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一杯のコーヒー
しおりを挟む二人のシルエットがしばらく重なったまま動かなかった。
ちひろは唇が熱くなり体全体に電流がながれたように痺れめまいがする。
慧がわずかに唇を動かす。まるでそれを待っていたかのようにちひろの唇は反応し、
徐々に体が熱くなりはじめた。
二人のキスは、慧が唇を動かしてから深く舌を絡めやがて官能的になっていく。
ちひろは自然と慧の首に腕をまわし、慧の大きな両手はちひろの腰を支えるように置いてあった。
甘い吐息がちひろの口から漏れる。
それにはっとした慧はそっと口を離した。
上目遣いにうるうるとしたちひろの瞳を見つめたさとしは、自分の本能のままにおこして
しまった行動を呪った。
くそ、ミイラ取りがミイラになるとは。
今更、慧がどんなに自分を呪っても先に進むしか道がないことを知っていた。
しかしそれをすることでちひろとの距離は遠くなることを危惧する自分に矛盾を感じているものの
普段仕事ではあんなに人を冷静に切っていることを思い出しこれは仕事だと言い聞かせていた。
慧のそんな心情をわかっているのかわからないのか、硬い表情の慧をちひろはじっと見つめた。
その瞳をそらすことなく、大きく息を吸いながら慧はちひろに告げた。
「オレと結婚を前提に付き合ってくれないか。」
ちひろは慧の言葉に声が出ず、うなずくことしかできなかった。
「ほーう。プロポーズねぇ」
仕事が終わり珍しく時間があった瞳は夕食を一緒に食べのんびりとしてた。
ちひろの家のリビングで小さなテーブルを挟み二人でお茶をしていた瞳は、
黙って先日のちひろの話を聞いていたが開口一番にいつもの冷やかしがはじまった。
「そんなプロポーズなんて大げさだよ。それに・・・・・」
それにとてもつきあってほしいという表情ではなかった。何かを抱えてまるで懺悔をするかのように
言われたのだった。
「ふうん・・・。懺悔ねぇ。普通の状態じゃないわけだ」
瞳はちひろの洞察力を信じていた。今まで外れたこともなかったし、
そのおかげで助かったということもあったのだ。
長年の親友がそこまでいうのだ。きっと本当のことだろう。
「で、何て答えたの?」
ちひろは慧の言葉にだまってうなずいていたことを伝えた。
「私、慧さんとはまだ数回しか会ってないし、どんな人かも本当は解ってないかもしれない。
でも心の奥ですごく惹かれてる。
だから一緒にいたいって思う。それが正直な気持ち」
瞳の正面に座っていたちひろのまっすぐな目を見て瞳はただうなずいた。
「そうか。ちひろがそこまではっきりした表情で言うなんて健太君の件以来だね」
そういって手元にあったコーヒーをゆっくりと飲み始めた。
「健太君のことも話すの?」
「そうね。あの人なら話しても大丈夫な気がする」
二人がすわっている脇にある本棚の上には写真が飾ってあった。
その写真たてをちひろはそっと見た。
そこにはちひろと瞳ともう一人女性が、満面の笑みで写っている。
その隣にはその女性と夫らしき人物が、まだ赤ちゃんの健太に両脇からキスを
している写真が置いてあった。
どちらの写真も幸せがあふれ出ており見るものが自然と笑みがこぼれてくる。
「あれから3年かぁ。早いというか、長いというか。」
写真を見ながら瞳は呟いた。
「早かったわよ、私にとって。毎日が手探りだったけど楽しくてしかたがなかったし」
ちひろはこの3年を思い出しながらにっこりと笑った。
「うん。大変だったけど、幸せだったね」
瞳も自然と写真を目をやりうなずいた。
「それにこれからもっと幸せになるんだもん。
ちひろが頑張ってきた分、幸せになれるよ」
幸せ・・・・・かぁ。
家の立ち退きの話など問題は山積みであるが、大切な人が自分の周りに、そばにいてくれる。
家族、友人、そして恋人。
それだけで自分は十分幸せなのだ。
「ねえねえ、今度その慧さんに会わせてよ」
「うーん、忙しい人だから。そのうちにね」
「忙しい人なんだ。何の仕事をしてる人?」
「サラリーマン。でも普通のサラリーマンっぽくないのよね。
なんと言うか、品があるっていうの?」
慧は自分にない品があると感じていた。ちょっとしたしぐさや、
エスコートの仕方など世界が違うと感じてしまうことがちひろには
多々あった。
「ふうん。実はどっかの社長さんだったりして。
もしくは御曹司とか」
瞳の発言は否定できないものがあった。ちひろ自信も
何度かそう思ったぐらいだ。
「でも自分では会社員だっていうのよね。
今はそれを信じるよ。もしかしたら何か理由があるのかもしれないし」
「ちひろ~。そののんびりしたところはあなたのいいところだけどさ、
ちょっとは危機感あったほうがいいよ?」
ちひろの発言に瞳は溜息をつきながら答えるも
これがちひろらしいと思っていた。
すぐに人を信じてしまうお人よし。
小さい頃から彼女はこうだった。
だからだろうか、さびしい人間は彼女の周りに自然と集まってきていた。
そして彼女の温かさに助けられていく。
そんなちひろであったが、ここ最近立ち退きの話でどんどん心がすさんでいっていたことを
何も助けることできずにただ見守ることしか出来なかったことが、
瞳にとってとても悲しかった。
すぐに人を信じる彼女が建設会社の話を鵜呑みにせず、自分の言い分も言いながらも
会社の方に変わってほしいと思う気持ちを痛いほど理解していた。
それほどちひろにとってこの場所はとても大事なところであった。
私は見守ることしかできなかったけど、彼ならきっとちひろのことを支えてくれるだろうか。
ずっと凍り付いていたちひろの心を、少しづつであるが溶かしてくれるだろうか。
瞳はそっと窓の外を眺め、星に向って願いを込めながらコーヒーをゆっくりと
飲み干した。
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