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12、終わり
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「ではな、頼んだぞ。その件もお前が関与してあったことにする。隣国の王の態度が気に入らなかったとして、お前が口を出したことにしてくれ」
もはや返す言葉など無かった。
ただ、他の家族たちにはあったらしい。
いつの間にか近づいていた兄が、メアリの肩から父の手を払った。
「陛下、止めて下さいっ! メアリにそのようなことを押し付けないでいただきたいっ!」
メアリはわずかに目を見張ることになった。
まさか、今さら兄は家族愛にでも芽生えたのだろうか?
案の定違うらしい。
兄は父に対して叫びかける。
「さすがに話が大きすぎれば、メアリを処刑にという話も出てきます!! それでは今後、メアリを我々のために働かせることが出来ないではありませんか!?」
妹も同感のようだった。
「そうですよ! 姉様が処刑でもされたら、今後頼みたいことが出来た時にどうするんですか!?」
母もそうらしい。
「そ、その通りです! メアリにはもっと役に立ってもらわないと困るんです!」
感情が死ぬ。
その実感をメアリは味わうことになった。
(死なせてくれればいいのに)
残念ながら、そうはいかないようだった。
父も彼らの言い分に心を動かされているらしい。
確かになどと、納得の呟きをもらしている。
死ぬまで彼らに便利に使い潰される。
それが自分に違いなかった。
メアリ・ブラントという女の人生に違いなかった。
(助けてよ……)
思わず願ってしまう。
昨日の経験があればそうだった。
彼に守られた。
その経験があれば夢を見てしまうのだ。
どうか助けて欲しい。
この地獄から救い出して欲しい。
願った。
強く願った。
そして、
「陛下っ!!」
扉が開く。
振り返る。
目を大きく見開くことになる。
キシオンがいた。
彼は背後に貴族らしき多くの男性を引き連れていた。
その目つきは鋭い。
父を剣呑ににらみつけている。
「な、なんだ貴様らは!? 挨拶もせずに踏み入ってくるとは無礼であるぞ!!」
咄嗟に叫んだ様子の父に対し、キシオンは静かに首を左右にする。
「申し訳ありませんが、陛下。そのようなことを気にしておられる場合ではありません」
「な、何?」
「城下で陛下についての噂が流れていましてな。陛下はご存知でしょうか?」
父は見事に表情を青ざめさせた。
「そ、それでか!? 貴様らは、それでワシを非難しに来おったか!?」
「いえ、もちろんそのような話ではありません」
父は「へ?」と目を丸くした。
キシオンは視線を移す。
メアリへと憎悪の視線を向けてくる。
「……あの聡明な陛下がそのようなことをするはずがない。我々家臣は皆、黒幕はメアリ様と確信しております。陛下っ!」
「な、なんだ?」
「家族への親愛の情はあるでしょうが、ここまでです。これ以上メアリ様を野放しにすれば、その時は王家の存亡に関わるものになりましょう」
キシオンは目を細めてメアリをにらみつけてきた。
「メアリ・ブラント……悪女の処刑。もはやこれ以外はありません。陛下、ご決断を」
王家の存亡に関わる。
この一言が効いたようだった。
兄も妹も母も何も言わなかった。
父は「う、うむ」と頷きを見せた。
「そ、そうか、それは残念であるが……認めよう。仕方がなければな、うむ」
キシオンは父に頷きを見せる。
そして、再びメアリに冷たい視線を向けてくる。
「そういうことだ。メアリ・ブラント。貴様のその罪、死をもってあがなってもらうぞ」
メアリは膝からその場に崩れ落ちた。
指輪ごとに左手を握りしめる。
その手を額に当てれば、肩を震わせる。
(……ありがとう。本当にありがとう……本当に……)
◆
3日後。
家臣及び国民の感情をかんがみ、刑は迅速に執行された。
執行者は法務卿、キシオン・シュラネス。
城下の広場を舞台にしての絞首刑だった。
ただ、城下に集まった者たちはメアリ・ブラントの苦悶の表情を目の当たりにすることは出来なかった。
牢にて無様にも暴れ、看守とのもみ合いの内に命を落としたのだ。
結果、彼女の死体が絞首台に吊るされることになった。
多くの者は悪女の末路にしては優しすぎると惜しんだが、同時に喜びの声も惜しまなかった。
広場は祝いの場となった。
肉が腐り落ちるほどの時が過ぎても、それは変わらない。
広場では多くの者が酒盃を交わし、悪女の死と来たるべきこの国の平穏を祝ったのだった。
もはや返す言葉など無かった。
ただ、他の家族たちにはあったらしい。
いつの間にか近づいていた兄が、メアリの肩から父の手を払った。
「陛下、止めて下さいっ! メアリにそのようなことを押し付けないでいただきたいっ!」
メアリはわずかに目を見張ることになった。
まさか、今さら兄は家族愛にでも芽生えたのだろうか?
