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第一章

38.隣で食べる手作り弁当 ③

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「何書いてんだよ……」
「矢神さんの好きなものリストです。他には?」
「そんなことメモるなよ……」
「重要です!」
「それより明後日の出勤時間メモしておけよ。普段より早いんだから、また前みたいに遅刻するぞ」
「あれ? 出勤時間早いんですか?」

 今朝言われたばかりだというのに、聞いていないというようにぽかんとした表情をした。

「だから、それをメモしろ!」
「わかりました。それもメモしましたから、他の好きなもの言ってください」

 矢神の言うことは適当に流され、質問の答えを早く早くと急かされる。

「あ? 他? えーと、ミートボールかな」

 今食べたいものを思い浮かべて言葉にした。すると、遠野は復唱しながら少し笑っていた。それが馬鹿にしているように思えて癪に障る。

「笑うな! ホント腹立つな! もういいから、さっさと弁当食べろ」
「はーい」

 軽く返事をする遠野が、更に矢神の怒りを買うのだった。

「あら、二人ともお弁当なのね」

 そこに校長がにこやかな顔でやってきた。遠野は笑顔ですぐ答える。

「節約です」
「節約は大事よね。私も明日からお弁当にしようかしら」
「オレ、作ってきましょうか?」
「ありがとう。でも、遠野先生の負担を増やしては申し訳ないので大丈夫よ」

 校長の分まで作ろうと考える遠野に、矢神は大物だと半ば呆れていた。

「矢神先生」
「え、はい」

 不意に校長が自分の名前を呼んだので、驚いたような声が出てしまった。

「今日の放課後、少しお時間よろしいかしら」
「大丈夫です」
「では、授業が終わったら校長室に来てください」
「わかりました」

 校長は終始笑顔だったが、なぜ呼び出されたのかいまいちわからなかった。
 どんな時も優しくて穏やかな人だから、本心がわからない時がある。そういうところが恐ろしいと言う人もいた。

「珍しいですね」

 遠野が深刻そうな顔をして耳打ちしてきた。

「何が?」
「矢神先生がお説教だなんて。頑張って耐えてください」
「何で説教限定なんだよ!」
「違うんですか?」
「おまえと一緒にするな」

 遠野の二の腕をグーで叩けば、痛いですと泣きそうな声を上げた。
 怒られるようなことは何もしていないはず。
 そうは思っていても、内心気が気じゃなかった。
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