せっかく王家に婚約破棄されたので、好きな人に告白しようと思いましたが……え、彼が王家の隠し子? やっぱり私が王妃?

甘海そら

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3、せっかくの思いつき

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「しかし、参ったなぁ」

 王家の人間では無くなったが、まぁ今日ぐらいはいいだろう。
 そんな気持ちでリディアは王宮の応接室の1つにお邪魔していた。
 お茶会が王宮でのものであれば、休憩するためにはここが一番近場だったのだ。

 まだ離縁の件は伝わっていなかったと見えて、紅茶をご馳走しても貰えた。
 リディアはそれに舌鼓を売って、「ふはぁ」などと息をついているのだが、

「……あー、なんだ? スミア? その目は一体?」

 この場には同席者がいた。
 実際は席には着いていない。
 壁際に立って侍女のように控えているが、事実リディアの侍女である。

「……リディア様」

 年の頃は同じであるはずなのだが、随分と貫禄があれば人を圧するに足る呼び声だった。
 リディアは思わずカップをかたむける手を止める。

「だ、だからどうした? 目つきも怖けれれば、口調も剣呑だが……ほ、ほら? 紅茶はお前の分もあるんだぞ? 一緒に席に着いて、こうして落ち着いて……って、ひぃ!?」

 悲鳴の原因はといえば、瞬く間に近づいてきたスミアが机をバンっ!! と両手で叩いてきたからだ。

「リディア様っ!!」

「だ、だから怖いぞ! ど、どうした? お前はなんでそんな怖い目を……」

「これが紅茶をいただいて落ち着いていられる状況ですかっ!! ひどい侮辱ですっ!! 衆人の前であのような真似を……っ!!」

 どうやら自分が怒られているわけでは無いらしい。
 リディアはスミアに笑みを向ける。

「あー、そうか。スミアは私のために怒ってくれているわけか?」

「当然ですっ! 皇太子ともあろう者がなんたる品の無さっ! がさつだの、大女だのおとこ女だの!」

「ははは、そうだな。アレははひどかった。まぁ、事実と言えば事実ではあるが」

 リディアは自身を淑女であるなどとは思っていなかった。

 人並外れた長身はともかくとして、問題は中身だ。
 獅子の血脈たる、ヴィクトル公爵家の長女。
 そうなれば、リディアが受けてきたのは一般的な貴族の女性としての教育ではなかった。

 剣はもとより、弓も馬も十分以上の鍛錬を積まされてきた。
 戦場の砦で、10日も20日も過ごしたこともあった。

 いざとなれば、戦場に立って十分に戦える女性。

 そうあれかしとリディアは育てられたのだ。
 同じ年頃の女性よりも、ヴィクトル公爵家の勇士たちと過ごした時間の方がはるかに長い。
 となれば、言葉遣いも立ち振る舞いも、世で言う女性らしさからははるかに遠いものになっているのだった。

「正直、多少同情はしたな。私みたいな女を妻にしたい殿方はいないだろうからなぁ」

 しみじみと頷くことになったが、この態度はスミアにとっては好ましいものでは無かったらしい。

「また、バカなことを。それは、リディア様の魅力を理解しない世の殿方たちがバカなだけです」

「ははは、そうかな? ちょっと私に対する身内びいきがひどくないか?」

「そんなことはありません。現に、あの近衛騎士団長殿もリディア様をしたっておられ……あ。も、申し訳ありません」

 彼女の謝罪の理由は当然分かった。
 リディアは苦笑を浮かべることになったが、そうなるであろう言葉を彼女は口にしたのだ。

 近衛騎士団長。
 幼馴染だった。
 屋敷が近所にあれば、10にも満たない年頃から共に過ごしてきた仲だ。
 そして、王家との婚約に際して、とある思いを忘れる必要があった相手であり……

「あ」

 1つ気づくことがあったのだ。
 不思議そうに首をかしげてくるスミアに、リディアはニヤリと笑みを向ける。

「なぁ、スミア? 私は婚約の破棄を申し渡されたんだよな?」

「腹立たしいことですが、はい。あのバカ皇子が、無礼かつ状況を理解しない頭の出来を見せつけてきた格好で」

「うん、そうだったな。それで、だ。私とあの男の復縁などあり得ると思うか?」

 スミアは不快そうに首を左右にしてきた。

「まさか。向こうにその気が無ければ、我らの旦那さまだって同じでしょう。リディア様がかような侮辱を受けて、まさか復縁を承知されるなどとは」

「だな? であれば、私は自由。そういうことだな?」

 スミアはリディアの意図に気づいたようだった。
 いぶかしげな視線を向けてくる。

「あのー……もしや?」

「ふふふ、そうだ。良いだろう? 私は自由なんだからな」
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