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2、無駄な抵抗

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「まったく馬鹿な女だな。用済みだと言ったのが聞こえなかったのか?」

 ハルムが嘲笑を向けてくる。
 当然のこと聞こえていた。
 理解もしていた。
 ヘルミナは青ざめた表情で頷く。

「は、はい。聞こえておりました。実家の財産のことでしょうか」

 ハルムはわざとらしく目を見張ってきた。

「おぉ、そうか。愚鈍な女であれば気づかないと思っていたがな」

 そんなわけが無かった。
 彼が自分を愛してはいない。
 それを理解していれば、察しがつかないはずが無かった。

 ヘルミナの生家は男爵位を持つ名家だ。
 
 資産もそれなりのものがあった。
 ハルムは、ヘルミナの夫という立場で幾度となく融資を求めてきた。
 商売の原資とするためだ。
 ハルムは「ふふふ」と笑い声をもらした。

「お蔭さまで役には立った。私の商才があってのことだが大成功だ。近々、伯爵位を買い取る目処も立った」

 ハルムは嫌らしく侮蔑の笑みを深める。

「であれば理解出来るな? お前にこの屋敷での居場所があると思うか?」

 首を左右にせざるを得ない問いかけだった。
 しかし、そう出来るはずも無い。
 
 ヘルミナの両親は、家が傾きかねない金額を喜んでハルムに融資した。
 それだけだ。
 それだけ彼らはヘルミナの結婚を喜んでいたのだ。
 ヘルミナは再び頭を下げる。

「お願いですっ! 私が役立たずであることは分かっています。ですが、離縁だけはどうか……っ!」

「無理だ。もう次が決まっているからな」

 ヘルミナは「え?」と呆然と声を上げた。

「つ、次……?」

「当たり前だ。私は伯爵として社交界にデビューするのだ。隣には、それにふさわしい相手が必要だろう?」

 ハルムはヘルミナに目を細めた上で「ふん」と鼻を鳴らした。

「安心しておけ。次は、もちろんお前のような女じゃない。血筋も容姿も性格も、全てが私にふさわしい相手だからな」

 ヘルミナは何も言えなかった。

 ここまで話が進んでいるとは思っていなかったのだ。
 どうしても離縁はされたくなかった。
 両親を落胆させたくは無かった。
 だが、この状況でどうすればいいのか?
 自分は何を口にすればいいのか?

 思いつくところは何も無かった。

 立ち尽くすヘルミナに対し、ハルムは扉を指差してくる。

「出口はそこだぞ。出ていけ。2度と私の前に姿を見せるな」

 ヘルミナにはそれに従う以外は無かった。
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