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第一章

40.進む道の迷い、後輩の声 ②

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「それで、後任を榊原先生と相談していたんですけど」
「はい」
「矢神先生にお願いしたいんです」
「……え、私、ですか?」

 榊原先生の話から突然自分の話題になったので、内容を理解するのに少し時間がかかった。

「榊原先生のご指名です。私も、矢神先生にお願いしたいと思ってました」

 校長はたいした話ではないと言っていたが、十分にたいしたことある内容だ。

「ですが、私に担任が務まるかどうか……」

 膝の上で拳を握った。喜ばしいことのはずなのに、素直に喜べない。

「もしかして矢神先生、今回担任を外されたと思っていましたか?」
「……はい」
「確かに彼のことは少し騒ぎになってしまいましたが、矢神先生は頑張ってくださいました。今回担任にしなかったのは、お疲れのご様子だったので、一年は休んでいただこうという考えでした。 ですが、榊原先生が辞められるとなると話は変わってきます」

 優秀な教師の後任に抜擢されるなんて信頼されている証拠。だが、それが返ってプレッシャーになっていた。
 榊原先生だったから、今の二年A組がある。自分が担任になれば、何ができるのか、どうなるのか、まるで想像がつかない。今まで榊原先生が築き上げてきたものを自分が全て壊してしまうんじゃないか。
 そんな不安の方が大きかった。

「少し、考えさせてもらってもいいですか?」
「いいお返事を期待しています」

 矢神の返事を待っているとはいえ、校長が既に決めている以上、断わることは皆無だ。受けるのが当然のことだろう。

 迷うことはない――昔の自分なら。

 今は違った。また退学者を出してしまったらどうしようと頭の中で木霊する。恐いのだ。自分のせいで他人の人生が変わる。そういう位置に自分はいるということを改めて実感していた。

 だから、なるべく生徒から遠いところにいたい。そう願ってしまう。
 ただ現実から逃げているだけなのはわかっていた。これでは、教育者失格だ。
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