せっかく王家に婚約破棄されたので、好きな人に告白しようと思いましたが……え、彼が王家の隠し子? やっぱり私が王妃?

甘海そら

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5、騎士団長について

「おぉ、姫様! 姫様ではありませんかっ!」

 壮年の男性が歓声を上げたが、その姫様とはリディアのことだ。

 ヴィクトル公爵家はもとより、その一族一門もまた武勇に秀でている。
 数多の有能な騎士団員を輩出しているのだが、彼もまた一門の出身であるのだ。

「久しいな。どうだ? 先の戦では存分に活躍したのか?」

 リディアが笑顔で応じれば、男性はニヤリとして分厚い胸を叩いた。

「もちろんのことで! 私とて、獅子の血脈の端くれ。ヴィクトル公爵家の一門衆として、恥ずかしくない働きをさせていただきました」

「ははは、よしよし。それでこそ我らが同胞だ」

「もったいなきお言葉。しかし……姫様? どうされたので? その格好は一体?」

 あぁ、とリディアは頷く。
 いざという時には戦場に立つことの出来る女性。
 その教育の一環として、リディアは普段から長い丈のドレスをまとうようなことは無かった。

 貴族の男性そのままに、動きやすいズボン姿であるのが常だった。
 ただ、今日は優雅な茶会の場であれば、髪を綺麗に結い上げた上で、華麗な藍色のドレスをまとっている。

「ふふふ、どうだ? なかなか目に楽しい格好をしているだろう? 似合うか?」

 リディアは笑みでスカートをつまんで見せる。
 もちろんのこと自身の姿を鏡で確認してあったのだが、かなりのものであると自信があったのだ。
 であればこそ、着替えることなく砦を訪れたのであり、当然壮年の男性も褒めてくれるものだと信じていた。しかし、

「……はははは。いや、うーん。そうですなぁ」

 男性は困ったように視線を泳がしたのだった。

「おい、なんだその反応は。綺麗だろ? そうだろ?」

「……えぇ、もちろん」

「さすがに分かるぞ? お前が何を言いたいのか理解出来るぞ? なんだ、見る目の無いヤツだな。スミア? これ、綺麗だよな?」

 代わりに自らの腹心の侍女に同意を求めたのだった。
 着替えを手伝ってくれたのは彼女だが、その時からお似合いですと言ってくれていた。
 まさか否定の言葉は無い。
 そのはずだった。だが、

「…………」

「スミア?」

「……まぁ、正直なところです。やはり衣装は人を選ぶと申しますか」

 これに男性が腕組みで頷きを見せてくる。

「そうですな。正直なところ、なにか違和感が」

「歩き方をはじめ、振る舞いは完全に男性ですからね」

 そうして2人は同時に頷きを見せる。
 なんとも腹の立つふるまいであれば、リディアは当然怒声だった。

「な、なんなんだお前らは! 本当、失敬な連中だな!」

「その言葉遣いもまたアレですが、リディア様。本題に行きましょう、本題に」

 スミアの進言に「あぁ」だった。
 砦を訪れたのは、こうして晴れ姿をバカにされるためでは無かったのだ。

「騎士団長殿にお会いしに参ったのだがな。今は砦にいらっしゃるのか?」

 少しばかり緊張を思い出しながらに問いかける。
 男性は「なるほど」と笑顔で頷いた。

「久方ぶりにお会いしに来て下さったのですか。皇太子様と婚約されて以来ですかな?」

 この時期に他の男性と会うのはマズイだろう。
 そんな判断があれば彼を訪ねる機会は無かったのだ。

(まぁ、一ヶ月前の話でしかないんだけどな)

 それまでは毎週のように訪れていればこそ、久方ぶりという感想にもなったのだろう。
 
「しかし、よろしいことですな。どうやら皇太子様は器の大きいお方のようで」

 そして彼は、今回の来訪をそう捉えたようだった。
 器が大きければ、男性でも友人であればと皇太子が会う許しを出した、と。

(……器なぁ?)

 そんな言葉とは一番遠そうだなアイツなど思いつつ、それはともあれだった。

「案内してもらってもいいかな?」

「勝手知ったる砦でしょうが、はい、もちろん」

 中に案内してもらえば、馴染みの光景が目に入る。
 一転して、質実剛健だった。
 飾り気の無い、石畳の廊下が続いている。

「しかし……良かれ悪かれですかなぁ」

 廊下を進みながら、だ。
 男性がそんな呟きをもらせば、リディアは首をかしげることになる。

「なんだ? 良かれ悪かれ?」

「この一ヶ月ですが、団長殿はふさぎこんでおられるのです」

 初耳だった。
 リディアは目を丸くすることになる。

「そうなのか? アイツ、調子を崩していたのか?」

「えぇ。リディア様の婚約が発表されてからですな。立ち直っていただきたいところですが、リディア様に会われることがどう響くのやらで」
 
 リディアは男性を見つめる。
 彼は苦笑であれば、それほど深刻な話では無いようだが。

「私が婚約を発表した頃となれば、夏の終わりぐらいだが……夏風邪でもこじらせていると、そういうことか?」

「……は?」

「だとしたら、しっかりと私も配慮するからな。体調を悪化させるような真似はしないから心配するな」

 告白は端的に行う必要があるだろう。
 そうリディアは内心で頷くことになるが、

「あー、なんだ? その表情は何だ?」

 同時に不思議の思いで男性を見つめることになる。
 
 彼は何故だか呆れの強い表情でリディアを見つめてきていた。

「どうにもあー……理解されていないご様子ですかな?」

「理解? だから、体調を崩しているんだろう? 夏風邪とは違ったか?」

「……うーむ」

 男性はスミアに助けを求めるような目配せをした。
 スミアはさもありなんとばかりに納得の雰囲気の頷きを見せる。

「こういう方ですから。なので、リディア様。1つ進言させていただきます」

「な、なんだ?」

「止めませんか? きっとリディア様はこういうの向いてませんから」

「な、なんだそれは!? 向いてないってなんだ! ここまで来て止めるもんか、まったく!」

 事情を知らない男性は首をかしげているが、リディアはかまわず目的地に歩を進める。

 向いてないだか何だか知らないが、ここまで来て止める選択肢は無いのだ。

 ほどなくして目的地にたどり着く。
 立派な装飾の扉を目の前にして、リディアは男性、スミアと目線を向ける。

「ではな、2人は遠慮してもらっても良いか?」

 スミアが仕方ないと頷けば、男性もまたよく分からないがといった雰囲気で頷きを見せる。

 では、いよいよだ。

 リディアは騎士団長がいるであろう書斎の扉を二度、三度と叩く。

「あー、ごほん。リディア・オスニールだ! 団長殿はいらっしゃるか?」
 
 わずかに緊張を覚えつつ問いかける。
 反応はすぐにだった。
 足音が扉越しに勢いよく近づいてきた。
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