青空とエプロン

アオ

文字の大きさ
3 / 10

素の君に惑わされ

しおりを挟む


 「高田さん、ちょっと手があいたら専務室に来てくれないか?」

 朝一番に直様が私に声をかけた。

 私は今は専務付きの仕事をしてるからこうして呼ばれるのはおかしくないことだけど、

 なんだか、にやけてますが。

 気のせいでしょうか?

 とりあえず、今手があいてたからすぐに向った。

 「失礼します」

 ノックをして専務室に入る。

 「高田~。結婚するらしいな、おめでとう」

 はぁ。やっぱりその話か。

 ニコニコと話す直様にがっくりと肩を落としながら答えた。

 「あの、その件につきましては・・・」

 「大丈夫、両方から話を聞いてるから」

 両方?

 「まずは、お前の親父さん。朝一で探りの電話がかかってきたぞ」

 うちの父と直様は仕事上取引をしているので、仲がいい。

 めったに人を認めないのに、直様をとてもかわいがっている。

 「付き合ってたのに知らなかったのか~って。

 高田とリョウがねぇ。オレとしては、葵が取られなくて済むから助かるけど」

 あ、今かなり楽しんでるでしょ?

 「式、いつ挙げるんだ?もう、一緒に住みたくって仕方がないんだって?」

 はぁ。やっぱりか。

 「そこまで聞いたんですか?」

 げんなりとしながら答えた。








 父に初めて反抗した後、私の想いがどんな風に伝わったのか、

 「そうか。今まで私逆らったことのなかったお前が、そんなふうに言うなら

 よっぽど竹内君のことを想っての事だろう。

 わかった。君達の事を認めてやろう。

 で、式はいつ挙げるつもりなんだ?」

 と、いたくにこやかに言われた。



 ・・・・・・・・。

 はい?

 式といいましたか?

 急な展開についていけない私は目が点になった。

 どうしよう。

 そこまで考えてなかった。

 「まだ、はっきりとは決めてませんが、私の仕事のほうが落ち着いてからと考えております」

 「仕事というと?」

 「保育士をしています。保育士になってまだ間もないので、

 せめて担任がもてるようになってからと思っておりまして」

 ナイスフォロー!

 これなら期間がわからないから後からごまかされる。

 「そうか。そうだな」

 「ですが、なるべく早く結婚したいと思っています。出来れば一日でも早く一緒に住みたいぐらいです」

 ・・・・・・・。

 リョウ?今、一緒に住むって言いました?

 演技だよね。

 「そうか。そんなにもえのことを・・・・」

 あの、父が泣きそうになっている。

 つないだ手をギュッと力を込めて、笑顔で私を見る、リョウ。

 いつもと違って、優しいリョウ。

 これは演技だとわかっているから正直辛い。

 彼は、私の事は好きじゃない。

 ただのうるさいお嬢様ぐらいにしか思ってないだろう。

 「君の仕事は楽しいかい?」

 私がほうけている間、父とリョウはどんどん話を進めていった。

 いつの間にか、あんなに厳格な父が笑いながら話している。

 そして、父とリョウが仲良くなっている・・・・。

 いや、いいんだけどね。いいことなんだけどね。

 私は、リョウが好きだからいいよ。

 多分、顔に思いっきり好きだ~ってでてると思う。

 そういう性格だしね。

 だけど、リョウは?

 何のためにここまで協力してくれるの?

 いったいどういうつもり?

 思い立ったら聞いてみないと気がすまない性格。

 やっと二人きりになった帰り際にリョウを見送りに出て聞いてみた。

 「どうしてこんなに協力してくれるの?」

 友達だから?

 「あら、私にも協力してほしいからよ。

 私も結婚するように言われてたの。

 残念ながらうちの親も権力持っててね。

 結婚しなければ今の仕事を取り上げるって。

 私ね、色々と遠回りしてようやく今の仕事に出会って大変だけどすごく楽しいのよ。

 今の仕事でやりたいこと沢山あるし。

 ここでやめさせられるなんてまっぴら。冗談じゃないわ。

 いろいろと手を打ったけどどうしても結婚して、家庭を持たないと

 認めてくれないのよ。悔しいことに。

 だから、私と契約結婚しない?」

 契約結婚?

 リョウはとびっきりの笑顔で私を見ていた。

 こんな素の笑顔を見せられたらたまったもんじゃない。

 言ってることが無茶苦茶なのに、それに惑わされうんとうなずきそうになった。

 「そんなことしてばれたらどうするの?」

 「ばれた時はばれた時よ。それとも、あなたはよく知らない人と結婚したい?

