せっかく王家に婚約破棄されたので、好きな人に告白しようと思いましたが……え、彼が王家の隠し子? やっぱり私が王妃?

甘海そら

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4、いざ砦へ

 自身は淑女では無い。

 そう自認するリディアは、しかし自身は乙女ではあるという点には自信満々だった。

 なにせ10年だ。
 10年間1人の相手を思い続けているのだ。
 そして今、いよいよ積年の恋路に進展が見えようとしているのだが、
 
「……はぁ。私はどうかと思いますけどねぇ」

 揺れる馬車の中に呆れの声が響く。
 それは対面に座るスミアのものだった。
 リディアは首をかしげることになる。
 どうにもだ。
 幼馴染であり無二の親友である彼女は、自身の恋路に賛成というわけではなさそうだが、

「あー、スミア? 何と言うか、応援はしてくれない感じか?」

 問いかければ、返ってきたのは頷きだ。

「そりゃそうですよ。あの方の身分についてはもちろんご存知ですよね?」

「ジオール伯爵家の三男殿だな」

「そうです。騎士団長とあれど、身分に差がありすぎます。身分違いの恋はたいてい悲劇がつきものでしょうに」

「ははは。確かにそうは聞くが、気にする必要は無いだろうさ。なにせ、そこまで身分は違わなくてもだぞ? 先ほどの茶会でああだったからな?」

「特殊な例過ぎれば何の参考にもなりませんから。とにかく不釣り合いです。どうです? 考え直されてはいかがですか?」

 スミアは懸念の表情で問いかけてきた。
 長い付き合いなのだ。
 そこにあるのは純粋な自身への心配だとはよく分かった。
 ただ、リディアはそれに首を左右にする。

「いや、それは出来ない。10年思ってのようやくの今日の機会だ。ちょっと見逃せないな」

「それは承知していますが、でも、この時期ですよ? あの皇子のせいで、この国はつかみかけた平穏を手放すことになるでしょう。なにも、こんな時期に告白などされなくても」

 この懸念も大いに理解は出来た。
 しかし、これにもリディアなりの言い分があった。

「いや、むしろこの時期だからだろう。アイツは騎士団長殿で、私はと言えば獅子の血脈の娘だ。戦乱ともなれば、お互い平穏無事どころの話じゃないだろうさ」

「お互いの身に何か起こる前に……でしょうか?」

「そういうことだ。いざという時に後悔しないようにな」

 この言い分にはそれなりに説得力があったらしい。
 スミアはひかえめにだが頷きを見せてくる。
 
「それはまぁ、そうかもしれません。でしたら、せめてです。まずご当主殿に相談されては?」

 確かにである。
 今は反乱の後始末で王都にいない父親だが、まず彼に相談するのが貴族の娘としての筋ではあった。
 ただ、リディアは眉をひそめて首を再び横にする。

「お父上にか? いや、それは嫌だ」

「何故です?」

「断られるのが怖いから。だから嫌だ」

「はぁ。子供みたいにまったく……分かりました。もう好きにして下さい」

 消極的な賛同が得られたところで、そろそろだった。
 揺れが止まる。
 目的地に着いたということであれば、早速リディアは馬車から下りた。

「ふーむ。相変わらず立派な所だな」

 思わず感嘆を呟くことになる。
 目の前にあるのは、王都の郊外にある砦だった。
 ただ、それが王国第一等の近衛騎士団のものとなれば、国境にあるような無骨な代物とはかなり趣を異にしている。

 まるで小さな王城だ。

 四方にめぐらされた城壁は精緻な彫刻で飾られ、深い水堀では近くの川から引かれた清流が静かな煌めきを見せている。

 リディアは何ともなしに誇らしくなるのだった。

 この場所の主なのだ。

 自身の幼馴染にして想い人は、この豪奢な砦の若主わかあるじ様なのだ。

(……しかしまぁ、うーん)

 リディアは眉をひそめることになる。
 果たして、自分はこの主に相応しい人物であるのだろうか?
 そんなことが疑問であり不安に思えたのだ。

 ただである。
 リディアは気にしないことにして歩き出した。
 そんなことは自身が気にするべきことでは無い。
 向こうが決めるべきことであれば、まず思いを伝えなければ話にならない。

 スミアと共に砦に向かう。
 すると、出迎えがあった。
 壮年の男性が、慌てた様子で砦からこちらに駆け寄ってくる。
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