3 / 6
3、せっかくの思いつき
「しかし、参ったなぁ」
王家の人間では無くなったが、まぁ今日ぐらいはいいだろう。
そんな気持ちでリディアは王宮の応接室の1つにお邪魔していた。
お茶会が王宮でのものであれば、休憩するためにはここが一番近場だったのだ。
まだ離縁の件は伝わっていなかったと見えて、紅茶をご馳走しても貰えた。
リディアはそれに舌鼓を売って、「ふはぁ」などと息をついているのだが、
「……あー、なんだ? スミア? その目は一体?」
この場には同席者がいた。
実際は席には着いていない。
壁際に立って侍女のように控えているが、事実リディアの侍女である。
「……リディア様」
年の頃は同じであるはずなのだが、随分と貫禄があれば人を圧するに足る呼び声だった。
リディアは思わずカップをかたむける手を止める。
「だ、だからどうした? 目つきも怖けれれば、口調も剣呑だが……ほ、ほら? 紅茶はお前の分もあるんだぞ? 一緒に席に着いて、こうして落ち着いて……って、ひぃ!?」
悲鳴の原因はといえば、瞬く間に近づいてきたスミアが机をバンっ!! と両手で叩いてきたからだ。
「リディア様っ!!」
「だ、だから怖いぞ! ど、どうした? お前はなんでそんな怖い目を……」
「これが紅茶をいただいて落ち着いていられる状況ですかっ!! ひどい侮辱ですっ!! 衆人の前であのような真似を……っ!!」
どうやら自分が怒られているわけでは無いらしい。
リディアはスミアに笑みを向ける。
「あー、そうか。スミアは私のために怒ってくれているわけか?」
「当然ですっ! 皇太子ともあろう者がなんたる品の無さっ! がさつだの、大女だの男女だの!」
「ははは、そうだな。アレははひどかった。まぁ、事実と言えば事実ではあるが」
リディアは自身を淑女であるなどとは思っていなかった。
人並外れた長身はともかくとして、問題は中身だ。
獅子の血脈たる、ヴィクトル公爵家の長女。
そうなれば、リディアが受けてきたのは一般的な貴族の女性としての教育ではなかった。
剣はもとより、弓も馬も十分以上の鍛錬を積まされてきた。
戦場の砦で、10日も20日も過ごしたこともあった。
いざとなれば、戦場に立って十分に戦える女性。
そうあれかしとリディアは育てられたのだ。
同じ年頃の女性よりも、ヴィクトル公爵家の勇士たちと過ごした時間の方がはるかに長い。
となれば、言葉遣いも立ち振る舞いも、世で言う女性らしさからははるかに遠いものになっているのだった。
「正直、多少同情はしたな。私みたいな女を妻にしたい殿方はいないだろうからなぁ」
しみじみと頷くことになったが、この態度はスミアにとっては好ましいものでは無かったらしい。
「また、バカなことを。それは、リディア様の魅力を理解しない世の殿方たちがバカなだけです」
「ははは、そうかな? ちょっと私に対する身内びいきがひどくないか?」
「そんなことはありません。現に、あの近衛騎士団長殿もリディア様を慕っておられ……あ。も、申し訳ありません」
彼女の謝罪の理由は当然分かった。
リディアは苦笑を浮かべることになったが、そうなるであろう言葉を彼女は口にしたのだ。
近衛騎士団長。
幼馴染だった。
屋敷が近所にあれば、10にも満たない年頃から共に過ごしてきた仲だ。
そして、王家との婚約に際して、とある思いを忘れる必要があった相手であり……
「あ」
1つ気づくことがあったのだ。
不思議そうに首をかしげてくるスミアに、リディアはニヤリと笑みを向ける。
「なぁ、スミア? 私は婚約の破棄を申し渡されたんだよな?」
「腹立たしいことですが、はい。あのバカ皇子が、無礼かつ状況を理解しない頭の出来を見せつけてきた格好で」
「うん、そうだったな。それで、だ。私とあの男の復縁などあり得ると思うか?」
スミアは不快そうに首を左右にしてきた。
「まさか。向こうにその気が無ければ、我らの旦那さまだって同じでしょう。リディア様がかような侮辱を受けて、まさか復縁を承知されるなどとは」
「だな? であれば、私は自由。そういうことだな?」
スミアはリディアの意図に気づいたようだった。
いぶかしげな視線を向けてくる。
「あのー……もしや?」
「ふふふ、そうだ。良いだろう? 私は自由なんだからな」
王家の人間では無くなったが、まぁ今日ぐらいはいいだろう。
そんな気持ちでリディアは王宮の応接室の1つにお邪魔していた。
お茶会が王宮でのものであれば、休憩するためにはここが一番近場だったのだ。
まだ離縁の件は伝わっていなかったと見えて、紅茶をご馳走しても貰えた。
リディアはそれに舌鼓を売って、「ふはぁ」などと息をついているのだが、
「……あー、なんだ? スミア? その目は一体?」
この場には同席者がいた。
実際は席には着いていない。
壁際に立って侍女のように控えているが、事実リディアの侍女である。
「……リディア様」
