財産が無ければ不要と離縁されました。でも、そのおかげで大切な人と一緒になれました

甘海そら

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4、問いかけ

「私などのために、お気づかいいただきありがとうございます」

 いつものルクロイであれば、「いやいや」とでも愛嬌のある笑みを返してくれたところだった。
 だが、今日は違う。
 ルクロイは険しい表情のままだった。

「お答えいただきたい。あの男が新しく妻を迎えようとしているという噂は本当なのですか?」

 心配はさせたくは無かった。
 しかし、彼が屋敷に向かえばすぐに分かる話だ。
 ヘルミナは苦笑で頷いた。

「どうやらそのようです」

 ルクロイが見せたのは明確な怒りの表情だった。

「あの男は……っ!」

 足取り荒く屋敷へ向かおうとする。
 荒事の予感に思わず制止しようとしたが、その必要は無かった。
 不意に足を止めたルクロイは、「はぁ」と短い息をつく。

「……あの男より、今は貴女ですね」

 彼は同情の視線をヘルミナに向けてくる。

「ひどい目に会われましたね」

 その通りとは答えかねた。
 ヘルミナは再びの苦笑を浮かべる。

「どうなのでしょうか?」

「あー、それはあの、どういう意味で?」

「妻として私には価値が無かった。それだけの話にも思えますから」

 実家の財産にしか価値の無い女。
 そうであれば、当然の末路にも思えた。

「……貴女は、それを本気でおっしゃっているのか?」

 だが、ルクロイの反応はこれだった。
 ヘルミナは首をかしげる。

「あの、ルクロイ様?」

「妻として価値が無かった? あの男は商売には成功したようですがね。そこに、自身の貢献は無かったと本気でお思いで?」

 当然のことであれば、ヘルミナはおずおずと頷く。

「は、はい。多少の家事程度しか出来なければ、商売になんてそんな……」

 貢献なんてあるはずが無い。
 そのはずだった。
 しかし、ルクロイが見せてきたのは嘆かわしげなため息だった。

「はぁ。貴女は昔から自己評価にかなり怪しいところがあったが……」

「る、ルクロイ様?」

「あのですね、あの無神経で傲慢なバカにそんな商才があると思えますか? あの男に、商人たちと真っ当な信頼関係を築くことが出来るとでも?」

 ルクロイは呆れの視線をヘルミナに向けてくる。

「貴女ですよ。気遣いの人である貴女が側に控えているからこそ、あの男だって信頼を勝ち得ることが出来たのです。それ以外でなんであの男が成功出来るものか」

 身に覚えが無い話であれば、愛想笑いを浮かべ続けるしかなかった。
 ルクロイは視線にある呆れの雰囲気を濃くしてくる。

「やはりご自覚は無いか。学院時代からずっと貴女はそうだったでしょうに」

「が、学院時代から? え?」

 何の話かと不思議に思うヘルミナに、彼は腕組みで頷きを見せてくる。

「貴女は陰から人の和を作ることの達人だった。気が強ければ常に衝突が絶えなかったイブリナ嬢だって、貴女の働きで周囲と仲良くやれていた。ギネス、カシューの両名は覚えていますか?」

 もちろん覚えていれば、ヘルミナはすかさず頷きを見せる。

「は、はい。公爵家のご子息様方で」

「不仲で有名な二人でしたが、学院時代は並んでも穏やかなものだった。それも貴女でしょう? 貴女の気配りがあってこと、彼らはぶつかり合うこと無く学院生活を送ることが出来た」

 確かにだった。
 多少動いた覚えはあった。
 ルクロイが友人である彼らについて悩んでいるということで、日頃のお礼に何か出来ないのかと考えた結果だった。

 もちろん、大したことは出来なかった。
 彼らの不満を聞き、求められるままに意見を1つ2つ述べた程度だ。
 
「……あ、あのー、やはり何か誤解があるように思えますが」

 ヘルミナの反応に、ルクロイは再びのため息を見せてくる。

「はぁ。こちらの方こそ、何かしらの誤解ないし思い違いがあるように思えて仕方がありませんが……それよりもです」

 不意に、ルクロイは目つきを鋭くした。

「お聞きしたいことがあります。ヘルミナ殿はこれからどうされるつもりで?」

 ヘルミナは即答は出来なかった。
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