めてだから」
 私の頬を指先で触ると切ない顔をした。
 「ほんといっぱいいっぱいなんだ。あなたのことになると余裕とか理性とかどっかいっちゃう」
 入江先生は私の頬をしばらく撫でてそっと離れた。
 触れていたところが熱い。
 「俺、相葉先生が好きだよ。
 生徒の話をよく聞いてくれるところとか、
 奈菜ちゃんと楽しそうに話しているところとか。
 クールな振りして実はアイドル好きなところとか。
 なかなか素直になってくれないけど、
 自分だけに素直になったときとかたまんないし・・・・。
 だからさ、俺のこと好きになって?」

 最初の強気な態度のように言ってくれたら突っぱねることができるのに、
 これじゃあ素直にうなずいてしまう。


 「・・・・好き」

 
 聞こえたか分からないけど小さな声で言ってしまった。
 恥ずかしいからうつむく。
 しばらく入江先生は黙っていたけど、
 突然私の腕をつかむと急に歩き出した。
 やだ、中履のままなんだけど。

 
 校門前にいたタクシーに無言で乗り込み最寄の総合病院へ行く。
 その間も入江先生は黙ったままで、
 顔を見ようとしてもそっぽを向いたままだった。
 聞こえなかったのかな。
 それともどこか痛みが強くなったりしたのかな?我慢できないほど。
 受診している間、いろんな考えがもんもんと噴出して
 泣き出しそうになる。
 ここで泣くわけにもいかないから我慢してるけど
 不安で不安でいっぱいいっぱいだった。
 受診が終わったようで診察室から出てきた。
 「あの・・・。大丈夫でしたか?」
 こくりとうなずいてまたスタスタと歩き始めた。
 そして会計を済ませて 帰りのタクシーでも難しい顔して黙り込んでいた。
 やっぱりどこか痛みが酷くなって来たの?

 思い切って話しかけようとした瞬間、学校についてしまった。
 「ここでいいです」
 と校門前で降りようと促された。せめて玄関近くまで乗るつもりだったのに。
 お金を払いタクシーを見送るとぎゅうっと後ろから抱きしめられた。
 「えっ?」
 「我慢も限界」
 そう言ったと同時に入江先生の方へ体ごと振り向かせられキスされた。
 「あんなかわいい告白なんかされたら理性保てないから。他の人にあんな顔見せちゃだめだからね」
 あんな顔ってどんな顔よ。
 「困った顔してもだめだよ。くそっ、学校じやなければ」
 なんだかブツブツいって考え始めた入江先生。
 その姿がなんだか可愛らしくって笑ってしまった。
 「んだよ。学校だからキスで我慢してんだから。帰ったらそんな余裕なくしてやるから」
 すねた顔が、ますますかわいくって吹き出してしまった。
 「あーもーがっこ行こ。がっこ」
 入江先生は無理やり手を引っ張って校舎に入った。
 するとお昼休みで賑わう廊下から生徒が顔を出していた。
 「入江ちゃーん。大丈夫だった?」
 「先生~大丈夫?」
 わらわらといろんな生徒が心配して声をかけてきた。慌てて繋いだ手を離した。
 「おーみんなありがとなぁ。検査したけどなんともなかったよ」
 手をブンブン振って入江先生は答えていた。
 すると生徒の一人が「相葉先生とはうまくいった?」と大きな声で聞いてきた。
 なんと答えたらいいのか慌てているとぐいっと肩を引き寄せると
 「うまくいったぞーもう相葉先生は完全に俺のものだから誰にも渡さないからなー」
 と大きな声で答える。

 


 ぎゃーっっ。生徒の前で何いってんのよ!



 
 「さっき笑ったバツ」
 慌てて離れようとした私に耳元で囁やく。
 顔は爽やかな笑顔のままで。
 こんな笑顔ズルイ。
 なにも言えなくなってしまうじゃないの。
 生徒たちもキャーだのワーだの黄色い声があがった。
 生徒達にばらしちゃって大丈夫なのかしら。
 今後のこともあるし。
 全く何を考えてるんやら・・・・。

 

 はあっとため息をつき入江先生を睨みあげるとぱらぱらと何かが降っている。
 何?と、校舎を見上げると窓から一斉に紙吹雪が舞ってきた。
 「入江先生ー相葉先生ーおめでと~」
 生徒達は声を揃えてお祝いを言ってくれた。
 彼等のサプライズで胸にジンとくる。
 いろんなこと諦めるしか頭になかった私におめでとうと応援してくれる気持ちが素直に嬉しいと感じた。
 涙でうるうるする私の隣で「相葉先生にそんな笑顔に出来るのって俺だけじゃないから悔しいんだよなぁ」
 なんてぼやきながらも入江先生も満面の笑顔だった。
 ヒラヒラ舞い落ちる紙吹雪はみんなの気持ちのように優しく私の周りをつつんだ。
 「だって私は生徒達を愛してますから」
 にっこりと微笑んで生徒達を見上げる。
 「・・・・それは俺よりも?」
 「さー、教室戻ってください。仕事しますよ~」





 隣でぶつぶつ言って落ち込んでいる人には返事せずにこにこで私は校舎に向かった。





                                      Fin

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