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第一章
38、もどかしい順番
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(やっと、デザートだ……)
物心付いてから前菜、メイン、デザートの流れは何度も経験しているが、今日ほどこの工程をまどろっこしく思ったことはない。
遠征中の食事なんて、身体を酷使していても毎回粗末なものだ。
それに慣れているから、朝、昼ときちんと食べていれば、夕食をシンプルにしても自分はなんともない。
けれどエレオノーラは食が細いから、きちんと毎食食べてもらわないと、瞬く間に痩せ細って貧血にもなりそうだ。
「私をルドのものにして下さいね……?」
そう言った今朝のエレオノーラは、羞恥で赤く染まり、自分がした執拗なキスのせいで唇も瞳も潤んで、男を欲情の沼に突き堕とす、無意識に手練れな天使だった。
日中、無表情に仕事をこなしながらも、エレオノーラのつやつやした肌の感触や、うなじの甘い香り、心地よい声を何度も思い出した。
正直、仕事を終えて夕食を取らずにそのままエレオノーラを寝室に閉じ込めたかった。
目の前で、これから起こる事を思ってか、いつもより視線を合わせてくれないエレオノーラがデザートのケーキにフォークを差す。
ルートヴィッヒは甘いものは滅多に食べないので、エレオノーラがデザートを食べている時は食後酒を嗜むことが多い。
自分なら2口で終わるケーキをエレオノーラは小さな口で少しずつ堪能している。
(この唇でいつか俺のを──)
ルートヴィッヒは無垢なエレオノーラを前に自分がヒドい妄想をしているのに気付いて愕然とする。
(今日は絶対に、最初から最後まで紳士的に優しくしなければ。エレオノーラの初めての夜なのだから……)
ルートヴィッヒはしどけない妄想の合間に朝から幾度となく自分に言い聞かせた言葉を呪文の様に繰り返した。
やっといつも通りの、体感は100倍の長さの夕食が終わった。
「ルド、私、その……湯浴みをしてまいりますので、寝室でお待ちいただけますか?」
「分かった」
食堂を出て夫婦の寝室の前で一度別れた。
エレオノーラと結婚してから何度も開いたこの扉が、今日は開けたら何だか違う世界に繋がっているような気がする。
アラベスクの刻まれた扉を開けて、毛足の長い絨毯を踏み進み、暖炉の中に薪を数本くべながら、ルートヴィッヒは自嘲した。
14歳になった時に初めて父から女性をあてがわれてから、今まで何人もの女性を抱いた。
己の性欲のせいで敵国につけ込まれないように、定期的に女性を抱くのは、国境を統治するフェルデン家の跡継ぎに生まれた者にとっては殆ど義務のようなものだった。
最初こそ興奮したり、緊張したり、快楽に溺れたりしたが、すぐに慣れてしまい、次第に女性に身体を開かせる自分に心底嫌気が差した。
相手の女性に失礼な態度も取りたくなかったけれど、優しくすれば相手に勘違いさせてしまう。
2日置きだったのが4日、5日置きとなり、エレオノーラと知り合う頃には十日に一度、お互いに割り切った関係でいられる女性と過ごす程度だった。
コンコンと控えめな音がして、寝室の壁にある扉が開く。
現れたエレオノーラはガウンの下に精緻なレースが胸元と裾にあしらわれた純白の薄いナイトドレスを着ていた。
長い髪はふんわりと左側にまとめられて、白いうなじがガウンの襟からのぞいている。
「お待たせ、しました……」
物心付いてから前菜、メイン、デザートの流れは何度も経験しているが、今日ほどこの工程をまどろっこしく思ったことはない。
遠征中の食事なんて、身体を酷使していても毎回粗末なものだ。
それに慣れているから、朝、昼ときちんと食べていれば、夕食をシンプルにしても自分はなんともない。
けれどエレオノーラは食が細いから、きちんと毎食食べてもらわないと、瞬く間に痩せ細って貧血にもなりそうだ。
「私をルドのものにして下さいね……?」
そう言った今朝のエレオノーラは、羞恥で赤く染まり、自分がした執拗なキスのせいで唇も瞳も潤んで、男を欲情の沼に突き堕とす、無意識に手練れな天使だった。
日中、無表情に仕事をこなしながらも、エレオノーラのつやつやした肌の感触や、うなじの甘い香り、心地よい声を何度も思い出した。
正直、仕事を終えて夕食を取らずにそのままエレオノーラを寝室に閉じ込めたかった。
目の前で、これから起こる事を思ってか、いつもより視線を合わせてくれないエレオノーラがデザートのケーキにフォークを差す。
ルートヴィッヒは甘いものは滅多に食べないので、エレオノーラがデザートを食べている時は食後酒を嗜むことが多い。
自分なら2口で終わるケーキをエレオノーラは小さな口で少しずつ堪能している。
(この唇でいつか俺のを──)
ルートヴィッヒは無垢なエレオノーラを前に自分がヒドい妄想をしているのに気付いて愕然とする。
(今日は絶対に、最初から最後まで紳士的に優しくしなければ。エレオノーラの初めての夜なのだから……)
ルートヴィッヒはしどけない妄想の合間に朝から幾度となく自分に言い聞かせた言葉を呪文の様に繰り返した。
やっといつも通りの、体感は100倍の長さの夕食が終わった。
「ルド、私、その……湯浴みをしてまいりますので、寝室でお待ちいただけますか?」
「分かった」
食堂を出て夫婦の寝室の前で一度別れた。
エレオノーラと結婚してから何度も開いたこの扉が、今日は開けたら何だか違う世界に繋がっているような気がする。
アラベスクの刻まれた扉を開けて、毛足の長い絨毯を踏み進み、暖炉の中に薪を数本くべながら、ルートヴィッヒは自嘲した。
14歳になった時に初めて父から女性をあてがわれてから、今まで何人もの女性を抱いた。
己の性欲のせいで敵国につけ込まれないように、定期的に女性を抱くのは、国境を統治するフェルデン家の跡継ぎに生まれた者にとっては殆ど義務のようなものだった。
最初こそ興奮したり、緊張したり、快楽に溺れたりしたが、すぐに慣れてしまい、次第に女性に身体を開かせる自分に心底嫌気が差した。
相手の女性に失礼な態度も取りたくなかったけれど、優しくすれば相手に勘違いさせてしまう。
2日置きだったのが4日、5日置きとなり、エレオノーラと知り合う頃には十日に一度、お互いに割り切った関係でいられる女性と過ごす程度だった。
コンコンと控えめな音がして、寝室の壁にある扉が開く。
現れたエレオノーラはガウンの下に精緻なレースが胸元と裾にあしらわれた純白の薄いナイトドレスを着ていた。
長い髪はふんわりと左側にまとめられて、白いうなじがガウンの襟からのぞいている。
「お待たせ、しました……」
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