年の頃は同じであるはずなのだが、随分と貫禄があれば人を圧するに足る呼び声だった。
リディアは思わずカップをかたむける手を止める。
「だ、だからどうした? 目つきも怖けれれば、口調も剣呑だが……ほ、ほら? 紅茶はお前の分もあるんだぞ? 一緒に席に着いて、こうして落ち着いて……って、ひぃ!?」
悲鳴の原因はといえば、瞬く間に近づいてきたスミアが机をバンっ!! と両手で叩いてきたからだ。
「リディア様っ!!」
「だ、だから怖いぞ! ど、どうした? お前はなんでそんな怖い目を……」
「これが紅茶をいただいて落ち着いていられる状況ですかっ!! ひどい侮辱ですっ!! 衆人の前であのような真似を……っ!!」
どうやら自分が怒られているわけでは無いらしい。
リディアはスミアに笑みを向ける。
「あー、そうか。スミアは私のために怒ってくれているわけか?」
「当然ですっ! 皇太子ともあろう者がなんたる品の無さっ! がさつだの、大女だの男女だの!」
「ははは、そうだな。アレははひどかった。まぁ、事実と言えば事実ではあるが」
リディアは自身を淑女であるなどとは思っていなかった。
人並外れた長身はともかくとして、問題は中身だ。
獅子の血脈たる、ヴィクトル公爵家の長女。
そうなれば、リディアが受けてきたのは一般的な貴族の女性としての教育ではなかった。
剣はもとより、弓も馬も十分以上の鍛錬を積まされてきた。
戦場の砦で、10日も20日も過ごしたこともあった。
いざとなれば、戦場に立って十分に戦える女性。
そうあれかしとリディアは育てられたのだ。
同じ年頃の女性よりも、ヴィクトル公爵家の勇士たちと過ごした時間の方がはるかに長い。
となれば、言葉遣いも立ち振る舞いも、世で言う女性らしさからははるかに遠いものになっているのだった。
「正直、多少同情はしたな。私みたいな女を妻にしたい殿方はいないだろうからなぁ」
しみじみと頷くことになったが、この態度はスミアにとっては好ましいものでは無かったらしい。
「また、バカなことを。それは、リディア様の魅力を理解しない世の殿方たちがバカなだけです」
「ははは、そうかな? ちょっと私に対する身内びいきがひどくないか?」
「そんなことはありません。現に、あの近衛騎士団長殿もリディア様を慕っておられ……あ。も、申し訳ありません」
彼女の謝罪の理由は当然分かった。
リディアは苦笑を浮かべることになったが、そうなるであろう言葉を彼女は口にしたのだ。
近衛騎士団長。
幼馴染だった。
屋敷が近所にあれば、10にも満たない年頃から共に過ごしてきた仲だ。
そして、王家との婚約に際して、とある思いを忘れる必要があった相手であり……
「あ」
1つ気づくことがあったのだ。
不思議そうに首をかしげてくるスミアに、リディアはニヤリと笑みを向ける。
「なぁ、スミア? 私は婚約の破棄を申し渡されたんだよな?」
「腹立たしいことですが、はい。あのバカ皇子が、無礼かつ状況を理解しない頭の出来を見せつけてきた格好で」
「うん、そうだったな。それで、だ。私とあの男の復縁などあり得ると思うか?」
スミアは不快そうに首を左右にしてきた。
「まさか。向こうにその気が無ければ、我らの旦那さまだって同じでしょう。リディア様がかような侮辱を受けて、まさか復縁を承知されるなどとは」
「だな? であれば、私は自由。そういうことだな?」
スミアはリディアの意図に気づいたようだった。
いぶかしげな視線を向けてくる。
「あのー……もしや?」
「ふふふ、そうだ。良いだろう? 私は自由なんだからな」
あなたにおすすめの小説
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い
猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」
「婚約破棄…ですか」
「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」
「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」
「はぁ…」
なんと返したら良いのか。
私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。
そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。
理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。
もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。
それを律儀に信じてしまったというわけだ。
金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。