財産が無ければ不要と離縁されました。でも、そのおかげで大切な人と一緒になれました

甘海そら

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1、離縁

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「ヘルミナ。お前の役割は今日までだ」

 いつも通りに朝食を終え、ヘルミナが片付けを進める中でのことだ。
 
(……え?)

 ヘルミナは手を止めた。
 食後の紅茶を味わっている男がいれば、彼に首をかしげる。

「あ、あの、旦那様?」

 彼はカップに目を落としたままに応じてくる。

「2度も言わすな。お前は用済みだ。分かったら、さっさとこの屋敷から出ていけ」

 離縁を告げられている。

 そう理解して、ヘルミナに驚きは少なかった。

(……あぁ、そうなりましたか)

 兆候はあったのだ。
 共に暮らし始めたその日からだった。
 いつかこうなる日が来ることをヘルミナは何ともなしに予期していた。

 ◆

 ヘルミナは両親から心配されていた。

 容姿に優れたところが無ければ、性格もオドオドとして陰気。

 嫁ぎ先など見つかるのだろうか?
 そう心配されていた。

 そこに現れたのが、今の彼女の夫……シュナン子爵家のハルムだった。

 彼は熱心にヘルミナを妻にと求めてきた。
 両親は喜んでそれに応えた。
 ヘルミナもまた、求められることを嬉しく思い、喜んでハルムに嫁いだ。

 ただ、嫁いで最初の夜だ。

 今でもヘルミナは覚えている。
 ハルムはヘルミナと床を共にしようとはしなかった。

 代わりに、一瞥してきた。

 両親の前での雰囲気は彼には無かった。
 今までヘルミナが会ってきたほとんどの男たちと同じだ。
 つまらぬ見どころが無い女。
 そんな侮蔑の眼差しを彼は見せてきた。

 であればこそ予期はしていた。
 いや、確信していた。
 屋敷で昼夜なくこき使われていれば、自分が侍女たちほどにも愛されていないことは理解していた。
 こんな日は、間もなく訪れてくるはずだったのだ。
 ただ、その現実を受け入れられるかと言えばそれは違う。

「は、働きますのでっ!」

 ハルムから冷たい眼差しが向けられる。
 ヘルミナは胸元でぎゅっと両手を握りしめた上で声を絞り出す。

「こ、これまで以上にしっかりと働きますっ! 旦那様のためにこれまで以上に……で、ですからっ! それだけはどうかっ!」

 自分の結婚を、両親がどれだけ喜んでくれたか?

 離縁などされるわけにはいかなかった。
 両親を落胆させるわけにはいかなかった。
 ヘルミナは深々と頭を下げる。
 
 反応はすぐに返ってきた。

「……ふふ。はははは」

 思わず頭を上げる。
 
 ハルムは笑っていた。
 侮蔑の笑みをヘルミナに向けてきていた。
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