 私ならいやよ、そんな人」

 いやよって私だっていやだけど。

 「あなたなら私がオカマだって知ってるから安全だし、便利なのよね」

 「便利だっていうのはわかるけど、安全って?」

 「貞操の危機」

 ぶっ。貞操って。

 「あ~、バカにしてるけどね。私、女に襲われそうになったことあるんだから。小さい頃」

 女に襲われたって・・・。

 「ほら、見てのとおり小さい頃から美少年だったのよね。だから、近所のお姉さんに襲われたのよ。

 それ以来、どうも女性が受け付けなくってね」

 それでオカマになったのか・・・・・。ちょっと方向性間違ってるような気がするけど。

 でも、リョウの意外な過去を知ってしまった。

 いいのだろうか。

 「あら、そんな顔しないで。あなたらしくないわよ」

 おもわず、落ち込んで下を向いていた私の顔をリョウは両手で上げた。

 「過去よ、過去。それに受け付けないといっても葵とあなたは私のテリトリーに

 入ってもなぜか大丈夫なのよね。まるで、兄弟みたいだからかしら。」

 兄弟・・・・。微妙だな。姉妹の方がいいのかな。いや、それもおかしいような。

 うれしいやら悲しいやら・・・・・。

 「なによ、その顔。私の兄弟ならうれしくないの?」

 「いえ、うれしいわ。光栄ですわ」

 やや、引きつりながら言う。

 「とにかく、あなたとならお互い秘密ももうないし、うまくやれると思うし、

 楽しくやれると思うのね。

 それに家事全般こなせる私はお買い得だと思うけど?」

 「うう、痛いところを突いてくるわね」

 そう、私は家事全般が苦手だ。

 洗濯ぐらいなら干すだけだからどうにかやれるけど、今までお手伝いさんがいたからやったことがなかった。

 料理なんかセンスのかけらもないし。どうにかお弁当を作れるようになったくらい。

 そのことを、以前リョウと話して私たちまるで男と女入れ替わってるみたいねって笑ったものだった。

 「どう?私と結婚したくなったでしょ?」

 ニッコリと私に向かって爽やかな笑顔を向ける。

 だからその笑顔、無防備すぎて私には毒だって!!

 その毒に犯されたのか、気がついたらうなずいてしまっていた。

 
 


 

 昨日のことを思い出していると、直様はニヤニヤしながら私を見ていた。

 「葵がなんだか怒ってたぞー。分けわかんないって」

 あー、昨日、自分でもよくわからなかったけどとりあえず葵に状況説明だけ

 電話でしたんだった。

 「まー、思い込んだら突っ走って後先のことを何も考えない性格の高田のことを心配して

 葵も心配してるんだ。後で、叱られといたほうが身のためだぞ。

 怒ると怖いからなぁ」


 はははははは。

 しっかり専務が尻にひかれてるよ。

 「わかりました。お昼に怒られに行きます」

 怖いなぁ。説教だろうなぁ。

 それにしても何気に失礼なこと言ってませんでしたか?

 「それと・・・・。高田はそれでいいんだな?」

 ?

 「いや、気持ち的にはどうなのかと。無理やりとか、よくわからず流されてとかなら

 オレから言ってやろうか?」

 無理やりって。あなたがそんなことを心配するのですか?

 散々、葵に迫ったり無理やり結婚することに持っていった人が。

 でも。

 直様なりに心配してくれているのはよくわかった。

 「無理やりとか、じゃないですよ。ただ状況に頭がついていかなかっただけです。

 大丈夫です。ちゃんと、私は、好きですから」

 ニッコリと笑って答えたら安心したようだ。

 「そうか。それならいいんだ」

 怒ってくれる親友に、心配してくれる上司。

 私って恵まれてるわね。

 

 専務室のドアを閉めて考える。

 なんだか、変な方向にいってるけど、好きだと気付いた相手と一緒になるんだものね。
 
 この状況は、楽しまなければ、もったいない。

 自然と笑みがこぼれる私を秘書課の子たちはみんな変な目で見つめた。

 

 

 

 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚した。これは金が欲しい父の思惑と、高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない。 そもそもヴィンセントには恋人がいて、その恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ。 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら屋に住むように言われて…… 表紙はかなさんのファンアートです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...