案の定違うらしい。
兄は父に対して叫びかける。
「さすがに話が大きすぎれば、メアリを処刑にという話も出てきます!! それでは今後、メアリを我々のために働かせることが出来ないではありませんか!?」
妹も同感のようだった。
「そうですよ! 姉様が処刑でもされたら、今後頼みたいことが出来た時にどうするんですか!?」
母もそうらしい。
「そ、その通りです! メアリにはもっと役に立ってもらわないと困るんです!」
感情が死ぬ。
その実感をメアリは味わうことになった。
(死なせてくれればいいのに)
残念ながら、そうはいかないようだった。
父も彼らの言い分に心を動かされているらしい。
確かになどと、納得の呟きをもらしている。
死ぬまで彼らに便利に使い潰される。
それが自分に違いなかった。
メアリ・ブラントという女の人生に違いなかった。
(助けてよ……)
思わず願ってしまう。
昨日の経験があればそうだった。
彼に守られた。
その経験があれば夢を見てしまうのだ。
どうか助けて欲しい。
この地獄から救い出して欲しい。
願った。
強く願った。
そして、
「陛下っ!!」
扉が開く。
振り返る。
目を大きく見開くことになる。
キシオンがいた。
彼は背後に貴族らしき多くの男性を引き連れていた。
その目つきは鋭い。
父を剣呑ににらみつけている。
「な、なんだ貴様らは!? 挨拶もせずに踏み入ってくるとは無礼であるぞ!!」
咄嗟に叫んだ様子の父に対し、キシオンは静かに首を左右にする。
「申し訳ありませんが、陛下。そのようなことを気にしておられる場合ではありません」
「な、何?」
「城下で陛下についての噂が流れていましてな。陛下はご存知でしょうか?」
父は見事に表情を青ざめさせた。
「そ、それでか!? 貴様らは、それでワシを非難しに来おったか!?」
「いえ、もちろんそのような話ではありません」
父は「へ?」と目を丸くした。
キシオンは視線を移す。
メアリへと憎悪の視線を向けてくる。
「……あの聡明な陛下がそのようなことをするはずがない。我々家臣は皆、黒幕はメアリ様と確信しております。陛下っ!」
「な、なんだ?」
「家族への親愛の情はあるでしょうが、ここまでです。これ以上メアリ様を野放しにすれば、その時は王家の存亡に関わるものになりましょう」
キシオンは目を細めてメアリをにらみつけてきた。
「メアリ・ブラント……悪女の処刑。もはやこれ以外はありません。陛下、ご決断を」
王家の存亡に関わる。
この一言が効いたようだった。
兄も妹も母も何も言わなかった。
父は「う、うむ」と頷きを見せた。
「そ、そうか、それは残念であるが……認めよう。仕方がなければな、うむ」
キシオンは父に頷きを見せる。
そして、再びメアリに冷たい視線を向けてくる。
「そういうことだ。メアリ・ブラント。貴様のその罪、死をもってあがなってもらうぞ」
メアリは膝からその場に崩れ落ちた。
指輪ごとに左手を握りしめる。
その手を額に当てれば、肩を震わせる。
(……ありがとう。本当にありがとう……本当に……)
◆
3日後。
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城下の広場を舞台にしての絞首刑だった。
ただ、城下に集まった者たちはメアリ・ブラントの苦悶の表情を目の当たりにすることは出来なかった。
牢にて無様にも暴れ、看守とのもみ合いの内に命を落としたのだ。
結果、彼女の死体が絞首台に吊るされることになった。
多くの者は悪女の末路にしては優しすぎると惜しんだが、同時に喜びの声も惜しまなかった。
広場は祝いの場となった。
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