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24、【レド視点】彼女との再会

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 衝撃。
 たまらず膝を突くと、今度は肩口だった。
 さらには、また頭部。
 衝撃は続く。

「防ぐなっ!! 刑場に引き立てるまでも無い。私がここで誅してくれるっ!!」

 その叫びには迫真の響きがあった。
 止まない暴力の中で、レドは内心で首をかしげることになる。
 
(まさか本気なのか……?)

 本気で怒りを覚えているのだろうか?
 自らを被害者だと思っているのだろうか?
 レドこそが全ての元凶だと思っているのだろうか?

 それが事実ならば、呆れ果てる他になかったが……レドが得た感慨は「まぁいい」といったものだった。

 ここまで自らに非の無い態度を取れるのであれば、衆人もハルートを信じるかも知れない。
 それならばそれで結構だった。
 ハルートへの不信が収まることは、レドの求めるスザンの平穏につながる。

 もっとも、真相を知る者からすれば狂気しか覚えるものは無いだろうが……それでも良いと思えた。
 理由は、ハルートの発言にある。
 最愛の妻にして至上の聖女を失った。
 最愛の妻。
 彼はそう言ったのだ。
 本気でそう思っているのならば、それもまた結構だ。
 彼はアザリアの最愛の人なのだ。
 ハルートのその思い込みは、彼女の幸せにつながるに違いなかった。

(……うん、そうだな)

 胸中で頷く。
 これで良かった。
 アザリアが幸せになれるのであれば、それ以上に望むものなど無かった。
 
 アザリアはレドにとって憧れだった。
 10年前に、レドの父は亡くなった。
 引っ込み思案で、何事にも自信の無かった少年の元に、突如ケルロー公爵の立場が舞い込んだ。
 その時に出会ったのだ。
 重責に押し潰れそうになっていたレドは、教会においてアザリアを目の当たりにした。
 大聖女としての重責に果敢に挑まんとするアザリアの姿をだ。

 その姿に、レドは勇気づけられた。
 さらには自信も与えられた。
 思わず彼女のために行動し、それが成功した。
 自分はそれほど捨てたものでは無いと思うことが出来た。

 だから良いのだ。
 スザンの安泰に、アザリアの幸せに貢献出来る。
 それで良かった。

 ただ、レドは苦笑をわずかに浮かべた。
 覚えたのは後悔だ。
 最後にアザリアに会わないのか?
 そんなメリルの提案を、自分は無駄だからとはねつけた。

(頷いておけば良かったな)

 やはり強がりなどろくな結果は生まない。
 だが、今さらどうしようもない。
 ハルートの暴力は続いている。
 意識は遠のき初めている。
 レドは苦笑を濃くしながらに目を閉じ……

「……アザリア?」

 そんなハルートの唖然の呟きを耳にした。
 
(どういうことだ?)

 気がつけば暴力の嵐は止み、代わりに妙なざわめきが周囲にはある。
 不思議に思いつつ目を開ける。
 頭上には目を見開いているハルートがいる。
 彼の視線を追う。
 レドもまた目を見開くことになった。
 そこにいたのだ。
 レドが会いたかった彼女が……アザリアがいた。
 離れの屋敷における様子とは違う。
 玉座の間の入り口に、自らの足をもってそこに立っていた。

(……お目覚めになられたのか)

 そんな現実だった。
 そして彼女は、愛するハルートに会うべくここを訪れてきたのだろう。

 思わず笑みが浮かびそうになった。
 最後に彼女に会えたことには喜びしかない。
 しかし、笑みなど浮かべるわけにはいかなかった。
 彼女は明らかな憎悪の表情を浮かべている。
 理由など分かりきっていた。
 絶対に許さない。殺してやる。
 彼女はそう口にしていたのだ。

 自分は彼女の敵だった。
 死しても一片の同情すら出来ない相手。
 最後までそうあるべきだと感じた。
 レドは痛みをこらえつつに憎悪の視線を返してみせる。

「……偽物どころでは無く魔女か何者かだったのか? 来いっ! 今後こそ私が貴様を始末してやろうっ!」

 レドは内心で思わず自画自賛だった。
 咄嗟にしては出来たセリフではなかっただろうか。
 当然、彼女から返ってくるのは相応の言葉だ。
 待ち受ける。
 彼女は燃えるような目をして口を開いた。

「……少し待っていて下さい」

 その言葉は一体どんな意味なのか?
 レドが「は?」と呟く中で、彼女の凄絶な視線はハルートへと向けられた。
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